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【短編】攻略対象≪公爵子息≫の母に転生しました

作者: Na20

 

 ―――ギュウゥゥ


(…ん?なんだか急に痛みが)



 ―――ギュウゥゥゥ


(あれ、なんでこんなに痛いの?)



 ―――ギュウゥゥゥゥ


(まさか怪我でもした?)



 ―――ギュウゥゥゥゥゥ


(え、待って待って!本当に痛い!)



 ―――ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥ


(い、痛すぎて死んじゃう!)





「……様!……シュ様!」



(た、助けて…!)



「ルルーシュ様!」


「はっ!」


「ルルーシュ様!よかった…」


「…え?誰?……痛っ!」


「奥様、お気を確かに!あと少しです!呼吸を止めないでください!」


「なに、が?…っ!痛い、痛い!」


「さぁ、今です!しっかり息んでください!」


「い、息むって!?」


「大丈夫です!自然と息みたくなります!」


「そんなんじゃわからな…!んーーー!はぁはぁ…んーーーー!」


「お上手ですよ!あと少しです!」


「んーーー!はぁはぁはぁ………ん゛ーーーーー!!」


「ほぎゃあ!ほぎゃあ!ほぎゃあ!」


「奥様おめでとうございます!元気な男の子です!」


「ルルーシュ様、おめでとうございます!無事にお生まれになりましたよ!」


「はぁはぁ…え?男の子?生まれた…?」


「はい!これでアクレシア公爵様もきっと…!」


「アクレシア公爵、様…」



(なんだかどこかで聞いたことあるような…。あ、だめ。今は何も考えられそうにな、い……)



「ルルーシュ様!ルルーシュ様ー!」



 痛みから解放された私は、何もわからぬままここで意識が途切れてしまうのだった。




 ◇◇◇




「これオススメだから一回やってみて!」



 仕事帰り、久しぶりに会った親友に勧められたのがきっかけだった。



「えー。前もそう言ってたけど微妙だったし…」


「今回のやつにはオススメのキャラがいるの!ほら、前に言ってたでしょ?」


「ん?私なんか言った?」


「もー!忘れちゃったの?前にオススメしたやつの感想聞いた時に、メインヒーロー以外パッとしないって言ってたじゃん」


「ああ、そういえばそんなこと言ったね」


「そう!それで、その中でも『公爵子息』は一番選びたくない~って言ってたでしょ?」


「まぁだって?メインヒーローの『王太子』を選べば王太子妃になれるし、メインヒーロー以外のヒーローは何かしら特化した才能を持っていたじゃない?その中で『公爵子息』は平凡っていうか面白味がないっていうか」


「まぁ言いたいことはわかるけどさー」


「でしょ?」


「でも安心して!今回のはその『公爵子息』がいい感じなの!」


「いい感じって、説明適当すぎない?」


「まぁまぁ。ここで言っちゃったらつまらないでしょ?ねっ!やってみてよー!」


「はぁ。わかったわかった。やってみるけど面白くなかったらすぐにやめるからね」


「うん!」


「で、その乙女ゲームの名前はなんて言うの?」


「えっとね、『君と共に歩む道』。略して“キミトモ”!」


「ああこれね。……はい。インストールしたよ」


「じゃあクリアしたら感想聞かせてね!」


「はいはい」



 それから親友と別れ家に帰った私は、お風呂を済ませ冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。



「ぷはー!今日も一日頑張ったぞ、私」



 毎日の楽しみである晩酌をしながらテレビを見ていると親友から連絡が来た。



 “もうやってみた?面白いでしょ?”



「あ、忘れてた」



 先ほどインストールしたゲームのことなどすっかり忘れていた。



「うーん…。面倒だけどせっかくインストールしたしやってみるかな。それにあの子に感想言うって約束しちゃったし」



 私はスマホから“キミトモ”を開いた。



「えーっと、攻略対象は『王太子』『公爵子息』『騎士団長子息』『天才魔法使い』『大商会の跡取り』か…」



 最初はメインヒーローである『王太子』を選ぶ人が多いだろうが、私は親友がオススメだという『公爵子息』を選んだ。貴重な晩酌タイムを使うのだから、ぜひとも私の固定概念を覆してほしいものだ。



「まぁ少しだけやったら寝よっと」



 そう決めてゲームを始めたのだが、『公爵子息』の攻略に夢中になり、気づけば外が明るくなっていた。



「よし、クリアー!……ふわぁ。あー明日も仕事だからそろそろ寝なきゃ…って嘘!?もうこんな時間!?」



 慌てて時計を見るとまもなく起床時間だった。これではもう寝れないと諦めた私は一睡もせず仕事へと向かうことになる。



「…今日帰ったら感想言わないとな」



 親友に感想を伝えるのは仕事から帰ってきてからにしようと決め、私は眠い目を擦りながら仕事へと向かった。しかしその道のりで私は事故に遭い、親友に感想を伝えられぬままこの世を去ってしまうのである。




 ◇◇◇




「…今のは」



 今のは間違いなく私の記憶。



「…そうだ。私、事故に遭って…」



 少しずつあの時の出来事を思い出す。流れる血、冷えていく身体。私はあの後どうなってしまったのだろうか。



「…ここは?痛っ…」



 状況を確認したく身体を起こそうとしたが、身体中が痛い。特にお腹から下に感じたことない痛みがあった。私は痛む身体をなんとか起こし辺りを見回すが、どうやら病院ではなさそうだ。



「一体ここは…」


「ルルーシュ様!」


「えっ?」


「よかった!お目覚めになられたんですね!」


「だ…っ!?」



「誰?」と聞こうとしたその時、彼女の頭上に文字が現れた。




 名前:レミア

 年齢:20

 職業:ルルーシュの専属侍女

 感情:ルルーシュ様が無事でよかった



(なに、これ…?)



 ゲームなどでよく見かけるウィンドウのようなものが突如として彼女の頭上に現れたのだが、一体これはなんなのだろうか。



(それにルルーシュって、誰?)



 レミアという女性が私を見てルルーシュ様と呼ぶのだが、私の名前は瑠々だ。多少似てはいるがルルーシュなどという変わったあだ名で呼ばれたことはない。



「えっと…」


「あれからルルーシュ様は三日も目を覚まさなかったのですよ!とても心配いたしました。…ぐすっ」


「えっ!?ほ、ほら泣かないで…」



 何がなんだかわからないが、目の前で泣き出してしまった彼女をほっとくわけにもいかない。彼女には泣き止んでもらい、今の状況を確認しなければならないのだ。


 しばらくすると落ち着いたようなので、私は質問をすることにした。



「えっと、レミア?」


「はい」


「私は三日間も眠っていたって本当?」


「本当です!あのあと気を失われてから今まで眠っておられました」


「あのあと…?」


「はい!ルルーシュ様はご子息様を出産されたのですよ」


「…はい?」



(今、なんて…)



「こちらで眠ってらっしゃいます」



 レミアの手が指し示す方を見ると、ベビーベッドの中ですやすや眠る小さな赤子がいた。



「…かわいい」



 すぅすぅと寝息をたてながら眠っている。



「ええ、本当に。ルルーシュ様によく似ていらっしゃいます」


「…そう?」



 ルルーシュに似ているという赤子はシルバーヘアだ。ルルーシュとは外国人なのだろうか。そんな疑問を抱いているとレミアがなにか言いづらそうに口を開いた。



「あの…」


「どうかしたの?」


「…実は、ルルーシュ様が目覚める前にアクレシア公爵様がこちらにいらっしゃいまして…」



(アクレシア公爵…。やっぱりどこかで聞いたことがあるのよね)



「…それで?」


「ご子息様に名付けをされていきました」


「名前…」



(名前ってそんな簡単に決めちゃうの?普通は相談したり字画とか調べたりして決めるんじゃないの?)



 私の中での赤子の名付けはそんな感覚なのだが、アクレシア公爵とやらは違うようだ。



「それで、この子の名前は?」


「…セドル・アクレシア様です」


「セドル・アクレシア……うっ!」



 赤子の名前を口にした途端、激しい頭痛に見舞われた。頭が割れそうなくらい痛い。



「ル、ルルーシュ様!?」


「頭が、割れそう…」


「大変…!す、すぐに水をお持ちします!」



 バタバタとレミアは出ていき、部屋には私と赤子の二人だけ。私は痛む頭を押さえながら赤子に視線をやった。



(セドル・アクレシア…。それにルルーシュって…っ!)



 次の瞬間、頭の中に膨大な何かが流れ込んできた。しかしそれは一瞬のことで抗うことなく私の一部となり、痛みは嘘のように消えてなくなった。


 そして私は今の状況を理解したのだ。



「私、“キミトモ”の世界に転生しちゃったんだ…」



 どうやら私は“キミトモ”の攻略対象、≪公爵子息≫の母親に転生してしまったようである。




 ◇◇◇




 前世の記憶を思い出した私は自分が事故で死に、そしてゲームの攻略対象であるセドルの母親、ルルーシュに転生してしまったことを理解した。



(でもこのままじゃまた死んじゃう…。それは絶対に嫌)



 ゲームのルルーシュは、セドルが七歳の時に自害に見せかけて毒を盛られ殺されてしまう。このままここに居続けるのは危険だ。それならばセドルを連れ、さっさと離婚して国に戻った方が安全だ。ストーリーが変わってしまう可能性はあるが自分の命の方が大切だし、攻略対象は何人もいるのだから一人くらいいなくなっても大差ないだろう。


 すやすや眠るセドルの頬に触れてみる。すべすべで柔らかい。



「ほんとに可愛い」



 ゲームの攻略対象のはずなのに、セドルがとても愛おしい。母性本能というやつなのだろうか、どんなことをしてでも守ってあげたいと思うのだ。



「私たちが幸せになるには、まず離婚ね」



 その後のことは追々考えることにして、私は離婚に向けて動き始めた。





 ◇◇◇




 ―――バンッ!



「おい!これはどういうことだ!」



 ノックも無しに部屋へとやって来たアクレシア公爵は、私に向かって怒鳴り付けた。



(うるさいな。セドルが起きちゃうじゃない)



 そう思いながらも実際にこの部屋にセドルはいない。今日アクレシア公爵がこの部屋に来ることは前もって分かっていたので、レミアと別の部屋にいてもらっている。



「どうかされました?」


「しらばっくれるな!お前の仕業なんだろう!?」


「いきなりそう言われましても、なんのことだかさっぱり…」



(まぁ、本当は知ってるけど)



 私は何も知りません、と言わんばかりの表情で頬に手を当て小首を傾げた。



「お前のせいでリカルドが!」


「リカルド、とは…?」


「俺とマリリンの子だ!」


「まぁ!おめでとうございます!無事にお生まれになったのですね」



 マリリンとはアクレシア公爵の元婚約者もとい、愛人だ。



「はっ、白々しい!よくそんなことが言えたな!内心は嫉妬に狂っているんだろう?お前は俺のことを愛してるもんな。だから汚い手を使ってリカルドを嫡男にさせないようにしたんだろう!?嫡男変更の届けを王宮に出しに行ったら却下されたんだぞ!」



(なんで男ってずっと自分のことが好きなはず!なんて勘違いできるんだろう)



 俺のことを愛してる、なんて笑ってしまいそうだ。



「はぁ、何をおかしなことを言っているのですか?公爵様とマリリンさんのお子さんは、法律で嫡男になれないと決まっていますよね?」


「そんなことは知っている!だからリカルドを俺とお前の子として届け出たんだ!それなのに却下されるなんてお前が何かしたとしか考えられない!」


「そう言われましても私は何もしていませんよ?そもそもセドルがいるのに公爵様はなぜそのようなことを?」


「そんなの愛していない女との子より、愛している女との子を後継ぎにしたいからに決まっているだろう?そんな当たり前のこともわからないのか」


「…私のことを愛していないのですか?」


「当然だ。お前のせいでマリリンと結婚できなかったんだからな!」



 アクレシア公爵の言う通り、この結婚はルルーシュのわがままが発端であることに間違いないし、断れなかったのもわかる。だけどその代わり公爵は莫大な資金と権力を得ているのだ。



「でも公爵様は私との結婚で利益を得ているではないですか」


「わがままなお前と結婚してやったんだ。私が享受すべき当然の権利だろう?」


「お約束が違います」


「…なに?」


「マリリンさんと別れることが条件だったはずです」



 元婚約者(マリリン)と完全に別れることを条件に多額の資金を援助し、皇族の縁者として扱ってきたのだ。それなのに関係を断たず、ましてや子どもまで作り、さらにはその子どもを私との子どもとして扱うなど到底許されるわけない。



「そんなのお前が黙っていればいいだけだろう?」


「私がお父様に伝えればすぐに…」


「それは無理さ。なんせお前の手紙は握り潰すように使用人に言ってあるからな」


「じゃあ、今まで出した手紙は」


「捨てたに決まっているだろう?」


「…手紙が一通も届かなければ、家族が怪しむはずよ」


「たしかにそこは心配していたが、どうだ?現に今まで何も起こっていないということは、お前のことなんてどうでもいいと思っているんだよ。わがままな娘がいなくなってよかったって、きっと俺に感謝してるさ。くくっ、お前の家族は薄情だな!」



 まさか私の家族まで貶すなんて思ってもいなかった。この男は自分が国力が倍以上違う隣国の皇帝陛下より偉いとでも勘違いしているようだ。



「…あなたって救いようのないバカなのね」


「はっ!なんとでも言えばいいさ。お前はな、俺にとってただの金づるなんだよ。だけど俺は優しいからそんなお前をわざわざ抱いてやって子どもまで生ませてやったんだ。感謝しろよな!」


「……」


「だから俺の感謝に報いるために一筆書くんだ。“リカルドは私の子だ”とな!さぁ、書け……っ、なんだ貴様は!」



 アクレシア公爵がズカズカと部屋に入り込み無理やり私の手を掴もうとしたが、私の後ろに控えていた騎士が公爵の前に立ち塞がった。



「ちっ!お前、生意気にも護衛なんぞ雇ったのか?」


「護衛じゃありません。私の身内です」


「身内だと?…ああ、そういうことか。こいつはお前の浮気相手か。身内のように深い関係なんだな?」


「……」



(え、この人何言ってんの?)



 身内という言葉の解釈が斜め上過ぎる。アクレシア公爵は顔はいいが頭は悪いようだ。



「はん!図星か。わがままだけじゃなくふしだらな女だな。…おい、そこのお前!公爵の俺の前で顔を隠しているなんて無礼にも程がある!すぐさま顔を露にして跪け!」



 アクレシア公爵はニヤニヤしながら騎士に命令をした。騎士との不貞を自ら明かすなど馬鹿だと思っているだろう。それに私の弱味を握ったことで、これからも私をいいように使えると思っているに違いない。

 しかしそんな未来は訪れることはないのだ。



「おやめください。この人は紛れもなく私の身内です」


「まだ言うか!不貞をばらされたくなければさっさと」


「だーかーら!この人は私のお兄様です!」


「……は?お兄様?」


「お兄様。このままだと話が進まないのでお顔を見せてもらえます?」


「はぁ、仕方ない。可愛い妹の頼みは断れないからな」



 籠手を着けた手で私の頭を撫で被っていた兜に手を掛けると、兜の中から銀髪碧眼の男性が現れた。銀髪は大変めずらしく、隣国皇室の証だということは広く知られている話だ。



「ぎ、銀の髪…」


「公爵様。こちらは私のお兄様です」


「可愛い妹が世話になったな。アクレシア公爵よ」




 ◇◇◇




「お兄様、ありがとうございました」



 私は改めて兄にお礼を言った。こうしてすんなり事が運んだのは兄のお陰だ。



「いや、兄として当然のことをしたまでさ。むしろ遅くなってしまってすまなかったな」


「ちょっと、お兄様!頭を上げてください!」


「だが…。私はルルーシュに嫌われたら生きていけない」


「…なに言ってるんですか」



 頭を下げて謝る兄に驚きつつも、理由を聞いて呆れるしかない。本当にこのイケメン皇太子である兄はシスコンだ。私は兄に気づかれないようにこっそり魔法を使った。




 名前:カイラス・ド・ファンダル

 年齢:25

 職業:ファンダル帝国皇太子

 感情:妹が可愛すぎる




 兄の頭の上に現れたウィンドウ。どうやらこれは転生した際に使えるようになった鑑定魔法のようだ。名前、年齢、職業、それに感情の項目があり、何度か使ってみた結果、感情は私に対する感情が写し出されるようである。



(妹が可愛すぎる、って。表情からはまったくわからないんだけど)



 とてもそんなことを考えているとは思わない美しい顔は、私と目が合うとふにゃりとはにかんだ。



「なにって、ルルーシュが可愛すぎるから仕方ないだろう?」


「ちょっと!」


「照れてるルルーシュも可愛いな」


「お兄様!」


「ははは、すまんすまん」


「もう…」



 話が一段落したところで兄が先ほどのことについて疑問を投げ掛けてきた。



「ところであの男には本当にこれ以上何もしなくていいのか?資金援助と皇室との繋がりがなくなるのは離婚すれば当然のことだが、愛人との再婚を認める必要はあったのか?むしろ絶対に認めない方があの男には罰になったのではないか?」


「それはそうなんですが、今回のことは私の見る目がなかったことが一番の原因ですから…」


「ルルーシュ…」


「私はセドルと一緒にいられるだけで幸せなんです」


「私の妹は心も女神のように美しいのだな…」



(ごめんなさい。本当はあんな男なんて天罰が下ればいいのにと思ってます)



 ただ私はあの二人が再婚しても、すべてが丸く収まるわけではないことを知っているから再婚を認めたのだ。

 再婚すれば愛人が正式に妻となるが、すでに生まれているリカルドは嫡男にはなれない。なぜならリカルドは母が愛人だった時に生まれた子だからだ。離婚しても再婚できるのは早くても半年後なので、その頃にはリカルドは生後六ヶ月。そこまで大きくなってしまえばリカルドは再婚する前に生まれた子であることは誰の目から見ても明らかだ。それで嫡男にしようものならそれこそ法を犯すことになる。再婚してからの妊娠・出産であれば何の問題もなかったが、あの二人は私さえどうにかすればリカルドを嫡男にできると思っていたようなので、まだ愛人の立場であるにも関わらず愚かにも子を作ったのだ。



(さすがに子どもは不憫だけど、こればっかりは法律があるからどうにもならないもんな)



 それに私はゲームでセドルに異母妹が二人いたことを知っている。ゲームの状況とは変わってしまったが、今後公爵と愛人の間に子どもが二人生まれる可能性が高い。しかしこの国では家を継げるのは男児のみと決まっているので、子どもが三人いても誰一人家を継ぐことができないことになる。

 婿養子をとったり遠縁から後継者を選ぶことはできるが、自分たちの血を引く子が家を継ぐことができないことは、あの二人には十分な罰になるはずだ。




 それから馬車に揺られること五日。ヴィスト王国とファンダル帝国の国境にたどり着いた。そしてそこからさらに五日後、私たちは帝国に帰国したのだった。




 ◇◇◇




 三年後。



「ママー!」


「どうしたの?」


「うーんとね、えへへ!おはようのぎゅー!」


「あら!じゃあ私も、ぎゅー!」


「きゃはは!」



 あれから三年が経ち、早いものでセドルは四歳になった。大きな怪我や病気もなく元気に育っている。



「そろそろ朝ごはんにしましょうか」


「うん!」


「今日はベーコンエッグよ」


「わーい!ぼくベーコンエッグだいすき!」


「ふふっ。じゃあ手を洗って食べましょうね」


「はーい!」




 この何気ない日常がかけがえのない宝物だ。


 攻略対象≪公爵子息≫の母親に転生した私は、今日も愛する息子と幸せに暮らしている。






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