祖母との再会1
歌子は特急で1時間かかる祖母の老人ホームに向かっていた。
窓の外には稲刈りがとっくにおわって寒々とした田んぼが広がっている。
そして向かいには、今朝歌子を(気絶させるくらい)驚かせたばかりのすこし透けた美女が座っていた。
あの後、歌子は母に起こされ再び目覚めた。
あの美女はおらず、母にどう説明したら分からなかったので、悔しいがそのまま家を出た。
放心したまま電車に乗り座席に着いて前を見た途端、あの女がいきなり座っていたのだ。
「あの…」頬杖をつきながらアンニュイに窓の外を見る美女におずおずと話しかける。
「あなた…霊なんですか?」
幸い電車内は人が少ない時間帯だった。
「そうさ、そなたの持っている歌札の自分が詠んだ歌に取り憑いた地縛霊さね。」
美女がにやりと笑うと迫力がある。
「…地縛霊!?」歌子は顔がひきつりながらつぶやいた。
「也哉子さんのところにむかっているんだろう?」美女は話題を変えた。也哉子とは祖母の名だ。
「そうです。」
「体調はどうなんだい?そんなに悪いのかい?」
「はい、今はあまりしゃべることができなくて…頭が…だいぶ回らなくなっているんです。」
歌子は、祖母が秋田からこちらに来た経緯を詳しく話した。時々通る車掌さんが怪訝な顔をしている。切符の確認は私だけだったから、やはりこの美女は私以外誰も見えないらしい。
美女はずっと私の目を見つめ、じっと聞いていた。
胸がどぎまぎした。
自分が詠んだ歌に取り憑いた地縛霊とこの人は言った…
やはり、この人が日本で最も有名なあの絶世の美女、小野小町なのだ。