集結、反撃
第十三話です。
本格開戦で自衛隊が参戦。
果たして、日下部たちは無事に帰還することが出来るのか?
今週もよろしくお願いいたします!
1
国会議事堂前では左翼の活動家たちがシュプレッヒコールを上げている。
戦時下の状況下で話し合いをしろなどと、この期に及んで、寝ぼけたことを言う、状況認識能力の無さの時点で、彼らのIQの低さを感じた五十嵐だが、目当ての人物は衆院の中にある事務所に籠っているらしい。
「奴は罷免されたんだろう?」
「どうですかね? 捜査の手が及んでいることは気取られているとは思われていないですが?」
菅原にそう言うと、マル被の羽川義信防衛大臣の通話を盗聴するが、相手に繋がらないらしい。
これがピョンヤン・イェオンダエから指定された連絡先か。
だが、当然、連中は足を残さない。
ピョンヤン・イェオンダエの与党側の大口献金者である羽川慶喜防衛大臣の逮捕、拘束が至上命題で、そこから、芋づる式に与野党問わずに同組織に資金援助していた、国会議員と各省庁にいる官僚たちを一斉に逮捕する。
それが俺たち、ゼロにとっての大仕事だ。
今回は裏金騒動なんて、目じゃないぐらいの大騒動になるだろう。
何せ、与野党問わずに国会議員と官僚たちが国際的テロ組織に資金援助をしていたのだ。
これは・・・・・・国が崩壊してもおかしくないな?
「管理官、笑っていますよ?」
菅原がそう言うと、五十嵐は「今年は仕事がはかどるなぁ? 二十年以上前だが、自明党の裏金を明かした、左翼のマスコミはこういう高揚感に包まれていたんだなと思うよ・・・・・・今度は警察がそれをやる」と言って、ほくそ笑む。
そう言って、五十嵐は缶コーヒーを飲み干す。
ラジオで聞いていたが、北海道には自衛隊が向かい始めたらしい。
俺たちも都内で戦うのさ。
五十嵐はただ、ひたすら、マル被の羽川の動向を待つことにした。
外では見当違いの正義を叫ぶ、活動家たちの叫び声がこだましていた。
2
「日向? 大丈夫か? お前?」
統括小隊長の出口がそう、日向巡査の顔を覗き込むが、本人は震えが止まらないようだ。
それが寒さからなのか、実戦経験が乏しい、新人がいきなり、新型機を任された挙句に戦場のど真ん中で、ソルブスで武装された、ロシア兵を二十四人も切り刻んだことに対する恐怖心からかは分からない。
だが、言えることはただ一つ。
精神的にやられて、当然だ。
「・・・・・・僕は人を殺したんです」
「韓国の時も殺しただろう?」
「あの時は初陣だったから、気分が高揚していて・・・・・・でも、これはあんまりにもひどすぎる」
日向はそう言って、頭を抱える。
亜門も学生時代に実戦を経験して、似たような感覚を覚えたので、日向の気持ちはよく分かっていたが、専門家でない、自分が相談に乗れることは無いだろうなとは思えた。
「メシア、静かすぎると、思わないか? 敵が攻めてこない」
「・・・・・・察するに敵からしたら、警察なんかにやられると思わなかったから、戦術を立て直しているんだろう? その間に今いる、陸自の部隊で地雷を設置して、塹壕を掘っている。その時間を作っただけでも、北海道に来た甲斐がある。ロシアは混乱を起こして、俺たちに時間を与えてしまった。敵に補給の時間を与えるのは致命的だと教わらなかったのかな?」
そのような会話をしていると、海原が「亜門君、もう、慣れたの? 戦争?」と聞いてくる。
「海原だって、二十人以上は狙撃しただろう」
「三十七人だよ。全員の脳味噌を撃ち抜いた」
「最新鋭機で多少は狙撃の違いが出たのか?」
「だいぶ、撃ちやすくなったね。視界がクリアだし、クレッシェンドが全部、計算もしてくれて、人力で頼っていた分が楽になった」
「まぁ、暇だけどね? 狙撃手は待機時間が長いから、楽に越したことは無い」
クレッシェンドの自立志向型AIが鼻に付く、言い回しでそう答える中で、上空には陸上自衛隊のオスプレイが飛来してくる。
吹雪の中で無理やりに飛んで来たか・・・・・・
さすが、コンプラ度外視の自衛隊。
「増援か」
「俺たちはこれで、お役御免だ。東京に帰るぞ、亜門」
「良いのか? 僕たちは帰って?」
亜門がそう聞くと。
「警察は戦争をしない前提だ。後は軍に任せれば、良い。帰ろう。引継ぎだけしてな?」
その瞬間に亜門は膝から崩れ落ちた。
「やっと、帰れる・・・・・・」
「亜門君・・・・・・やっぱり、怖かったんだ?」
海原も笑い出す。
「うん、おせちはまだあるかなぁ」
そう言う、亜門に対して、海原が抱き着く。
「海原ぁ?」
「生きている実感を感じたいよ」
「僕、所帯持ちだよ!」
「うん、帰れるから・・・・・・これほど、ありがたいことはない」
そう言う中で、出口が「一場、不倫はダメだぞ」と言い出す。
日付は一月四日、午後二時過ぎ。
陸自への状況の引継ぎが始まろうとしていた。
3
オスプレイから降りた、日下部は一場亜門に駆け寄る。
「一場分隊長、不倫はダメです」
「あれを見られていたか・・・・・・違うからね! あれは海原が・・・・・・」
「日下部! お前、何を遊んでいるんだよ!」
手塚が奥から、そう呼びかける。
「じゃあ、後は我々が引き継ぎます」
「あぁ・・・・・・日下部さん!」
亜門はそう言うと、まっすぐにこちらを見つめる。
「死ぬなよ」
「無論です。人生は楽しいことだらけなんですから」
そう言って、日下部は部隊の方へと向かう。
そこでは古谷が全員を前に立っていた。
「遅いぞ」
「すみません」
そう言った後に簡単なブリーフィングが始まる。
「各員、狭いし、墜落する危険性のあるオスプレイの飛行によく耐えた。諸君らは戦場のど真ん中に立つわけだが、ここからは死線の世界だ。全員、覚悟を決めろ」
隊員たちの目は真剣だ。
誰もが、皆、戦場に赴く覚悟なのだ。
ここでは、臆病風に吹かれている者はいない。
「私には恋人がいる、だからこそ、私にも言えるし、諸君らにも言えることがある・・・・・・全員に生きていて欲しい。生きて、帰るんだ。この戦争は勝たないといけない。イデオロギーとか日本の国土防衛とかではなくて、大事な人たちのところへ帰るために私たちは勝たないといけない」
古谷は目頭を抑えながら、そう言う。
隊員たちは真剣な表情のままだ。
「だから、私の最大の命令はただ一つだ。全員、死ぬな」
そう、古谷が言った瞬間に全員が敬礼で返した。
「みんな・・・・・・ありがとう。しばらく、待機していてくれ」
そう言って、古谷が奥へと引っ込む。
「日下部三曹! 来なさい!」
そう言われて、日下部は古谷の元へ行く。
「少し、意味不明だったかな?」
「隊長が泣いたという時点で、隊員たちは奮起しますよ・・・・・・ただ・・・・・・・」
「何?」
「隊長に彼氏がいることを堂々と公言して、みんながショック受けないかな? 一部の人は知っていますけどね」
そう言われた、古谷は笑いながら「君には私の身の回りを手伝ってもらう。戦闘もこなしてもらうが、私の傍から離れるな」とだけ言った。
「えっ? でも、江草曹長がーー」
「女の君に任せたいこともあるんだよ。同性の間でしか、やってもらいたくないこともある。出来るか?」
日下部は「やりますよ・・・・・・ただ、隊員たちには配慮してください」とだけ言った。
「助かるよ」
そう言って、古谷は日下部に抱き着く。
相変わらず・・・・・・この人は距離感が近いな。
そう思う中でも、オスプレイが次々と戦地に運ばれていく。
日付と時刻は一月三日午後二時四七分。
北海道の吹雪が日下部には堪えていた。
4
蓮杖渡は自身に渡された、最新鋭機のドラガワイバーンに声をかける。
「ようやく、お前の好きな戦争になるぞ」
「ふふふふ、そうか? 今度はロシアとマフィアが相手か? どんな戦闘になるんだろうなぁ?」
作戦のことには触れないか?
このAIは知的レベルでは一場のメシアには劣るだろうなと蓮杖には思えた。
かつての神格教動乱時の血のクリスマス事件においての犯行グループの主犯格、江角大門が使っていた機体だが、そのスペックの高さから、封印を解いて、最新鋭機への改修を済ませ、俺に譲渡されたワケだが、犯罪者の使った、ソルブスが渡されるのは俺の自衛隊内での悪行が祟ってなのかは知らない。
だが、スペックの高い、機体が渡されるのだ。
別に悪くはない。
「祐樹、ゴウガ玄武の調子はどうだ?」
相川祐樹二等陸曹にそう声をかけると、同人は「新たに陽電子ライフル二丁とナノドローンにガトリング砲や従来の装備を転送システムで送り込むことが出来る。かなりの重装備だが、コアモード移行時も同じような装備が使えるのはありがたい」と静かに言い放った。
「祐樹君、今回は戦争だから、思う存分、やり切ろう」
ゴウガの子どもの声音をした、AIがそう言うが、相川は「無論、そのつもりだ」とだけ言った。
「つれないなぁ?」
「お前が空気が読めないだけだよ」
そう、蓮杖とゴウガのAIがやり取りをしていると、村田が帰ってきた。
若い隊員たちが行っている、塹壕掘りを見ていたらしい。
「真面目なもんだねぇ。今の若いもんは真面目だなぁ?」
そう言った後に村田は「へっ!」と笑い出す。
そして、タバコを吸う。
タバコは・・・・・・車の中か?
「おやっさん、一本、良いかな?」
「良いぜ・・・・・・お互い、最後の一本になるかもしれないからな?」
そう言って、蓮杖は村田からタバコを分け与えて貰う。
最後の一本ねぇ・・・・・・
古谷のところの中隊は生き残る気、満々だが、俺はいつ死んでも構わない。
戦争で死ぬならば、本望だ。
国の英雄として、死ねるのだから。
そう思いながら、タバコを吸う、自分と村田を相川は迷惑そうな顔で見つめる。
「嫌なら、古谷や斎藤のところへ行っていいぞ?」
「あの二人は苦手だ。優しすぎる」
「そうか? 奇特な奴だな」
そう言う中でも、吹雪の中で、タバコを吸い続ける。
日付と時刻は一月四日の午後十六時二分。
前線の構築が急ピッチで進められていた。
5
「我々は根室に再度、攻め入ります!」
ヤヌーコフがそう大声を上げるが、画面の向こうのロシア軍上層部は苦い顔をする。
「大佐、時間が経ち過ぎている。連中に何故、補給の時間を与えた?」
痛いところを・・・・・・
正直に言えば、警察相手に大敗をしたため、動揺をしていたが、思った以上に敵軍の装備が優秀過ぎるのにも驚愕していた。
誇り高き、ロシア軍人の私が日本の警察ごときに恐怖を覚えて、判断を間違える?
面白いじゃないか!
これだから、戦争は止められない!
「・・・・・・アメリカが参戦すれば、確実に我々は負けるよ。大佐」
「それはあり得ません! アメリカは現在は政権移行期で、事実上、大統領不在で次期大統領は日米同盟に懐疑的だ。攻め入るならば、今ですよ!」
ヤニ―コフはそう熱弁するが、軍幹部たちは「カラヌーエワ特務曹長とバィティエのコンディションは?」と聞き出す。
「順調ですね。投入すれば、日本軍などは全員、八つ裂きにして差し上げる」
ヤヌーコフがそう言っても、軍幹部たちは苦い顔を崩さなかった。
「まさか、日本の警察にまで、アメリカの装備が行き届いているとはな?」
「レインズ社製の装備でしょう? あれには客観的に見て、ロシア製の兵器では勝てないですよ。誰がこのようなプランを立てたんだ?」
「クレムリンの強行派ですよ。大統領に進言して、北海道侵攻を決めたそうだが、大統領もアメリカが加勢することを考えていない。ウクライナ紛争でも数日で勝利を決めるはずが長期化して、泥沼になったことを忘れている」
「戦争は長期化すれば、お互いに不利になりますからね・・・・・・孫氏の兵法でも言われております」
軍幹部たちがそう話し合いをしていると、ヤヌ―コフは机を叩いて「将校の皆様はいつから、そのような敗北主義の考えをするようになったか! 我々は誇り高き、ロシア軍ですよ? ナポレオンやヒトラーにも勝った、誇り高き軍隊だ! それを忘れたワケではなかろう?」と挑発的に言い放つ。
「君がトルストイの『戦争と平和』を愛読書にしているのは知っているが、君は日本軍を舐めてかかっている、現に警察相手に判断を間違えただろう?」
「そして、連中の背後にはアメリカがいることを忘れるな?」
「君の昇進がかかっているが楽しみだよ?」
そう言って、幹部連中との通信は終わった。
「弱虫どもめ!」
そう、ヤヌ―コフが苛立ちを見せる中で、治道は「言ったろう? あいつらは強いって?」とだけ言った。
「敗走したあなたに言われたくない・・・・・・ニコライを呼べ!」
そう言って、部下の士官に命令する、ヤヌ―コフは焦燥を露わにしていた。
6
治道は目の前で追い詰められる、ヤヌーコフを見て、確信した。
これは負けるな。
何処かしらで、こいつらを切らないといけない。
もっとも、アメリカが参戦しないことを祈るだけだが?
「大佐・・・・・・僕は勝つよ」
そこにニコライが現れる。
小さい身体に軍服を来た、同人が幼い顔立ちに不敵な笑みを浮かべる。
「そうだよ、ニコライ、我々は負けないんだ・・・・・・・」
そういう、ヤヌ―コフは歪んだ笑みを浮かべる。
現実逃避だな?
そう思っていた時だった。
「大佐をバカにするな」
ニコライがそう、治道に言い放つ。
こいつは心が読めるんだったな?
「レイチェルのところへ行く」
そう言って、ヤニ―コフの元から離れる。
恐らく、ロシア軍を切るという考えもバレているな?
獅子身中の虫。
もっとも、最初から、味方とは思っていないが。
治道は指揮所代わりの民家から外に出たが、吹雪は治まっていなかった。
7
吹雪が吹く中で、陸自の歩兵たちが周囲をせわしなく、動き回る。
古谷中隊長の話だと、アメリカ軍から提供された衛星の情報で、ロシア軍が大規模な反攻を行う兆候があると分かったらしい。
故に歩兵部隊はすぐにロシア軍が攻め入ることを視野に入れて、せわしなく、動いているのだが、日下部は古谷の横で銃を整備していた。
「恐らく、砲撃を仕掛けてくる。当たりどころが悪ければ、死ぬな?」
古谷は冷静にそう言うが、日下部は手の震えが止まらなかった。
まただ。
また、私は死を恐れている。
「怖いのか?」
「はい・・・・・・私はとてつもなく、死を恐れています、隊長」
古谷はふっと笑い出す。
「それは人としては自然な感情だよ。それに私は戦争で恐怖を一切、感じないなんて奴は人として、信頼しない」
「そう・・・・・・なんですか?」
「そういう奴は真っ当な人間じゃない。戦争狂なんて、人として、最低だよ」
古谷はそう言うと、コーヒーを飲もうとする。
「トイレが近くなるかな?」
「眠気覚ましには良いと思いますけどね? それに歩兵として、戦争に参加する以上は何処かしらで、洩れますよ」
「ただ、私たちは女だからね・・・・・・男たちは気にしないだろうけど? まぁ、ソルブスを装備しているから、バレないだろうけどーー」
そのような談笑を行っている時だった。
砲弾が指揮所の近くに飛んできた。
「砲弾だぁ!」
歩兵たちの断末魔の叫び声が聞こえる。
「各小隊! 聞こえるか! 応答しろ!」
(中隊長! 十二名が死傷したそうです!)
「ウチの部隊は?」
(無事です。どうされます? 反撃しますか?)
江草がそう言う中で、古谷は一瞬、考える。
しかし、判断は早かった。
「統合作戦司令部及び陸上総隊からの命令を待っていると、遅い! 私の権限で反撃を許可する。行くぞ!」
(了解! 中隊を小隊に編成後に反転攻勢へと打って出ます!)
「頼んだぞ、江草曹長」
そう言って、通信は切れる。
「さぁ、日下部、行こう」
「はい・・・・・・」
そう言って、二人は吹雪が猛威を振るう、外へと出る。
「装着!」
「装着」
二人はソルブスを装着する。
日下部はライジングを装備するが、古谷が装備する新型ソルブス、リバーンが砂色のカラーリングのごつごつとしたフォルムを露わにする。
「リバーン、カラーリングを変更しろ」
「了解」
そう言って、リバーンは砂色から、白色へと身体の色を変化させた。
「行けるな? 日下部三曹?」
そう言って、リバーンがジャンプすると、バックパックを空中に飛ばし、それが分離すると、リバーンの頭部と下半身にくっつき、上の部分にはプロペラが装着される。
リバーンは戦闘ヘリの形態になることが可能なのだ。
日下部は飛行機能を使って、リバーンと共に吹雪の中を飛行する。
その間も自衛隊側の陣地への砲撃は治まらない。
恐らく、地上では歩兵が砲弾にさらされながら、移動しているんだろうな?
すると、古谷が「敵の戦車か・・・・・・破壊するしかないな?」と言い出す。
「T-92ですか?」
「あぁ、相手も本気ということだ」
そう言って、古谷はロシア軍のT-92の上空へホバリングを始めると、ヘルファイアミサイルを放つ。
戦車は爆砕した。
その後に後方から、陸自の10式戦車と16式機動戦闘車が駆けつける。
「まだ、来る・・・・・・日下部三曹!」
そう言われた、日下部は追加で二台で来る、T-92に対して、陽電子ライフルを転送した後に即座に放つ。
ライジングの陽電子ライフルはメシア朱雀の物とは違い、威力が小さい分、連射が可能なのだ。
もっとも、それでも、十分な威力なのだが。
そして、T-92は二台ともに爆砕する。
そこから、10式戦車と16式機動戦闘車と自衛隊の歩兵たちがどんどんと進撃していく。
そこに後ろから、二門の陽電子の光がロシア軍に向けて、照射される。
後方では相川二曹のゴウガ玄武が二門の陽電子ライフルで援護射撃をしていた。
そして、チャージが済むまでの間は迫撃砲で、歩兵たちを援護する。
「後方からの援護は十分だが、前方から敵機・・・・・・数だけは多いな?」
奥からはロシア軍のストロジェヴォーイ・ピョースが二十数機やって来る。
「こいつは骨が折れるな? だが、私たち、二人ならば、倒せるだろう?」
「・・・・・・不思議とそんな気がします」
そう言って、二人は大量の敵に向かって行った。
「隊長ぉぉぉぉぉ!」
すると、味方の陣営から、古谷の中隊の隊員たちが新型量産機、コンバットモスを着て、やって来る。
「遅いぞ! 大将をみすみす、敵陣に送り込むつもりか!」
「隊長ががつがつ進むからですよ・・・・・・」
「とにかく、全員、陣形を保て! 蹴散らすぞ!」
そう言って、古谷が機関砲を放ち始める。
敵機の数機は直撃を受けて、地上に落ちる。
中隊のコンバットモスもM16ライフルで撃ち、敵機もAK―74で応戦する。
そして、後方からは第一中隊と第三中隊が続く。
「迂闊に前に出るな、死ぬぞ?」
そう言って、蓮杖が新装備のドラガワイバーンのレーザーカノンを取り出して、敵戦車群に撃ち放つ。
「兵器の性能差が如実に出ているね・・・・・・」
「油断はするな。敵はプロの軍隊だ」
そう言って、蓮杖が前に出て、古谷が後方から援護射撃をする形で、戦車軍を中心に敵を倒し続ける。
残りの隊員たちはストロジェヴォーイ・ピョースと交戦を始める。
「日下部、撃てぇ!」
手塚がそう言うが、日下部は手の震えが止まらない
まただ・・・・・・
また、私は戦場で臆病風に吹かれている。
「チッ! 日下部!」
そう言いながら、手塚は小銃を照射して、敵機を撃墜する。
日付と時刻は一月五日、午前〇時一三分。
本格的に戦闘が激化していた。
8
治道はレイチェルのいる民家へと入った。
レイチェルは椅子に腰を掛けて、暖炉の火に当たっていた。
「大佐は相当、追い込まれているらしい」
「ロシア本国がアメリカの介入を恐れているからでしょう?」
知っていたか・・・・・・
「羽川優実はどうする?」
「置いていく。ピースメーカーの存在を公にしたんだから、もう、必要は無いな?」
つまりはYouTube上で、ピースメーカーの存在の公表を求めて、日本政府にロシア軍を交えて、ドンパチを起こした時点で、日本国民の興味はそれに移るということだ。
要するに目標は達成されて、戦争の結果は問わずに言えば、俺たちが真の意味でこの戦争には勝利したということだ。
あとはロシアの連中をいかに切り捨てて、とんずらをーー
その時だった。
ミサイルの音だ。
「レイチェル! ミサイルだ!」
「分かっている!」
そう言って、二人は「装着!」と言って、第四世代ソルブスのフェンリルとアーサーを装備し、民家を蹴破り、外へと出た。
そこには紫と黒のカラーリングをして、まるで、悪魔の化身のようなフォルムをした、ソルブスが上空を滑空していた。
「李治道とレイチェル・バーンズ・・・・・・君らは大佐を裏切った」
ニコライか。
となると、あれが、バィティエとかいう、ロシア軍の最新鋭ソルブスか?
「お前、心が読めるんだったよな? なら、分かるよな? 俺たちの狙い?」
「トゥセコンド」
そう、言った後にニコライのバィティエはアーサーの目の前に入り込む。
「くっ!」
「遅い!」
懐で、ミサイルを放とうとするが、治道がそこに格闘戦を仕掛ける。
「ワンセコンド」
そう言って、ニコライはその場を離れる。
「なるほど、一秒、二秒先を読んで、行動しているわけか?」
「何で、そんなこと分かるわけ?」
「昔に『ゲットバッカーズ-奪還屋-』っていう、漫画が好きで読んでいたけど、いちいち、そういうのを宣言して、未来を読む奴が敵キャラでいたんだよ」
「こんな時に漫画の話しないでよ・・・・・・」
治道とレイチェルがそのような会話をする中で、二人はニコライと相対す。
「僕は君らが嫌いだ。大佐を内心では小ばかにしている。だから、祖国ロシアのために君らは死んでくれよ」
ニコライがそう言いながらも、二人は何もせずにただ、同人に対して、睨み合いを続けるだけだった。
「驚いたな? 思考を閉じている? 君らが常人ではないことは認めよう。だけど、普通に戦えるよ」
そう言って、ニコライはミサイルを放つ。
レイチェルは西洋刀でそれを切り裂くが、治道に対して、発射された、それはホーミング機能のためなのか、いつまでも、追いかけてくる。
「治道!」
「させない」
レイチェルはニコライと格闘戦か。
なら!
そう言って、治道は地上へと急降下すると、一気に再度、上空へと浮上した。
ミサイルは付いてこれず、地上にぶつかり、爆砕した。
「治道・・・・・・大丈夫か? Gで内臓がやられるぞ?」
フェンリルのAIが心配そうに声をかける。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
「トゥセコンド」
そう言って、ニコライが再び、ミサイルを放つ。
「またかよ!」
「そのまま、内臓がやられてしまえば良い」
そう言って、治道は再度、同じ手を使う。
こんなの、続けていたら、俺、リアルに死んじゃうよ。
そして、先ほどと同様にミサイルが爆砕した後にニコライの笑い声が聞こえる。
「滑稽だなぁ? もうちょっと、遊ばせてくれよ?」
このガキ・・・・・・
そう思った時だった。
「強さに年齢は関係無いんだよ? お兄さん?」
心を読んだ、ニコライに対して「お兄さんと言うだけ、お前は良心的だよ」とだけ言った。
吹雪が舞う、上空で二体一のにらみ合いが再び続いていた。
9
歩兵たちの進み具合が遅い。
戦車は撃退したが、敵の歩兵戦力がまだ、粘っているらしいな?
そう感じた、古谷は上空から、敵歩兵部隊に対して、攻撃をしようかと思ったが、歩兵部隊の小隊長から、援護の要請が来ないのだ。
まだか・・・・・・
粘られて、消耗するだけだぞ?
(キョウビより、ヤタガラスへ! 航空支援を要請したい! オクレ!)
来たか!
(ヤタガラスより、オロチへ! 航空支援が要請された。攻撃を許可する! オクレ!)
そう言われて、古谷は「オロチより、ヤタガラスへ、了解した。攻撃を開始する、地上部隊は退避しろ、オワリ」と言って、リバーンのヘリコプター形態で敵歩兵部隊の上空に向かうと、機銃を掃射して、ロシア兵の肉片を作り続けた。
「日下部!」
「・・・・・・了解」
そう言って、日下部は上空からFNSCARの掃射で、敵歩兵部隊を蹂躙する。
しかし、狙いが甘かったが、他のコンバットモスもそれをフォローする照射を続けて、地上のロシア兵を惨殺する。
これはやっておいて、あれだが、いわゆる、虐殺だな。
と言っても、仕掛けたほうが悪いのだが。
そう言った後にロシア兵たちが全滅した後に日下部はライジングを装着した状態で膝をつく。
「日下部・・・・・・」
「手塚・・・・・・ロシア兵が泣きそうな顔で私を見ていたよ・・・・・・」
「お前・・・・・・落ち着けよ! 戦争中なんだぞ!」
そう言って、手塚はソルブスの装甲越しに日下部の顔をひっぱたく。
「止めろ。ソルブスを着ている状態で、顔面を叩くんじゃない」
そう言って、日下部と手塚を注意していた時だった。
遠くの港の方だろうか?
何かがおかしい。
「リバーン、港の方の上空をズームで見せてくれないか?」
「了解」
そう言って、拡大された、映像を見ると、フェンリルとアーサーがいた。
奥にいるのは、新型か?
だが、何故だ?
敵の新型とフェンリルとアーサーが何で、相対す形になっている?
仲間割れか?
確かに軍とマフィアじゃあ、求める利害が違うが・・・・・・
気になるな。
古谷は膝をつく、日下部を見た。
不安だが、自分だけでは無理だ。
一番強い、日下部を連れて行くしかない。
「日下部三曹! 港の方にロシア軍の新型とピョンヤン・イェオンダエの第四世代機が相対す形でいるが、調査したい。付いてこれるか?」
そう言うと、日下部は「第四世代機・・・・・・あいつらですか?」と聞いてくる。
「そうだ、李治道とレイチェル・バーンズかもしれない」
古谷がそう言うと、日下部は無言で立ち上がった。
「やる気が出て、よろしい! 付いて来い!」
そう言って、日下部は上空へと飛び立ち、古谷のリバーンと共に港へと向かうことにした
時刻は午前〇時三四分。
情勢は現在時、自衛隊側にとって、優位な情勢下ではあった。
10
かれこれ、二十分以上だろうか?
バィティエとのにらみ合いが続いている。
「そろそろ、動きなよ? 寒いじゃないか?」
思考を閉じている、治道とレイチェルは何も答えない。
「参ったなぁ? 思考が読めないんじゃあ、膠着状態が続くばかりだ?」
そう、二コライが言った時だった。
「新手か?」
そう言って、ニコライは反転をした。
「君らの粛正は後だ。とりあえず、主たる敵の日本軍が来たから、倒す」
そう言って、バィティエは飛行機能を使い、何処かへ消えていった。
「何なんだ? あいつ・・・・・・」
「気まぐれね。そういうまとまっていないところが、まだ、十歳児だと思う」
まぁ、これで、戦闘は当面避けられるが、心が読めるあいつにはロシア軍を切り捨てる考えがバレただろうな?
そう思った、治道はミンギに連絡した。
「大尉? 聞こえるか?」
「治道さん、どうされました」
「予定通りだ、撤退するぞ。邪魔する奴はロシア軍であろうと、自衛隊であろうと、全員、蹴散らせ。北海道から脱出する」
「了解しました」
これで、後は国外に逃亡すれば良い。
オホーツク海側の向こうを抜ければ、協力者たちの船がある。
そこにさえ、逃げられれば、迂回して、東南アジアに逃げようか?
犯罪者の逃げどころと言えば、大体が東南アジアだが。
「レイチェル、寒いのはもう、嫌だから、暖かい国に逃げるぞ」
そう言って、治道は海に向かって、飛行する。
「上手く、行くの?」
「父さんの時代からの伝手だ。余程のことが無い限りは信用できるよ。在日は同胞に対する、結束が強いんだ」
そう言われた、レイチェルは後から付いてくる。
作戦成功だ。
あとは逃走と生存にさえ、成功すれば良い。
思う通りにピースメーカーに対する、追及が始まれば、自分たちはもう、永遠に表舞台に立たなくて、済む。
そうすれば・・・・・・
「治道」
レイチェルが話しかける。
「お疲れ様」
「帰ろう、家は無いけど」
そう言った後に二人は海をひたすら、飛行し続けていた。
吹雪はまだ、治まらない。
続く。
次回、機動特殊部隊ソルブスアサルト 最終話。
最終決戦。
彼女たちは最強の敵を倒し、帰還することは出来るか?
乞うご期待!




