怖い話の後遺症
怖い話のその後。
怖い話したあとって、なんか凄い敏感になるの。
分かるかな、いつもなら気にならないはずの物音とか、干してあるシャツが人に見えるとか。
でも私、怖い話は大好き。
今日だって、ホラー好きで集まっていろんな話したんだ。
だからといって、怖くないわけじゃないよ?
怖い話した帰り、家に入ってから私ずっと音楽かけてるもの。
今日に限ってなんで家族みんな帰るの遅いのかなぁ。
怖いけど、せっかくのおひとり様なんだし、楽しまなきゃね。
「今日はシャワーでいいか」
シャワーを浴びて、早く自由時間に。
·····そう思ってたのに。
目をつぶった瞬間、今日のことを思い出した。
──この前ね、さとみちゃんが、対向車の運転手と目が合ったんだって。ずーっとね。
それのどこが怖いのか私には最初分かんなかった。
そりゃ目が合う時もあるじゃんって。
──その時、さとみちゃんは後ろの席に乗ってたの。そのさとみちゃんが後ろ見ても、その人とずっと目が合ってたんだ。その、ずぅーっと笑ってたお婆さんと。
今思い出したらダメだ。
目を開けたくない。
目を開けたら、話に出てきたそのニコニコ婆さんが目の前に居そうで。
いつもより長くシャワーをした。
そして、心臓がうるさいのを無視して目を開ける。
──そこには。
「·····ひっ」
あ、びっくりした。
·····びっくりした。
鏡に映ってるの、自分か。
ちょっと濡れて幽霊みたいで怖かったけど、目を開けて良かった。
やっぱり、大丈夫だ。
シャンプーをとって、また目を瞑る。
そこで、考えてしまった。
鏡に映ってたの、ホントに私·····?
見てたのはびしょびしょになった黒髪だけ。
そう思うと、さっきとは比にならないくらい悪寒が走った。
心臓がバクバクいってる。
そっと胸に手を当てて音を聞くと、いつもより焦っているように感じた。
目の前にある鏡。
そこに映っているのは、映っていたのは、私?
もう、何もかもに敏感になって、濡れて体にピタリと張り付く髪でさえ信じられなくなった。
はねてツンツン当たってくるのを感じるたび、当たってるのはホントに私の髪なのが分からなくなる。
·····もしかしたら、後ろに誰かいるんじゃないの?
目を開けたくない。
開けたら、絶対後悔する。
そう思って、目を瞑ったままシャワーを握った。
うちのシャワーは捻るタイプだから、それもしなきゃ。
でも間違えてシャンプーかリンスか何か落としてしまったみたいで、ガタンと大きな音が響く。
お風呂は響きやすいから、余計に。
でも今は、目を開けたくなくて。
落ちたのはあとで拾っておくとして、私は無視した。
シャンプーを流して、手探りでリンスをつけて、また流す。
こうなると、もう目を開けるしかなくなる。
だめだ、出来ない。
心臓の音が周りに丸聞こえになってそうなくらい聞こえてくる。
あれだ、たまにいる、外からでも音楽聞こえてくる車みたい。
こういう時は音楽だ。
好きな音楽でも歌って。
歌って、·····歌い続けるの?
それはそれで嫌だ。
目を開けるしかない。
怖くて、私は鏡を見ないように後ろを向いてそっと目を開けた。
目を開けると、心臓がうるさいの。
うるさい、静かにして。
視界が青緑っぽく見える。
ずっと目を瞑ってたせいかな。
しばらくしたらそれも収まってきたから、脱衣場で服を着る。
もう、心臓の音は小さく、ゆっくりになっていた。
でも、まだ怖い。
風呂場の電気を消す時に、私は目を逸らしていた。
いちばん怖いのってね、怖い話聞いたあとのお風呂なの。
目を瞑ってるから、真っ暗だし、周りの音はあんま聞こえないし。
だから、みんなも同じになって欲しいんだ。
もう、お風呂入っただけで心臓発作で死んじゃうくらいバクバクして欲しいの。
·····ね、怖い話しよう?
お風呂の時は、怖いことを考えないようにしましょう。




