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機動特殊部隊ソルブスアサルト  作者: 日比野晋作


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1/14

彼女たちの戦争

 最新作!


 四月に長編では久々の完全最新作です・・・・・・恒例の「機動特殊部隊ソルブス」シリーズですが!


 まぁ、とにかく、ヒットすると良いなぁ。


 皆様、夏までよろしくお願いいたします!




 日下部桜三曹は目の前で怪物になった、親友である、吉川香里三曹に相対していた。


「あなたがこいつらを殺したい気持ちは分かる! でも、私たちは自衛官でしょう! お願いだから、戻って! 人でなくなってしまう!」


 しかし、怪物になった吉川は無言のまま、薔薇と人間を合わせたかのような体で腕を伸ばし、男性自衛官たちの脳髄を腕で貫通させる。


「もう、戻れないの? 香里!」


 桜が香里に駆け寄ろうとする中であるある女性自衛官が桜に覆いかぶさった。


 香里が攻撃してきたからだ。


 香里が私を攻撃してきた?


「友情というのは儚い物だ。あいつを弄んでいた男どもへの憎しみが勝るんだからな」


 香里が人でなくなってしまったショックも大きいが、今はこの女性自衛官の声を冷静に聞いていた。


 確か、この人は東京から来た、幹部自衛官で古谷水姫一尉という人だ。


「日下部三曹? 君は友達を殺すことが出来るか?」


 古谷の言っていることが分からない。


 香里を殺せと言うのか?


「君が道を拓け。力は渡す」


 そう言われて、古谷が渡した、コンタクトレンズを見上げる。


「戦って。君の苦しみが分かった上でのお願いだから」


 日下部は戦場となった駐屯地で男たちの断末魔の声を聞いていた。


 

 十二時間前。


「起床!」


 ラッパの音が聞こえると同時に飛び起きる。


 ここは福島県にある陸上自衛隊郡山駐屯地だ。


 日下部を含めた、女子隊員たちは飛び起きたと同時に急いで、戦闘服へと着替えて、身の回りの準備をする。


 陸上自衛官になって、七年。


 新人ではないし、下士官の三等陸曹になって日が浅いけど、だいぶこの光景は慣れた。


 ただ、気になることがあるとすれば・・・・・・


 着替えを高速で終えて、グラウンドに向かうと、そこには陰湿な笑みを浮かべた男性隊員たちがいた。


 またか?


 日下部も何度かは経験したが、郡山駐屯地は伝統的に女性隊員へのセクハラが横行している。


 かつて、ある女性隊員が除隊した後に自衛隊内のセクハラを告発して、組織改革を行おうとする機運があったが、組織の体質というのは簡単には変わらないものだ。


 自衛隊内でのパワハラやセクハラは二〇四六年の夏においても残っているというのが現状だ。


 だが、ここ最近においては日下部は基本的には相手にされない。


 別に特段、容姿に問題があるとは自分では思わないし、学生時代はどちらかと言えば、モテた方だ。


 ただ、元々の気の強さとかなりの性根の悪いと言えるほどのひねくれた性格に自分のコンプレックスである高身長で胸が小さいという四重の要素が相まって、この男性隊員たちからは次第に相手をされなくなった。


 というか、一度、全員を返り討ちでボコボコにして上官に訓告を食らったことがあるので、この隊員たちの中では「日下部はマジでヤバい」という空気にもなっただろう。


 よって、今、男性隊員たちのターゲットは同期の吉川香里三曹なのである。


 彼女は単純に胸がデカい。


 美人ではないが、元来の優しい性格も災いして、連中の玩具に成り下がっているのは日下部も歯がゆく感じていた。


 しかし、この駐屯地では誰に訴えてもダメだ。


 故に諦めも抱いていたが、朗報があった。


 東京から幹部自衛官が来るらしい。


 確か、ソルブス歩兵連隊とかいう部隊の中隊長で女らしいが、何を好き好んで、こんな田舎の駐屯地に来るかは分からないのだが・・・・・・


 だが、中央の女性幹部に告発出来れば・・・・・・一発逆転もあり得るかもしれない。


 そう思っていた中で香里は泣きだしていた。


「泣いて、許されると思うなよ? あとで部屋来い」


 男性隊員たちの下品な笑いが響く中で、桜は唾を吐きたい気分になっていた。


 仲間を大事にしない、組織なんて、最低だ。


 こいつらは軍人じゃない、外道だ。


 日下部は見えないところで本当に唾を吐いた。


3


 郡山駐屯地へ向かう車内で福島の田園風景を眺める。


 美しいな・・・・・・


 趣味の写真撮影で使う、愛用のカメラコレクションをホテルに置いてきたのを後悔していた古谷水姫一尉はこれから向かう、郡山駐屯地から東京へと引っ張る隊員、約一名のリストを眺めていた。


 日下部桜三等陸曹、二十五歳。


 ソルブスの操縦に関してはWAC(陸自女性隊員の総称)においては若手隊員の中では全国トップクラスの実力を誇るが、女性であることと元来の気の強さと少々の性根の悪さが災いして、男性隊員を返り討ちにして、上官からの訓告処分を一回受けた等々、中々に面白い、隊員ではある。


 趣味は読書で主に新書、特に戦史や戦術書など戦争に関するものを好むか?


 下士官でありながら、中々、向上心もあるようだ。


 古谷個人的にはドストエフスキーや太宰治などの古典的な小説が好きなのだが、中には大した読書もせずに試験の成績だけで幕僚になって、無責任な発言をして、最後は政治の世界に入り、道化を演じて、犯罪に手を染め、キャリアを終えた、軍人の恥と言える輩もいたが、そういう連中は彼女を見習ってほしいな?


 出身地は神奈川県鎌倉市で両親と周囲の反対を押し切って、陸自入隊。


 群馬出身の田舎者の自分が言うと、都会へのひがみに聞こえるかもしれないが、あそこの地域は文化人気取りが多いから、リベラルな空気で充満しているのだろう。


 そこを飛び出して、軍に志願か?


 好意に値するな?


 古谷は笑みを浮かべざるを得なかった。


「古谷中隊長、視察と日下部三曹を拾ったら、土産を買いに行きたいそうですが?」


「みんなの分を買いたい。特に頼まれ物もあってね?」


 彼も海産物を買ってこいと、無理難題を言う。


 日持ちがしないのだ。


 一応はクーラーボックスを持ってきたが、大きな荷物だ。


 疲れて、しょうがない。


「随分と・・・・・・世代的に私は震災の事は知らないが、復興は進んでいるか?」


 そう運転手を務める隊員に聞くが、隊員は「もう被災地として見られるのを福島は望んじゃいないんですけどね? ただ、原発の問題があるので・・・・・・」と口を濁した。


 原発か?


 二〇四六年現在になっても、東京電力福島第一原発は解体の途中で、廃炉までには更に時間がかかるというのが現状だ。


 だが、政府は原発回帰を進めて、今の時代では更なる原発建設も進む程にまでになっていた。


 まぁ、一介の自衛官がどうこう言える問題では無いし、興味も無いのだが。


 一通り、資料を読み終えると隊員が「古谷中隊長、郡山駐屯地の評判は知っていますか?」と聞いてきた。


「芳しくないようだな? 特にセクハラが横行しているんだろう? 二十年ぐらい前の女性隊員の告発劇から一歩も進歩していないのが残念だがな? 私を心配しているのか?」


 運転手の隊員は赤面している。


「古谷中隊長も一応は女性なので・・・・・・」


「一応というのはどういう意味だ?」


 水姫は意地悪く、そう問いただす。


「そういう意味では・・・・・・」


「冗談だよ。ただ、そういう発言も今の時代は命取りになりかねない。気を付けることだな?」


 という事は確実に見られるな? 


 私の胸が。


 測るとEぐらいはあるのだが、戦闘訓練の時には邪魔でしょうがない。


 もっとも、意中の彼に近づいたときには大いに役立ったし、それを武器にする時点でコンプレックスにするどころか、むしろ、特権だと思っている自分の嫌な側面も自覚しているが、興味の無い、男性隊員とジジイどもに視姦されるのは嫌悪感を抱くというのが、本音だ。


「付きましたよ。覚悟は良いですか?」


「守ってはくれないのか?」


「それが任務であれば」


 そう言って、運転手の隊員は頬を赤らめた。


 かわいいな?


 車が駐屯地に付くと、隊員が先に降りて、後部座席のドアを開ける。


 そこに郡山駐屯地の司令官が現れる。


「お待ちしておりました! 古谷中隊長!」


 隊員全員が敬礼で出迎えるが、男性隊員の多くが自分の胸に注目しているのを感じ取った、古谷は拳銃があれば、ここにいる男どもを射殺したい気分になった。


 しかし、平然を装って「ありがとうございます。当該隊員は今どこに?」とだけ聞いた。


「訓練中ですが・・・・・・本当によろしいのですか? 彼女は素行に問題がーー」


「構いません。そのためだけに来ました。後は観光ですよ」


 司令官の表情に困惑が広がる。


 その一方で出迎えの下士官クラスや一兵卒の男性隊員たちがにやにやとしながらこちらを眺め続けているのが気になった。


 どうやら、隠れて、猥談に興じているようだ。


「こちらへ」


「ちょっと、待て」


「はぁ・・・・・・」


 水姫は男性隊員たちの下へ行く。


 男性隊員たちが色めき立つ。


 しかし、彼らの期待には応えない。


「君たち、私の直属の部下だったら、全員、修正と言う名の体罰を受けるか、もしくは職を失うことになるぞ?」


 そう言われた隊員達は唖然とした表情を浮かべるが、水姫は「時代を考えろ、バカ者。ましてや、若いならばな?」と言って、その場を去った。


「あの、何が?」


「このことは防衛省に報告させてもらう。日下部三曹を回収後、あなたたちには監督責任を取ってもらう」


「我々が何を!」


 それに気付かないのが命取りだったな?


 古谷は多くの男性自衛官の人生を終わらせたことに恍惚の表情を浮かべたかった。


 さぁ、仕事だ。


 4


 日下部はソルブスを使った、戦闘訓練で男性隊員をペイント弾で撃ち抜いた。


「強い・・・・・・」


「だから、言っただろう・・・・・・日下部は相手にするなって?」


 隊員達が諦めの表情を浮かべる中で、香里にセクハラを行うグループが「日下部、俺たちと模擬戦やんない? ただし、四対一」と言ってきた。


 別に構いはしない。


 数で押しても、弱者は弱者だ。


 絶対的な実力差に敵うワケがない。


「良いですよ」


 そう言って、日下部と四人の男性隊員が向き直る。


「装着!」


 そう言って、セクハラをする四人の体に濃紺の閃光が走る。


 警視庁から払い下げられた、大石重工製のガーディアンを着た、四人組と日下部はすぐに空中戦に興じた。


「すぐに掴みかかれ! 四人がかりでやれば、倒せる!」


 力づくか?


 能なしのやる事だ。


 戦術も何も無い。


 この場合、数で勝るならば、アメリカ軍が零戦攻略用に編み出した、ヒット&アウェーに徹する、ランチェスター戦略を適用できるが、ろくに体力だけで陸自に入隊できたことを自覚していない連中だ。


 一人ずつ、なぶり殺しにしてやる。


「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 一人目が日下部に抱き着こうとする中で日下部はペイント弾を片手で撃ち、胴体を撃ち抜く。


 そして、空中で蹴り飛ばす。


「ぐふぅ!」


 そして、ペイント弾で頭部を撃ち抜く。


 この至近距離であれば、ペイント弾であっても脳震盪の一つは起こす。


 一人が墜落をした。


 撃墜。


「八島ぁ!」


「日下部! お前、何てことすんだよ!」


「知らないですねぇ? 売られた喧嘩は買いますよ? 何だったら、香里への性的暴行も止めてもらうことと、私が職を辞することを賭けても良い」


「てめぇ・・・・・・ぶっ殺す」


 啖呵を切ってしまった。

 

 また、上官に訓告を食らうだろうな?


 しかし、何か、視線を感じた。


 建物の中から、陸自の制服を着た、女が微笑を浮かべて、立っていた。


 キレイな人だな・・・・・・


 しかし、すぐにペイント弾が飛んでくる。


「覚悟しろ! 壁女! お前も犯してやる!」


 それを聞いた、桜は装甲越しに笑いながら「はぁ?」とだけ言った。


「とりあえず、先輩? チ●コ去勢してやるから、覚悟してくださいよ。全員、二度と子作り出来ないようにしてやりますよ」


 桜はペイント弾を空中で放ち、三人になった集団から距離を取る。


 接近戦に持ち込みたいが、間合いが重要だ。


 桜はこの混戦を楽しみながら、ペイント弾を撃ち続けていた。


 気が付けば、また一人、撃たれた。


 そして、間合いを詰めて、蹴りを入れて、墜落させる。


「バァカァ!」


 二人になった男たちがお互いを見合う。


「降参だ! 日下部! 俺たちが悪かった!」


「終わらせるなよぉ! あんたたちを玩具にしてやるよ! 香里が受けた苦しみをあんたたちも受ければ良い!」


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 そう言って、二人は背中を見せて、逃亡を始めた。


「敵前逃亡は銃殺刑ですよ? 諸外国じゃあさぁ?」


 ぬるいんだよ、軍人のくせに。


 日下部は中途半端ないじめっ子を破滅に追い込む、ゲームに没頭していた。



 素晴らしい、戦闘センスだな?


 日下部桜のソルブスを使った、戦闘訓練の風景を見ていて、古谷は笑いが止まらなかった。


「あの壁女は・・・・・・こんな大事な時に!」


「すぐに止めさせろ! 大事な男性隊員が怪我する!」


「無能なエテコウが怪我をしても構わない。その壁女を東京へ連れて行くので、お願いします」


 それを聞いた、司令官と幹部達が「日下部でよろしいんですか? あいつは訓告の処分を受けたことがあるんですよ?」と狼狽を声音に出していた。


「指導監督をする指揮官が無能だと、優秀な兵士も腐りますよ。我々だったら、彼女を有効的に扱える」


 それを聞いた、司令官は「それはつまり、我々が無能だと言いたいのですか?」と言って、顔を歪める。


「よく分かりましたね? 壁女と言う時点で日下部三曹の冷遇ぶりがよく分かります。東京ではそのようなことはさせない。さっさと引き渡して頂きたい」


 水姫がそう言うと、幹部の内の一人が「失礼だ! あなたは!」と大声で怒鳴り上げる。


「その若さで中隊長だからと言って、あまりにも図に乗った発言が多くないか? 古谷一尉? あんた、いくつだ?」


「三十三歳ですね。昇進のスピードは要領の良さですよ。未だに幕僚になれないあなたたちと違ってね?」


 司令官と幹部達は憤怒を顔に表す。


「女で幕僚などと・・・・・・」


「実例はある。私をその先を行く。女性初のバクチョウ(幕僚長の略)が私の目的です。そのために最強の兵士が必要だからこそ、あなたたちが壁女と蔑む、彼女を頂きたい」


 古谷は出された茶菓子には手を出さなかった。


 薬でも盛られていたら、東京にどんな顔をして戻ればいいのだ?


 彼にも顔向けが出来ない。


「それともう一つ。ここに来るまでに運転手をしていた、若い隊員はソルブスを扱えますか?」


「手塚まで・・・・・・あいつまで、引っ張るのか! あんたは!」


 水姫は微笑を浮かべる。


「見どころがある青年だ。少年のようだが? 良いだろう? みんな?」


 随行していた、部下の斉田曹長と板倉一曹が「よろしいのですか? ここまで一本釣りして?」と困惑を口にする。


「構わない。蓮杖君だってーー」


 そう言った時だった。


 激しい爆発音が基地から聞こえた。


「何だ! 状況を知らせろ!」


 司令官が怒鳴ると、三十代ぐらいの男性隊員が「報告! 駐屯地内にキメラが出現!」と言い出す。


「キメラだと! 侵入を許したのか!」


「いえ・・・・・・・それが・・・・・・」


 隊員が口ごもる。


「はっきり言え!」


「吉川香里三曹がキメラ体になって、男性隊員を殺害しています・・・・・・・」


 司令官は唖然としていた。


「なるほど、内部からの反乱を招いたか? 斉田君、板倉君、制圧に動くぞ。それと可能であれば、彼女に新型機を渡してくれ」


「『ライジング』を渡すのですが、あれに付いている機能は・・・・・・」


「彼女はアムシュだよ。間違いなくね?」


 懸念を口にする二人を尻目に外に出ると、サイレンが鳴る、駐屯地の外へと向かう。


「楽しいじゃないか? 良い遠征だ」


 古谷は廊下を走り出した。



「おい、大丈夫か?」


「脳震盪を起こした上に派手に墜落で左手を骨折かよ・・・・・・日下部は味方相手でも容赦が無さすぎる! クビになってしまえばいいのに!」


 男性隊員たちがそう言いながら、日下部が落とした男性隊員の様子を眺める。


「味方ならば、あんなことしないでよ・・・・・・」


「吉川、お前、戦闘訓練中にどこ行っていたんだ? 今日はお客さんが来るからーー」


「味方だったら、私を犯したり、桜を壁女なんて言わない! あなたたちは味方じゃない! 敵だぁ!」


 そう言った後に香里は「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」と叫んだ後にキメラへと変体した。


「吉川・・・・・・お前、キメラになったのか!」


「自衛官ともあろうものが! お前、自分のやったことがーー」


 しかし、すぐに蔦上の腕を伸ばして、そうごねる男性隊員たちの首を絞める。


「吉川・・・・・・何故だ? 俺たちは仲間だろう・・・・・・」


 仲間だったら、何で、私や桜に酷いことをするの?


 それって、単なる都合の良い、繋がり依存とも言えなくもない縛りじゃない?


 大体、大事な仲間ならばもっと、大切に扱われるべきだし、性的暴行なんて働かない。


 あなたたちの方が自衛隊という組織の尊厳を汚している。


 私はキメラになったとしても自衛隊の膿をひたすら、浄化する為にこの駐屯地を潰す。


 全てはあの人たちの言っていた通りに・・・・・・


「美浜! 嬉野!」


「吉川ぁ! よくもぉぉぉぉ!」


 上空から戦闘訓練をしていた、日下部たちのグループとは別の隊員が迎撃に来る。


 手で首を抑えていた隊員たちの首を折ると、すぐに背中から蔦を出す。


 二体のガーディアンの足と腕を掴むと強い力で引っこ抜いた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! 腕がぁぁあぁ!」


 腕と足ぐらい何だよ?


 私はもっと、大事なものを無くした。


 粛正してやる。


 そう思っていた時だった。


「香里なの?」


 日下部だ。


 日下部が目の前にやってきた。


 そして、ガーディアンの装備を解いて、目の前で丸腰の状態で立った。


 君は変に純情なところがあるから、困るよ。


「香里。止めようよ! 私と一緒に自衛隊を変えようよ! こんなゴミどもを粛正しても香里が悪者扱いされるだけだよ?」


「もう遅いよ。今の私はキメラだから、もう自衛官ではいられないし、十分、犯罪者だよ。私を止めたければ、討てばいい」


「あなたがこいつらを殺したい気持ちは分かる! でも、私たちは自衛官でしょう! お願いだから、戻って! 人でなくなってしまう!」


 無理だよ、もう。


 友達だったけど、もう戻れない。


 だから、ごめん。


 私の為に死んで。


「もう、戻れないの? 香里!」


 その直後に香里が駆け寄ろうとする桜を攻撃する。

 

 しかし、その直後に戦闘服ではない制服を着た、女性自衛官が桜に覆いかぶさる。


 誰だ?


 階級章を見る限りは一尉か?


 幹部自衛官・・・・・・この人たちがモタモタしているから、あんな連中がのさぼる。


「友情というのは儚い物だ。あいつを弄んでいた男どもへの憎しみが勝るんだからな?」


 何を言っているんだ?


 こいつ?


 香里はすぐに攻撃を仕掛けようとしたが、日下部の顔を見ると、何故か、追撃が出来なかった。


 何で、動かないんだ! 私は!


 自分の非情に徹しきれない甘さに苛立ちを隠せない中で、背中の蔦では男性隊員たちを捉えている。


 桜は見逃してもいいか・・・・・・


 香里の中で迷いが生じていた。


 だが、男性隊員たちは確実に殺しているという矛盾にも似た状況を生んでいた。



 動揺をしている?


 日下部三曹の脆さを垣間見せたが、好戦的な態度が一変して、自分の友達が反乱を起こしたことで弱い、人間らしさを垣間見せたか?


 ますます、好意に値するな? この子は?


 古谷は目の前で壊れそうな彼女を抱きしめたい気分になった。


「日下部三曹? 君は友達を殺すことが出来るか?」


 我ながら、非情な事を言う。


 だが、私たちの部隊に来るにはここを乗り越えて欲しい。


「君が道を拓け。力は渡す」


 そう言われて、蓮杖から託された、スマートコンタクトレンズ、ライジングドライブを桜に手渡す。


「戦ってくれ。君の苦しみが分かった上でのお願いだ」


「私は・・・・・・」


 ライジング、彼女に問いかけてくれないか?


 分かった、彼女に賭ける。


 そう言って、ライジングが日下部に問いかける。


 日下部が目を見開くのを水姫は見逃さなかった。



 君の悲しみや苦しみを理解している。


 コンタクトレンズから声が聞こえる?


 何だ、これ?


 日下部は脳内に声が響く、奇妙な感覚を覚えた。


「何をしたんですか? あなたは?」


 目の前の古谷にそう問いかけると、古谷は「自立思考型型AI搭載ソルブスの新世代型最新鋭機、ライジングを装着する為のコンタクトレンズ。AIとの会話も脳内で行われる」と言いながら、優しく微笑む。


 君は戦える、君は強いから。


「無理ですよ・・・・・・・香里があんなになって、あんなクズどもを守れなんて? 何のためにそんな無駄なことをしなきゃいけないんです?」


「自衛官だからでしょう? 私たちはたとえ日陰者とバカにされても国民の人命を守ることに存在意義があるんだから?」


「あんな奴らも国民に含んむんですか?」


 日下部は納得が出来なかったが、目の前の古谷は「じゃあ、私のためとか?」と言い出す。


「・・・・・・私、女ですよ?」


「そう聞こえちゃうかぁ? 私も彼氏いるから、そこは大丈夫だけどさ?」


 そんな冗談を言っている場合じゃないと思うぞ


 目の前のコンタクトもツッコミを入れるのを桜は聞いた。


 だが、確かにそうだ。


 このままだと、駐屯地は壊滅だ。


 だが、香里は殺したくない。


 だけど・・・・・・私はだからこそ、こんな事をした香里を許せない。


「やります。だけど、戦い方は私に一任してください」


 そう言って、古谷からコンタクトを分捕る。


「やる気になって、何よりだよ」


 そう言って、古谷は微笑む。


 考えが甘いな?


 そんなことじゃあ、死ぬぞ。


 黙れ、機械の分際で!


 お前は私の言うことをただ、聞けばいい!


 そう言って、日下部はコンタクトを目に入れる。


 これがスマートコンタクトか?


 ディスプレイが視界に入ってきて、目の動きで操作できる。


 慣れるまで、時間がかかるけど、私ならば出来る。


 基本操作はスマートフォンとスマートウォッチのペアリング時と同じだ。


 装着と叫べば、私を着られる。


 分かっている。


 とにかく、今は香里を何とかしないと。


「装着!」


 そう言った後に桜を青色の閃光と稲妻にも似た、電撃の閃光が走る。


 青色に金色のラインが入った、ソルブスはスタイリッシュなフォルムだった。


 装備はナイツアーマーメントPDWとグロック17にバレットM82にH&K MP5に近接戦闘用にレーザー対艦刀にアーミーナイフ。


 データで見る限り、装備が多すぎるが、こっちは今、丸腰だぞ?


 どういうことなんだよ。


 そうAIに苦言を呈する。


 念じれば、出る。


 じゃあ、レーザー対艦刀!


 そう言うと、光が輝き始めて、レーザー対艦刀が目の前の手元に装備された。


 凄い・・・・・・これが新世代型ソルブスの性能?


 驚くのはまだ早いぞ? さっさと友達を止めに行くぞ。


 そう言って、ライジングを構成するAIが脳内で語り掛ける。


 分かっている。


 私が彼女を止めてみせる!


 そう言って、桜はライジングの飛行機能を使って、男性自衛官たちを殺害し続ける、香里の前に立ちふさがる。


「香里! もう止めよう!」


 しかし、香里は攻撃を止めない。


「邪魔しないで。こいつらは私が殺す」


「香里・・・・・・・私が止めるしか・・・・・・・」


 そう言って、桜は対艦刀を両手に持つと、香里目掛けて、突貫を始めた。


 迫り来る、蔦を切り裂き続けて、目の前に到達して、香りに対艦刀を突きつける。


「もう止めて! あなたが悪くなる必要はない!」


 そう日下部が言い放った時だった。


 香里は自ら対艦刀に刺され始めた。


 えっ・・・・・・何で?


「これでいいよ・・・・・・あいつらは許さないし、どっちみち、私もただでは済まない・・・・・・桜、立派な自衛官になって・・・・・・」


 そう言って、香里は刺さっている対艦刀を心臓部に持っていき、そのまま自害した。


 香里・・・・・・・


 離れろ、桜。


 そうAIが言う中で、桜は香里の身体から対艦刀を引き抜き、その亡骸を抱きしめた。


 緑色の血に塗れているが、香里は人間体に戻っていた。

 

 何とも言えない、喪失感を抱えて、日下部は地上に降りた。


 男性隊員たちの恐怖に慄いた顔が不快に思えた。


「化け物が・・・・・・・図に乗りやがって・・・・・・・」


 桜はそう言った男性隊員を見つけると、グロック17を召喚しようとした。


 ダメだ! 桜! 堪えろ!


 うるさい! あいつら、殺してやる!


 そう思った時だった、古谷がその隊員をグーで殴った。


「ぐぅ!」


「古谷中隊長! 何を!」


「痛かったで済む分だけ、ありがたいと思え。彼女の苦しみに比べれば楽だ。貴様らが彼女を人間扱いすれば、彼女が怪物になることは無かった」


 男性隊員たちは古谷に怯えていた。


「日下部三曹、装備を解け」


「しかし!」


 日下部が反論をしようとする。


「早くしろ! 今の私は非常に怒っている! これ以上、私を不快にさせるな!」


 口調が違う・・・・・・


 この人、本当は怖い人なんだ・・・・・・


 日下部は初めて、古谷に恐怖心を抱き、装備を急いで解いた。


「このことは防衛省に報告する。当該隊員やその上官には何らかの処分が下る。覚悟しておけ」


 古谷の怒りが隊員たちを震え上がらせる。


 陸上自衛隊史上最悪の事件が終結をしようとしていた。



 蓮杖亙一尉は部下の相川祐樹二曹と村田曹長を従えて、日比谷にあるフランス料理店へと入った。


 また、ここか?


 上層部ってのは、何で、フランス料理が好きなんだろうな?


 個人の趣味嗜好だろうが。谷川連隊長の好みだろうな?


 自信の上司である、谷川正孝一佐のグルメぶりには閉口する。


 毎回、上層部から客をもてなす時の店選びをお願いされるとは聞いていたが、よっぽど、気に入っているんだな?


 蓮杖は何回行ったか、分からない、フレンチレストランの前に立つ。


「亙。ここは嫌だ」


「俺もだなぁ。焼き鳥屋にしてくれねぇか?」


「上官命令って奴だよ? 嫌なら、外にいるか?」


「そうしたいねぇ? 俺は」


「同じく」


 村田はひくひくと笑って、相川は笑み一つ漏らさない。


 これから、会う相手を考えれば、そうなるな・・・・・・・


「失礼します」


 そう言って、フレンチレストランへと入る。


「遅いぞ。客人を待たせている」


 客人ねぇ?


 あんなガキが年月経つと大した出世だよなぁ?


「蓮杖亙一尉以下二名、ただいま到着いたしました」


 谷川の目の前に座る、かつての学生風情である、警視庁ISATのエースである、一場亜門巡査にわざと聞こえるように言い放った。


「蓮杖亙・・・・・・」


 亜門はこちらを睨み据える。


「君たちの因縁は私も伝え聞いている」


「自衛隊が一介の警察官の僕に何の用があるんですか?」


 谷川が息を吐く。


「単刀直入に言おう。我々は君を陸上自衛隊ソルブス歩兵連隊にスカウトしたい。オファーを受けてくれるかな? 一場亜門巡査?」


 亜門の目が驚いた様に見開いていた。


 続く。



 次回、機動特殊部隊ソルブスアサルト 第二話 上京


 彼女は都へと降り立つ。

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