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魔術師は降臨する

 エントランスホールに静かに佇む、白く リスタルに光かるペットボトルシップ。


 壁一面大型100インチLEDモニターサイネージが8枚並んで、映し出される映像は 、、波の揺らぎ。豊かな海。

 その波形はまるで、水中で ペットボトルシップが誕生を待つように見えて、息を飲む。


「タムラさん、、貴方どんなコネ隠していたのよ、、こんな、、」


 アサミの耳に聞こえてくるのは 隣でトランシーバーを持つ手を震わせるミズキの声と、自分の鼓動。ほんの序章の演出に、アサミの心臓は期待に高鳴っている。

 そこは海鳥の声が 合図とばかりに、ペットボトルシップの船体の、


『サーーーーー!!!』


 アウトラインをなぞるメカニカルな電子ラインがほとばしった!


「「プロジェクションマッピング!」」


 ミズキとアサミの声が重なった!

 眼下で幻影に沈む海中のボトルシップは、七色の骨格を持って輝きを放ち闇に形を浮かびあがらせる。


『ダダダダ――ン』

「「!!!」」


 突然 ボリュームONされるBGM。


 船の床面に、四角く切り取られた海が投影。走るような映像が動きはじめると、まさに、ボトルシップが漕ぎ滑るかに見えから不思議だ。


ギャラリーオーナーのハジメから正式にレセプションショーのパフォーマーが紹介されたのはわずか2時間前。アサミは現場のセットアップに駆り出されて、全ては責任者であるミズキにお願いをした。其の為、パフォーマーどころか、ショーの内容さえ聞いていない。ミズキの様子からも、打ち合わせ無しの本番になったのだろう。


「いつの間に、マッピングサイズを図ったんだろ。」


 投影される水面は朝の光が煌めく海面から、飛び魚が 群れなす 昼の海へ。そして星降る夜海へなれば、たちまちシップの内側から 光の粒子が吹き出し、船中に充満する。


『ワ―。』


 その光のスモークに、取材陣から歓声が上がった。


 それも束の間、みる間に七色の光の羽がシップにぐんぐん生え広がって!!


『バシュッ!!』 炸裂する破裂音とスモーク!!


 白銀の煙から1人の白タキシード姿の男が、


『ダン』


 と、踊り飛んで一瞬で、花弁のように ステージに舞い降りた。そんな風に誰もが見えた。


 呆気にとられているギャラリー。


「これが、世界基準のショーなの?!ちょっと、ちゃんと記録カメラ回してるわよね!」


「先輩、、聞こえますよ。」


 興奮のあまり広報係の首を絞めんばかりのミズキに、アサミが指を立てて合図を送る。


 男の回りを囲む8台モニターがリズムを刻んで、ボーダーにライン点滅をする中、美しくダンスをするように男は、鮮やかな手つきで次々にカードを生み出だした!

 カードシューティングで『ヒュンヒュン』と、華麗に飛ばされた無数のカードは、下に落ちる前に、『バササッ』真っ白い鳥にメタモルフォーゼして羽ばたいていくのだから

観客は信じられないと声を上げる!


 純白の鳥達は、エントランスを周遊したらすぐさまマジシャンのシルクハットに、すーっと戻って消えてしまう始末。そうすればギャラリーは 気がつくのだ。


 ボトルシップから、デジタルにマッピングされた花々が溢れて 伸び出してくると、今度は 並んだらモニターに、家電製品や、車、動物、魚が、星座のように 浮かび企業のブランドネームが次第に映し出されていく。


『パチン!!』


 マジシャンが、高らかに指を鳴らせばスモークから、企業のフロントCEOが出現して、手を広げて観客に応えた。


「上手い、、」


あまりの鮮やかな演出に、思わずアサミが唸る。


 観客のボルテージは最高潮に膨らんで、もう盛大な拍手が巻き起こった。最高のショーだった!


 マジシャンは、バッと白マントを大きく広げ纏ったかと思うと、そのままマントがハラリ、床に落ちる。


 もう

マジシャンは 煙と消えて、同時に白い鳥達がピースシンボルのようにいっせいに飛び舞い、後にはステージに、CEOがライティング台の前に進んだ。


『パチパチパチ!!!』


 再びの拍手。そして、司会が改めてペットボトルシップや企業紹介をし、CEOが新しい生活と時代の到来を、自社企業は海外企業との提携により、よりエコロジーエネルギーの生産で新展開し、この世界の海原を泳ぎ行くだろうという旨を、華々しくマイクでプレゼンテーションした。


「完璧。」


 アサミは目を見張って固まる。


 エントランスに常設している特大サイネージモニターと、ペットボトルシップ用に、プログラムされたイリュージョンプロジェクションマッピング。


 マジックファイヤーとスモーク。


 それらが 1人のマジシャンの手で紡がれレセプションは 想像を越えたエコロジカルショータイムになったのだ。数時間まえのアサミ達には奇跡に等しい結果。

何より、まさに奇跡のショーを目の当たりにして、アサミ達バンケットホールスタッフ達も唖然としている。この何時間か前に 一体誰が完璧な成功を想像できただろうか。


 とにかく目の前の取材陣達のどよめきは、最後にはスタンディングオーベーション。それもそのはずだ、もともと大ホールで収録の特番歌謡祭メディアに、縋る気持ちで広報が取材クルーを回してくれないかと直談判したのだから。


 企業への質疑応答は、急遽、ペットボトルシップ周りに記者を集め囲み取材に取って代わる。このレセプションに食い付いたのだ!全然乗り気ではなかったメディアが。これでミズキが希望した通り夕方のメディアは、レセプション一色になる。


 カメラフラッシュが辺りを発光するさまはさながら芸能人張りで、フロントCEOがその待遇に満足たまらんと 破顔してるのがアサミにも分かった。


「これは、、これは、もしかして、、」


 取材陣だって どれくらい、来るか分からないと、ダレンがエコエネルギー研究をしている大学生達に ツテを辿って、声をかけてくれたりもした。

100席の椅子も埋まって、タワーに入ってるオフィスにも、ケイトウが フライヤーをばら蒔いてアナウンスしてくれた お陰で立ち見のタワー勤務先社員で その椅子席を囲んでもいる。


「大成功じゃない!やったわ!エントランス案件で、いままでにない集客数、樹立じゃない!!」


ミズキが喜びにうち震えて、ガッツポーズを見せた。


「よかった、、」


 アサミは、腰が抜けるようになって壁に寄りかかった。怒涛だった。まさに怒涛の数時間勝負だった。


 タワーオフィスのロビーエントランスホールは3階までが吹き抜けで、正面には、クロスしたクリスタルエスカレーターが設置している。吹き抜けを 囲むように、

下のフロアーを覗く手摺からアサミ達は、レセプションを確認していた。


「さあ、各部に無理を言ったお礼参りに行って!!タムラさんは、備品搬出あるでしょ!完全終了したら、外部ヘルプに指示出しよろしく」


 ミズキは、スタッフに激を飛ばして 自分も動く。


『あ、私達、広報さん達とこ行ってきまーす。それであのー、、』


 同僚達も、お目当てエリートをサーチしたんだろう、上層階勤務の誰かに声を掛けているのが見えた。アサミは、取材陣の写真撮りが はけるのを、少し待つ。腕時計と、タイムテーブル表を見比べて、何とか夕方のメディア編集にギリギリ間にあうだろうと考えてると、


『バササッ』


 出し抜けにそれはアサミの肩に、降りてきた。


おもむろに見ると、


『キュイッ!』


 可愛いいインコ。真っ白いオカメインコだ。アサミの肩に、チョコッと留まって 頭を傾げている。


「、、頭の跳ねた毛、かわいい、、しかも 人に、人に慣れてる。」


 アサミはつい、指で インコの頭の後ろを なぜてあげる。


「さっきのショーの鳥?鳩じゃないんだね。あー、スリスリしてくる。」



『キューーーーイ、キューーーーーイ』


 途端、 真っ白いオカメインコが高く長い鳴き声を上げた。


「なに?」


 アサミが、インコの鳴き声を不思議に思った時、フワリと肩に 感触を感じ耳元に、


「ーー捕まえた。」


深い響く声が、響いた、、、、


「!!!!!」


そのセリフに、アサミは身体が異常に硬直すると、ぎぎぎぎと、音がしそうな固さで、アサミは体を声の方に向ける。


「とうとう、捕まったの、、、?」


 瞳の大きさを変えるコンタクトが落っこちそうになるほど、目を開いたまま、振り返るアサミの視線は、思っていたような人物を捉えてはいなかった。


そこには、アサミの肩から 両手で確保した インコを胸元に仕舞う、日焼けをした白いタキシードの美青年がいただけ。


「あーーー、貴方の鳥でしたか。すいません。勝手にさわって。」


 機械的に しかし安堵をした表情でアサミは、当たり障り無い事を 相手に投げていた。アサミにとって追って出なかっただけで、安心してしまったのだ。


が、その後に目の前の美青年が、凄く綺麗な白い歯をニカッて見せながら、明らかに胸元から出せそうにない荷物を、アサミに差し出す。


「ー You are my life saver ー」


 アサミに押し付けられるように渡されたランニングポーチには、ご丁寧に洗われた水筒もちゃんとセットされている。


アサミは出された荷物を凝視しながら、思う。『マジシャン』とは『魔術師』を演じる者。目の前の顔を見れば気が付いた。このマジシャンに、髪と髭で自分が騙されていたことを。


「褐色の魔術師は、降臨したというわけ、、ね。」


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