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黒の帝国  作者: 木島別弥
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1、黒の帝国に虐げられしもの

 宇宙の色は、黒。

 この宇宙を黒色が支配していた頃の話である。

 この宇宙には、赤色、黄色、青色と、いろんな色があるけれども、圧倒的にいちばん多い色は黒色だ。宇宙は黒色が支配していたのである。

 この宇宙に圧倒的な支配力で君臨するのは、黒色。あらゆる光ある色たちを覆いつくして、完全に宇宙を塗りつぶしているのは、黒色。

 黒の帝国は、最強の軍隊を誇っていた。黒色は、他の色たちに比べて、明らかに強い色として、この宇宙に君臨していた。

 この宇宙には、黒色さえあればいいかのように、黒以外の色は、虐げられ、隅へ追いやられていた。

 あらゆる色たちに恐れられ、畏敬の念を持って迎えられた、黒の帝国だった。黒の帝国がこの宇宙を支配すればいいと、多くの者が考えていた。なぜなら、宇宙の色は黒色だからだ。黒以外の色は、やがて滅びゆく宇宙のゴミクズであった。

 黒の兵隊が行進し、黒の装飾に彩られた漆黒の帝国、黒の帝国がこの宇宙に造られたのは、もう数千年も前の話だった。黒の帝国は、誕生以来、さまざまな光り輝く星々を侵略して、黒の支配領域を広げていた。

 知る人ぞ知る、秘かに繰り広げられていた、この宇宙の色支配の勢力争い。青色が頑張っているところもあるが、圧倒的な強さで他の色を塗りつぶしていくのは、黒。宇宙の色にあって、最強の進軍を見せているのは、黒の帝国の漆黒の進軍だった。

 闇という闇が、黒の帝国を歓迎した。

 黒色によって塗りつぶされた暗黒の要塞、黒の帝都。黒の帝都にあって、黒の戒律に従わないわずかばかりの色たちがいた。その一人は、黒の帝都にあって、奴隷のように虐げられてきたボロクズの戦士トマトレッド。トマトレッドは、黒の兵隊が行進する中、疲れ果てた体で、黒色の町を這いずりまわっていた。この町には、黒色しかない。黒以外の色を持って生まれたトマトレッドは、隅に追いやられ、虐げられ、やがて、滅びゆく定めにあった。

 トマトレッドは、子供の頃に一度だけ見た光さす秘密の部屋、輝きを包んだ小部屋で出会った光の使者のことを信じていた。トマトレッドは、光の使者から手渡された星の種をずっと黒の兵隊に見つからないように隠していた。

 町では、黒の兵隊が肩をいからせながら、乱暴に道路を歩いていく。黒色以外の色がいないか巡回しているのだ。ひとたび、黒の兵隊に見つかったら最後、トマトレッドたちは足が立てないまでに痛めつけられるのだった。

 トマトレッドは、光の意思を受け継ぐ光の戦士だった。この光なき黒の帝国にあって、わずかばかりの抵抗をくりひろげるか弱き光の戦士だった。黒の兵隊はトマトレッドを叩きのめし、道端にぽいと捨ててくる。トマトレッドは、その日の食事にもありつくのに必死で、黒の住民たちの残飯を拾って食べつないでいた。

 この黒色が覆いつくす宇宙にあって、トマトレッドの抵抗はむなしいものにすぎないのか。

 トマトレッドは黒の帝国の裏街道を歩き、残飯を漁って暮らす。心の中では、いつの日にか、光の使者に再び出会って、光の世界を広げるために役に立てればよいと考えていた。そのためにも、まずは生きのびなければならない。なぜ、これほどまでに、宇宙は黒色で埋めつくされたのか。

 この黒の帝国の空に輝くのは、黒の星。光を吸い込みつづけ、闇という闇を宇宙に広げるブラックホールだった。この黒の帝国では、光というものは存在することさえ困難だった。

 ある日、大規模な光狩りが行われた。闇を信奉し、暗黒を尊ぶ黒の帝国では、光を持つものは弾圧の対象だった。黒の兵隊に連行されながらも、しきりに逆らうトマトレッドのことを、黒の帝国の上層部が注目した。

「いまだに我々に逆らうなんて、珍しい光のものだね。ちょっと、とびきり強いお仕置きが必要なんじゃないのかい」

 黒の幹部がそういう。

 トマトレッドは体中を殴られて、ひとことの声も発する元気がないありさまだった。

「我々は、この宇宙を支配する黒の眷族なんだよ。それがわかっているのかい。この宇宙はどこを見ても黒色さ。黒が勝てと、この宇宙を造った神がそういっているようなものだ。我々の力を持ってすれば、お前の未来を見てみることもできるのさ。どうれ。このくだらない反逆者の未来はどうなっているのかね」

 黒の幹部がそういった。黒の下っ端どもが、慌てて未来を見る機械を動かして、トマトレッドの未来を映し出してみた。

 トマトレッドはうなだれていて、とてもそれを見る元気がなかった。

 黒の幹部がひとりで、それを見て喜んでいる。

「おうや、これはこれは。どうやら、このボロクズはもうすぐ恋をするようじゃないか。これは面白い。ちょいと、いたずらをしかけてやるとするかね。このボロクズがこれから好きになる女の子に、呪いをかけてズタボロにしてやるとするか。この女の子はさぞかし、お前のことを恨むことだろう。そうれ」

 そういって、黒の幹部は未来を見る機械をガチャガチャと動かした。

 黒の幹部は、トマトレッドの未来に先回りして、トマトレッドの未来を変えてしまった。

 トマトレッドがこれから好きになるはずだった女の子に呪いをかけてしまったのだ。

 トマトレッドは対抗するすべもなく、そこに鎖で吊るされていた。

「そうれ。もう、これでこいつへの仕打ちは充分だろう。とっとと町へ捨ててきな」

 黒の幹部に言われて、黒の下っ端たちは慌ててトマトレッドを吊るし台から下ろし、城下の町へ連行していったのだった。

 ぼさっと投げ捨てられて、トマトレッドは転がった。今日もなすすべもなく虐待されてしまった。このままではいけない。いつか、光の戦士の力を見せてやらなければならないのだ。

 しかし、反撃のきっかけもつかめずに、途方にくれるトマトレッドだった。街という街が黒で覆いつくされ、建ち並ぶ建物がすべて黒装束だった。黒に塗られ、黒に塗りつぶされた、黒色の街、黒の帝国。その帝国の都である黒の帝都にあって、トマトレッドの抵抗はあまりにもひ弱で小さかった。

 だが、まだトマトレッドは希望を捨てない。なぜなら、まだトマトレッドのポケットには星の種が隠してあるのだ。星の種さえあれば、きっといつかうまくいく。そう、トマトレッドは信じていた。

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