秋の田の3
「まさか…百人一首がこんな血みどろな雰囲気から始まるとは思わなかった…。」
歌子はため息をつきながらつぶやく。
「まあな…だが天智天皇は情熱家の側面もあるぞ。」
と小町が意外な事を言う。
「へぇ…恋愛ですか?」
「ああ。弟君で大海人皇子、つまり後の天武天皇の妻を愛したのだ。」
「ドロドロの不倫じゃないですか?!その女の人ってどんな人なんですか!?」
「額田王という女流歌人だ。
彼女は最初天武天皇と結婚し女児を生んだ。
しかしその後、天智天皇から寵愛を受ける。
天智天皇を思って作った額田王の和歌を詠むぞ。
『待つと我が恋ひをれば我が宿の簾動かし秋の風吹く』」
「へぇ…あの方が会いに来てくれたかと思えば、ただすだれが動いただけ。いつ来てくれるのかと恋しく待ちかねているという内容ですかね。
なんか気持ち分かるな。」
「ほぅ。意外だな。なかなか分かっているじゃないか。」
小町がニヤニヤと歌子を見下ろす。
「いや、なんとなくそんな感じかなって…。そんなに見ないでくださいよ!あたしなんて彼氏もいないし…全然詳しく分かんないです!」
歌子は赤ら顔であせりながら答えた。
「しかし、天智天皇も弟の天武天皇もかなり濃い人たちですよね。」
「まあな。当時の恋愛感は現代とかなり異なる。一夫多妻制で、子どもができれば皆で育てていたしな。政事を司る高貴な身分であるし、血脈にもこだわっていた。
しかし、もちろん嫉妬するきもちはあっただろうよ。それは現代と一緒さね。」
「なるほど…やっぱりあたしからしたらぶっ飛んだ世界です…」
「ところで百人一首の第二首は、天智天皇の娘である持統天皇になる。」
「へえ…女性の天皇なんてすごいですね。」
「女性の天皇は他にも何人かいるぞ。特に持統天皇は政治能力の高い人物として評価されている。
そして驚きなのは、この持統天皇も先ほどの天智天皇の弟である天武天皇の妻なのだ。」
「えぇ!自分の叔父さんと結婚するんですか!?」
「しかも、実の姉と一緒に姉妹で輿入れされた。」
「きっまず!!」
歌子は、心から叫んだ。