表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙草  作者: 徒華
1/4

Sugar Cigar

「私、煙草吸う人は嫌」

「そう」

聞いているかも怪しいような返事。

何度交わしたか分からないやり取りにため息をつく。

私には3つ上の彼氏唯人(ユイト)がいる。

大人の3歳違いはあまり気にならないかもしれないが19歳の私佐藤 葵(サトウ アオイ)にとって彼はとても大人に見える。煙草のせいかもしれない。

長女で今まで年下の相手ばかりしてきたせいか年上に甘えたい欲が強かった私はバイト先で出会った大人びた彼に恋をした。

私は恋の右左も分からず猛烈にアタックして何度か華麗にスルーされたあと彼が折れてめでたく恋人にしてもらった。

周りからは散々反対された。

「あいつは女遊びが激しい」

「捨てられるだけだよ」

「酒カスにヤニカス、女遊び。そんなクズのどこがいいの?」

私はその反対を押し切った。

イケメンで少し悪いことが出来る。

そんな彼に私は弱かったし、きっと付き合えば変わってくれるとも思っていた。

現実はそんなこともなく、彼は冷たかった。

一般的にセフレの関係は夜にしか会わないとかよく言うけれど私はその逆で昼にしか会ってくれなかった。

もちろんそういう経験もないから彼でしちゃうんだ〜(照)とかっていう妄想もあったけど手を出される気配もない。

「それでさ〜友達がさ〜」

「ふーん」

会話もこんなの。

私だけ喋って彼はスマホをいじってる。

そして早々に。

「帰ろうか。じゃあ。」

「あ、うん……。またね。大好き。」

こっちを見向きもせず彼は反対方向へ。

元々煙草の匂いがする環境にいなかったせいか毎回帰り道で服に残った嗅ぎなれない煙草の匂いに彼を思い出し、寂しくなった。

構ってくれないことと彼の体が心配な私はずっと「煙草をやめて」と言っているのだが毎回返事は薄い。

そして私が拗ねる。これがセットだ。

「ねぇ電話したいよぉ。」

「今無理。」

「また飲みに行ってるの?お酒と煙草は体に悪いって言ってるじゃん!」

未読無視

はぁ。なんで彼と付き合ってるんだろう……。

そんな考えが頭をよぎる。

ダメダメとブンブン頭を振る。

彼と別れたら絶対次の彼氏出来ないもん。

でももうちょっと友達のとこみたいにイチャイチャしたいよ……。

私の思い描いていた恋愛とは全然違う。

カップルって毎週のようにデートしてキャッキャウフフするものじゃないの?!

少しずつ少しずつ不満が溜まっていく。

あるデートの日。

今回は遊園地に来た。

もちろん有名な夢の国でも地球儀がある所でもない。

地元の小さな遊園地。

「ねぇ!あれ乗りたい!」

「乗ってこれば?」

「一緒に乗りたいんだけど!」

今日何度もしたやり取り。

めげない私が指さしたのは小さいジェットコースター。

絶叫系好きな彼なら乗ってくれるはず。

「俺絶叫系とか無理。」

嘘だ。

だってバイト先の男の子と喋ってる時に絶叫系乗れない女とか無理って言ってたじゃん。

「ねぇうそ「俺煙草吸ってくるから。」

抗議した声は呆気なくかき消された。

後ろでは仲の良さそうなカップルが喋っている。

「最後観覧車乗ろうよ〜!」

「もちろんいいよ♡」

語尾に♡が浮かぶ男の声を聞いて羨ましくなる。

なんだか目に涙が浮かんでしまう。

「あれ、乗ってないの?」

彼が帰ってきて少し驚いたように言った。

そんなに時間経ってたんだ。

「あ、うん。」

「お前も疲れた?帰るか。」

うん……。そう言いかけてふとさっきの会話が蘇った。

「ね、ねぇ。観覧車最後に一緒に乗りたいな……。」

「観覧車?」

あダメだ。これ乗ってこればのパターンだ。

「やっぱりいい「いいよ。」」

言葉が重なって思わずびっくりしてしまった。

まさかいいよなんて言われると思ってなくて無言になってしまう。

乗ってしまえばさっきの驚きとかは消えてぐんぐん上がっていく観覧車にはしゃいでいた。

「唯人くん見て!高い!」

「はいはい。」

唯人くんの方を見ると少し笑っていた。

その顔にきゅんと来てしまって照れてしまった。

ここで私の欲が顔を覗かせる。

キス してみたい。

言ってもいいのかな……?

よっぽど分かりやすかったのだろう。

「もじもじしてどうした?」

と聞かれてしまった。

「え、え、あ、あのね……。」

「どもりすぎでしょ笑」

恥ずかしい!顔から火が出そう!

「き、キスしてみたいな……って。」

言ってしまった!

恥ずかしすぎて彼の顔が見れない。

下を向いていると私に大きい影がかかって顎を掬われる。

…………

一瞬何が起こったのか分からなかった。

口の中には苦さが広がっている。きっと煙草の味だ。

「何その顔?」

「い、いや……。」

キスをしてくれたことの嬉しさと苦くてたまらない口の中のアンバランスさに私は何も言えなくなった。

キスはレモン味とか甘いとかそんな話を聞いたことがあったからかもしれない。

お互い無言のまま観覧車は下がっていく。

降りた後の足が地に着かない感じは観覧車のせいなのかファーストキスのせいなのか。

未熟な私には分からなかった。

帰ってから自分のベッドに寝転んだ私は幸せに包まれていた。この幸せが続けばいいと思っていた。

日常は変わらず続いていく。

煙草をやめない彼。それを咎める私。

返事のないメッセージ。苦しくて苦しくてしょうがなかったのに観覧車のせいで少しやわらいでいた。

少し甘い砂糖をもらっただけなのに。

周りは変わらず私に忠告していた。

観覧車の話をしてもそれは変わらなかった。

そんなの奴にとっては造作もないこと。

つなぎ止めておける術を知ってるだけ。

じゃあどうして別れを告げないの!

それが答えよ!

私が反論すると相手はいつも悲しそうな目をするだけだった。


「ねぇ。今晩泊めてよ。」

そんなメッセージが彼から来たのは遊園地から1ヶ月後だった。

え!嘘嘘!泊まりに来るの!ほんとに?!

唯人くんと泊まることなんて初めてで家に呼ぶのももちろん初めてだった。

「もちろんいいよ!夜ご飯はどうする?作るよ?」

「ん。」

素っ気ない返事だったけど一緒にご飯が食べれるし泊まれるしもしかしたらあんなことやこんなことも……。

と、とりあえず掃除して夜ご飯の買い物もしなきゃ!


ピンポーン

午後9時。彼は来た。

いつもの煙草の匂いを纏わせて。

「いらっしゃい!ご飯出来てるよ!ハンバーグ!」

「ん。ありがと。」

ちょうど作り終わった料理たちを皿に盛り、リビングのテーブルへ持っていく。

「いただきます。」

「どうぞ!」

元々料理は好きだけど人に振る舞う、ましてや彼氏に振る舞うなんてしたことがないから緊張する。

「お、美味しい?」

恐る恐る聞くと

「うん。」

と返ってきた。

「良かったぁ!」

「大袈裟すぎ。」

彼は笑っていた。

この瞬間が1番幸せだったかもしれない。

彼がシャワーを浴びている間に食べ終わった食器類を洗った。私の心臓はドキドキしていた。

なんたってこっからは夜だ。

すっぴんを晒すのも恥ずかしいけど。その先があるかもと思うとさらに恥ずかしい。

それを知ってか知らずかシャワーからでてきた彼は私にシャワー行っておいでと言った。

髪が濡れてすごい色気を放っている彼に圧倒されつつ私は頷いた。

絶対そうだ!

いつもより丁寧に体を洗ってちゃんとボディケアをして出ると…………。

ショックだった。彼は寝ていた。

私が寝るスペースはちゃんとあるけどそうじゃない。

なんでなんだろう。私には魅力がないのだろうか。惨めで涙が出そうだった。

私も寝る準備を済まし彼の横に寝転ぶ。

シャワーを出たあとも吸ったのだろう。

彼からはお揃いの匂いと煙草の匂いがした。

朝起きると彼は既に出る準備をしていた。

「俺もう行くから。」

「朝ごはんは?」

「いい。」

「そっか。じゃあね。」

引き止めると私が辛くなりそうだったから引き止めずに送り出す。

まぁほら初めて家に来てそれで手を出すのもね。って事だよ。自分を慰めながら朝ごはんの用意をする。

少し残る煙草の匂いが苦しくて窓を開けた。


色んな苦しさを少し残る幸せの記憶で癒し、心をつなぎとめる。

苦しいはずなのに私は彼から離れられなかった。

それは自分への自信のなさから来る依存だったのだろう。


彼と会いたくない。なのに寂しい。会いたい。

不思議な感覚に陥り始めたのは泊まりに来てから2週間後。

理由は彼の浮気疑惑だった。

彼と会う度彼からは嗅ぎなれない甘い香水の匂いがした。

私は香水に疎いからつけていない。

彼の香水かとも思ったが前に香水は嫌いと言っていたから違うだろう。

それにあの甘い匂いは香水に疎い私でもわかる女物の香水だ。

今までも飲み歩いたあとは煙草や香水っぽい不思議な匂いがすることはあったけれどこんなに強く香水が匂うことはなかった。

私の学校にも香水をつけている子はもちろんいるけれど別に匂いが移ることはない。

ということはそれだけ近づいて長時間だったということだろう。

でもそれを問いただす勇気は私になかった。

彼なら悪びれもせずにそうだよ。と言ってのけそうだったから。

1番は浮気がわかったとして離れる勇気がないから。

だから?と言われればいや……。と濁すことしか出来ないと思う。

私はひどく弱虫で愚かだろう。

だって今まで素っ気ない返事をされたり優先されないことを怒ることが出来なかった。

そんな私に別れようの4文字が言えるわけなかった。

彼と喧嘩する勇気はなかった。

私は大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせた。

遊園地の思い出もある。泊まりに来た思い出もある。

だから大丈夫。

会えば満たされるのだから。

もちろん頭の隅の隅には小さく『別れ』の文字が浮かぶようになった。

もっといい人がいるんじゃないかとも。

でも私はまだ彼といることを選んだ。

彼のことがまだ好きで離れたくなかったから。



私の彼は世間から見てクズの分類だ。

私の名前も呼んでくれない。

優先もしてくれない。

でもそんな彼の嫌なとこを見て見ぬふりして貰えない愛を待ち続けている私は『愚かで砂糖のように甘い女』だ。


閲覧誠に感謝いたします。

書いてて自分で苦しくなってました。

続けれればいいなぁと思っております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ