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§1.1(a) 悪魔あるいは妖魔との邂逅

 私は酷く頭を項垂れた。私の着ている紫色のフリルが視界を覆った。目の前の惨状が信じられないから。


《こんなことなら、魔法使いになんてなりたくなかった……》


 時は遡ること三ヶ月半。春乃(わたし)は何時ものように部屋に引きこもっていた。代わり映えのない生活。暗がりの部屋の中に光るノートパソコンとスマホの見慣れた画面でSNSの一つもせず、創作活動に勤しんでいた。まるで懺悔であるかのように。わたしはとてつもない自己嫌悪に苛まれていた。ただ何となく周りに合わせることに疲れて不登校になったからか? 否、何度やっても絵を完成させることができないし、曲は一フレーズも完成しないからだ。


「はぁ。なんでこんな生活してるのに作品の一つや二つできないんだろう」

「それはそんな生活をしているからではないか」


 低い声が聴こえた。私の、あまり使っていない声帯から咄嗟に「わっ」という声がでた。後ろから何処となく冷たい気配を感じた。後ろを振り返ると、そこにはファンタジーでしか見ないような、まさに「鬼」といった感じの風貌をしたモンスターが居た。顔はペンキで塗ったように真っ青で、青くて光沢のある角が生えていた。私はそれを見て更に跳ね上がってしまった。


「そう驚くでない。こんな生活してたら幻覚の一つや二つも見る。まあもっとも儂は幻覚ではないがな」


 嗄れた低い声で少しにやけてそう言った。目の前の不審な妖に警戒心を抱く一方、というか普通はありえない状況に試行が停止する一方、何処か呑気にこれが悪魔流のジョークってやつなのだろうかと思った。そんな事を考えていると自己紹介をし始めた。


「儂の名はカイドロフェレス。かつて妖精の領域(ルヴァハーモニス)の王であったがもう大分力が弱ってしまってな、今はもう半分しか土地を治めていない」


妖精の領域(ルヴァハーモニス)が何なのかは分からないが、まあ半分も土地を治めてるなら相当偉いのではないか。まあ、何にせよ早く帰ってもらってほしいものだけれど。


「なるほど、それでカイドロフェレス卿の用件はどういう?」

「まあ待て、結論を急ぐでない。でもこの次元の人間、特に若い者は結論を端的に述べないと話を聞いてくれないと聞くしな」


 どこから聞いたのか頭を掻きながら我々に合わせてくれているようだ。


妖精の領域(ルヴァハーモニス)はいま最大の危機なんだ。その為に汝の力が欲しい」

「と、言いますと?」

「説明すると長くなるから、今は説明なしで我々の所に来てもらう。急だが今から君には魔法少女になってもらう」


カイドロフェレスの口から思わぬ単語が発された。え、何? 魔法少女ですって? そんなファンタジーでしか聞いたことが無いような……ってこの状況も十分ファンタジーではあるか。


「そんなに部屋に引きこもっていたらインスピレーションも沸かないだろう。さあ、儂と一緒に妖精の領域(ルヴァハーモニス)に来ようか」


そう言うと、カイドロフェレスは私が拒否する間もなく私の腕を青く長い爪が当たらないように優しく掴んで闇の底に私ごと引きずり込んでいった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 気がつくと私は紅い空に白い雲が浮かんでいるのが見えた。仰向けになっていた。もう深夜なはずなのになぜ明るいんだろう。


「目が覚めたか。汝は紫色が好きなんだな」


 カイドロフェレスが覗き込んだ。私は確かに紫色が好きだが、どうしてそんなことを知っているのだろう。そう思いながら上体を起こそうとすると、私が紫色のフリルを纏ったドレスを着ていた。いつの間に着替えさせられたのだろうか。一瞬カイドロフェレスを睨んだが、彼はハッハッハと笑いながら、


「そんなドレス、儂が用意出来るわけ無かろう。それに儂は人間の肉体になぞ興味はない。もう研究され尽くしてしまってるしな」


 人間の肉体は研究され尽くしてしまっている、のか。いや我々の世界でも研究はされてるけど研究的な方面での興味とはまるで違うのではないか。まあ、何にせよ前半の主張には賛成だ。


「ところでその服は気に入ったか? さっきも言ったように儂が作ったものではないがな」


 ええ気に入りましたとも。この服はデザインが本当に私好みになっている。いろいろまだ飲み込めてはいないというかずっとありえない状況続きではあるけど、それだけは確かに思えた。


「そうね。気に入ったわ。急にわけのわからないところに連れてこられて困惑してはいるけどこの服のデザインがいいから許します」

「それは良かった」


でもあれだな、魔法少女になってもらうと言ってたけどまさかその衣装なのだろうか?


「ところで、さっき魔法少女になってもらうって言ってたけどあれって……?」

「ああ、この世界に巣食うことわり……」


そう言いかけた瞬間地面が揺らいだ。まだ立ち上がってない私の上体を持ち上げて、というかお姫様抱っこしてカイドロフェレスは軽々と私の身体を立ち上がらせた。


「がはは。説明の手間が省けるようで何よりだ」


カイドロフェレスは笑った。「ことわり」がどうとか言ってたっけ。眼前には黒い正八面体が丸みを帯びて土器のような文様が入った立体があった。

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