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過労死という終焉

 最後のあとがきにも書きますが、「新生ミステリ研究会」の一員として、今月の文学フリマin京都に参戦予定です。


 その宣伝のためにも年末年始に何か書かなきゃなと思い、本作を書き上げましたが、果たして「新生ミステリ研究会」の宣伝になるのかは分からない作品になってしまいました……(ジャンルも推理ではなくハイファンタジー)


 今は終盤の展開を書いてるところですが、おそらく数時間内に書き終えるので、今日中に全話投稿予定です。


 全3万字弱程度で、そんなに複雑な展開ではなく、サクッと読めると思うので、最後までお付き合いお願いします。



 なお、語り手によって背景色を変えるのがマイブームですので、本作においても途中で何度か背景色が変わりますが、バグではありませんのでご安心ください。

 もうこんな時間か――


 パソコンのディスプレイの右上にある時刻表示を見て、川瀬かわせ公昭きみあきは、今日何度目かのため息をついた。


 午前零時十五分――たしか、この時間に退勤をすれば、ギリギリ終電に乗ることができる。



――とはいえ、終電で帰れたことなんて、会計主任を任されるようになったここ三年間で一度ない。


 もしかすると、この三年の間にダイヤが改正され、終電の時間も変わっているかもしれない。


 まあ、そうだとしたらなんだ、という話だが。



 改めて時刻表示を見た公昭は、先ほどとは真逆の感想を抱く。


 まだこんな時間か――


 まだ入力の終わっていない売り上げや経費がたくさんある。デスクの上の書類は、文字どおり、山積みだ。


 仕事を全て片付けられるのは、早く見積もっても、午前三時頃だろう。あと二時間はディスプレイと睨めっこし続ければならないのである。


 眼精疲労を感じていたのは、去年の頃までである。


 今では何も感じない。


 それは激務に耐性がついたためなのか、激務によって神経がやられてしまったためなのか――おそらく後者だろう。


 俺は、正真正銘の「社畜」として、このベンチャー企業に身を捧げていた。


 手取り二十万いくかいかないかの賃金でサービス残業を繰り返しているのは、やりがいゆえではない。


 諦めゆえである。上司のパワハラに抵抗する気力もなければ、ましてや会社を辞める気力もない。


 家畜が生まれながらに屠殺されて出荷される運命を背負っているように、社畜の俺も生まれながらに酷使されて過労死させられる運命を背負っているのだ、と妙な悟りまで開いていた。



 俺が解放される時が来るのだとすれば、それは、俺が死ぬ時か、もしくは、労基署に凸撃されて会社が死ぬ時かのどちらかだろう。


 俺にできることは、そのどちらかのエンディングを迎える日まで、一日十八時間労働を延々と繰り返すだけなのである――



「誰か、俺を救い出してくれよ……」


 無意識のうちに口から出た言葉は、誰に聞かれることもない。この時間にオフィスにいるのは、自分だけなのである。



「早くこの現実から脱出させてくれって……」


 こんな言葉ばかり口に出てくるのは、最近、「異世界転生」系のアニメにハマっている影響に違いない。


 そういうアニメがあることは、学生時代から知っていた。もっとも、当時は、主人公に次々と幸運が舞い降りてくるご都合主義の展開を「AVの脚本かよ」と鼻で笑い、見下していたのである。



 しかし、社畜となった今では、「異世界転生」系アニメの世界観に憧れ、それを猛烈に消費してしまっている。


 「異世界転生」は一種の麻薬なのだ、と思う。俺のような弱者男性に、幸福な幻覚を見せてくれるのだ。



 俺も異世界転生して、チート能力を獲得して、美少女に囲まれながら、ゆったりスローライフを送りたい――



 昔の人が憧れた「極楽浄土」を今風に翻訳すると、こんな感じなのではないか、とぼんやり思う。



――その時、目眩がした。


 廊下に倒れ込まずに済んだのは、椅子に背もたれがあったからだ。


 背もたれに寄りかかった俺は天井の蛍光灯を見つめながら、急に荒くなった呼吸を落ち着けようと、胸に手を遣る。



 先ほど飲み干したエナジードリンクの強力なカフェインのせいだろうか――



 トイレで吐けば楽になるかもしれないと思った俺は、ふらつきながら椅子から立ち上がる。



――しかし、すぐに全身の力が抜けてしまい、また椅子に引き戻される。



 そのまま意識が遠のいていく――



 これは想定していた一方のエンディング――過労死なのだと、俺は悟る。

 


 視界が真っ暗になる寸前に聞こえたのは、清らかな女性の声だった。



「キミアキ、あなたの居場所はこの世界ではありません」


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