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一目惚れ

作者: 古歌

放課後の教室に忘れ物を取りに戻る。友達を下駄箱に待たせているので階段を1段飛ばしで駆上がって廊下も走った。先生に会わなかったからセーフだ。勢いよく教室のドアを開けたらざぁっと風が吹きつけて咄嗟に目を閉じる。手を上げて風を遮る準備をしてからもう一度目を開けた。夕方の教室は逆光で眩しい。窓が開いているということは誰かまだ残っているということだとは思ったけれど窓際に立っているのは見たこともない制服の女の子。その子は窓を開けて外を見ていたようで、突然開いたドアに驚いて振り返った。というように見えた。彼女の後ろから風が吹いてその綺麗な黒髪が流れに沿ってさらさらとたなびいた。彼女はじゃまそうに髪を耳に掛けながらも窓を閉める気はなさそうだ。入り口に突っ立ったままその姿を眺める。キューティクルのある美しい漆黒のロングヘア。カーディガンを着ているけれどその影響は受けていないように見える。風が止んでたなびいていた髪がさらりと彼女の身体に沿うように垂れた。耳元に添えられた手も下ろされた。夢見心地でその一連の様子を眺めていた。


「あの…」


遠慮がちに開かれた口。先ほどより弱い風が吹いて彼女の髪がまた風に沿ってさらりと横に流れた。それだけで声と目線が奪われる。あまりに理想だった。彼女は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。何も言わずに見られていれば誰でも不愉快だろう。


「あ、忘れ物、取りに、来た、だけ」


言葉はカタコトになって声は上ずっている。足を動かして自分の席に行って忘れた辞書を取って帰るだけ。それだけなのに。彼女のことを見つめたまま風を待っている。彼女が誰かを考えることも放棄していた。


「明日からこのクラスに編入するの。よろしく」


そう言って控えめに笑う彼女の後ろから待ち焦がれた風が吹く。漫画かアニメでしか見たことのないような綺麗な髪が見える風のように流れる。目が離せなくて髪が落ち着くまで何も言えずにいた。


「よろしく」


ようやくそう言えば彼女はまた窓の方へ身体を向けた。相変わらず少しの風でさらさらひらひら流れる髪を横目で盗み見ながら自分の席へ向かった。彼女の席はどこになるだろうかと考えた。絶対に窓の横が良い。その美しい髪が風を形作るのを眺めていられるから。彼女が窓を閉めて風が止む。ようやく視線が解放されて辞書で重くなった鞄を抱えて教室を出る。白昼夢でも見ていたような心地で廊下を走って階段を一段飛ばしで駆け降りる。


「顔真っ赤。そんなに走らなくてよかったのに」


下駄箱で待っていた友達が驚いた顔でそう言って笑った。

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