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黒の帝国  作者: 木島別弥
11/15

11、死者たちの流刑地

 その赤ん坊を守るために、五百人が死んだといわれた。その赤ん坊が十五歳まで成長するのを守るために、八十万人が死んだといわれた。たった一人の赤ん坊を守るために、死者たちは増えつづけた。

 その赤ん坊を守るために、人は簡単に死んでしまった。その赤ん坊を守るために命を差し出すものは後を絶たなかった。そのため、その赤ん坊のいる場所を起点に、人の死体の列の連なりができていた。その赤ん坊の周りに、死体の山ができた。その赤ん坊の行こうとする前に、死体の山ができた。その赤ん坊が悪いわけではない。その赤ん坊の命を狙う者が多すぎて、その赤ん坊の命を守ろうとする者たちが死体の山を築いていたのだった。

 その赤ん坊を守ろうとした者たちの死体の山は、その赤ん坊のいる場所を起点に広がり、死体の流刑地と呼ばれるほどに死体が積み重なっていた。

 その赤ん坊が十五歳に成長するまで、人々の努力は血の滲むものがあった。その努力の量は、積みあがった死体の量を見るだけで一目瞭然だった。

 人は誰もが、その赤ん坊が無事に成人にまで成育するのを期待していた。だが、それとは逆に、黒の帝国は、その赤ん坊が生存することを何が何でも阻止しようとしていた。

 それが黒の帝国と、光に生きた人々の争いの歴史となり、死体の流刑地と呼ばれるほどの死体を搬出するに至ったのだった。

 おそらく、八十万人の死体が、死体の流刑地の場所には存在していた。

 あまりにも大勢の死者を出したため、それで戦いが終わり、無人の野となっていた死体の流刑地に、トマトレッドは向かっていた。

 スカイグレイは緊張のあまり、体中に汗が出まくった。

 もしかしたら、五人が向かっているその先に、その赤ん坊がまだ生きているかもしれないからだ。

 赤ん坊は光の者たちの希望の光だった。光の者たちの指導者にして、光の者たちの救世主となるべき人物だった。

 赤ん坊が生きていたら、十五歳になる。血で血を洗う争いになることはまちがいなかった。

 黒の帝国はこの十五年間、その赤ん坊を探しつづけていたのだ。その赤ん坊を血祭りにあげるために、十個師団のすべてを派遣していた。

 もし、赤ん坊が生きていたら、このスパイ活動は最大限の成果をあげたといえるのだろう。トマトレッドが光の使者から受け継いでいた秘密というものが、その赤ん坊の居場所を示すものだとしたら、それはただ事ではなかった。

 スカイグレイは任務の重さに頭が混乱してくるのだった。

 その赤ん坊には、死んだ星を生き返らせる能力があるのだといわれていた。もし、それが本当なら、このブラックホールがひとつ漂うだけの宙域に、光り輝く星を復活させることができることになる。

 黒の帝国が血眼になってその行方を捜すし、光の者たちは命を捨ててその赤ん坊を守ろうとするのだった。

 トマトレッドが指示した場所は、死体の流刑地の中の一角にあった。そこにその赤ん坊が生きているのだとしたら、五人の命をかけた攻防戦が始まる予兆だといえた。光の者として、最後の希望を追い求めて伝説の赤ん坊に会いに来たトマトレッドにとって、黒の帝国のスパイにすぎない他の四人は息の根を止めてでも、その赤ん坊に手を出すことを防がなければならない刺客だといえた。

 果たして、その場所には何がいるのだろうか。

 五人はトマトレッドの指示した場所に到着したのだった。


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