春過ぎて1
「どうした?そんなにふるふるとして。」
顔を両手でおおい震える歌子に小町は話しかけた。
「いやもう…濃すぎるんよ!!」
「フッ…その言い方はなかなかくせが強くておもしろいな。
そうさな。自分の娘を嫁にさせたのは天武天皇とのつながりを強くしたいということでもあり、実は監視させるためかもしれない。」
「へえ…」
「百人一首にある持統天皇の歌を詠むぞ。」
「はい。」
「春過ぎて 夏来にけらし 白たへの 衣干すてふ 天の香具山」
「なんか爽やかな感じですね。」
「そうだな。
春が過ぎて夏が来たらしい、真っ白な衣が干すという天の香具山に、とあり、新しい季節の到来を詠んだ歌である。
山の新緑と白い衣、その上空に広がる青い初夏の空が連想され、色彩の鮮やかな対比を感じさせるな。」
「でも山に衣を干したりしますかね?しかも木が邪魔で見えにくくないですか?」
「良いところに気づいたな。
この香具山とは、持統天皇がいた帝都から見える高さ百メートル余りの低い山だ。
中山や高山に比べ見えやすいといえど、よほど大きな衣でないと難しいだろうな。
だから、見えないが衣を干していることを伝え聞いたときに、ありありとその情景を思い浮かべ想像した事を詠んだかもしれぬな。
そしてこの衣が一体何であるかは時代を超えてたくさんの説がある。」
「どんな説ですか?」
「そうさな・・・その前に持統天皇の生涯について話しておこう。」