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小町の道しるべ  作者: 銀胡
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百人一首の世界にようこそ

新春、正月三が日も過ぎた頃。

快晴だが、外の風は冷たい。

歌子は温かいこたつに入って出がらしのお茶を飲みながら、憂鬱な気持ちでカルタを並べていた。

そのうちの1枚を読み上げる。

「秋の田のかりほの庵の苫をあらみ 我が衣手は露に濡れつつ」

それから、はぁ~とため息を吐いた。

「全然覚えらんないよ…」


憂鬱な理由は、休み明けにクラスで行われる百人一首カルタ大会である。

「百人分は多いよ…百物語といい、百鬼夜行といい、友達百人できるかな~?の歌といい、人って百で区切るの好きだよねぇ…」

前にお母さんが突然「いなばのものおき!百人のってもだいじょうぶ!」って言ってたの、あれなんだったんだろうな…と思いつつ、こたつの温さでうとうとしてきた所、玄関でドアを開ける音がした。

「ただいまぁーー!!」実家の秋田から帰ってきた母だ。

「おかえりー。どうだった?」

疲れた様子で荷物を置きバタバタと手洗いうがいをして、寒い寒いと言いながらこたつに入ってきた母のために、歌子は新しい茶葉に入れかえて熱いお茶を入れた。

「やぁっと見つけたよ!ほらそこ置いた。」

お土産の金萬まんじゅうをもう頬張っている母が指差す先に、古くボロボロで破れかけた小さな箱があった。

「おばあちゃんがずっと探してたのこれだったんだね。」

「ずっとうわ言でカルタカルタ言ってたねぇ。やっと見つかって本当にこれが三度目の正直だよ。」


歌子の祖母が体調を崩してから一年ぐらい経つ。

生まれた時からずっと秋田で暮らしてきた祖母は、2年前に手にやけどをしてしまい叔父夫婦の家に引き取られた。少しボケてきたから心配だと一緒に住むことになったが、祖母はすぐに戻るつもりだったらしい。

慣れない都会暮らしで、やけどは治ったが祖母の認知症がどんどん進んでしまった。叔父夫婦も献身的にお世話をしていたのでやりきれなかった。

そして少し離れた老人ホームで寝たきりになった頃、うわ言でカルタ、カルタと呟くようになった。

秋田の家に置いたままのカルタを取って来てほしいとずっと言うようになった。


最初は叔父が秋田に帰ってカルタを探した。

私たち孫がお正月によく遊んでいたいろはカルタを持ち帰ると祖母はこれじゃないと首を降った。


次は娘である母が探した。

百人一首のカルタだと聞いたので持ち帰ると祖母はこれでもないとまた首を降った。


今年三が日が開けてからすぐまた母は秋田に戻り、今はもういない祖父の部屋を探してやっとお目当てのものを見つけた。


「開けていい?」

うなずく母を見てから、歌子はその箱を開ける。

「わあ…」

中には、金箔の縁で彩られたかなり年代の古いカルタが入っていた。歌子はゆっくり読み上げる。

「花の色は移りにけりな いたづらに我が身世にふる眺めせし間に」

小野小町の句である。

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