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ランチ後の怒涛に彼女は

『ガチャガチャガチャ、タンッ』


 ケイトウとダレンとの昼休憩から帰ったアサミの耳に入ってきたキータッチ音。

 明らかに昼休憩を取っていない先輩が、苛立っている様子が伺えた。


 昼食を終え、まだ休憩時間が残っているからと、ロッカールームで少し読書でもしようと、6階のバンケットオフィスに戻ってきたアサミは、その不穏な空気に首を傾げた。


『はい!はい!解っております!』


 合わせてアサミの耳に聞こえてくる、先輩ミズキの不機嫌な電話対応。


『ガチャガチャガチャ、タンッ』


 電話をしながら、先輩ミズキのPCが放つ、イライラタッチ音が加速するのが分かる。容易に想像出来る、絶対不測の事態勃発をアサミは予感した。


「ミズキ先輩、、 もしお昼まだなら、テイクアウトしてきましょうか、、、」


 電話が終わったであろうタイミングで、先輩ミズキが声を掛ければ、


「あ!タムラさん!良かった。悪いけど、 緊急の案件が出来たの。リミットは夕方、 メディアが動くまでになるから手伝って欲しい。いい?」


 「は、はい。」


 アサミも否応なしの先輩圧に押されて、返事をするしかない。


 そうして今、アサミは若干の目眩を覚えながらも、7階への階段を全力駆け上がっているところなのだ。


 先輩ミズキが電話を 放り投げての、アサミのヘルプ要請は、緊急のイベント依頼が発生した為、メディアに直ぐ様打診をするという内容。しかし本来ならば有り得ない当日案件な上、リミットは今日の夕方18時というのだ。


「まずは お腹が空いてたら、上手くいくわけないよね。ミズキ先輩のお昼を買いにシェアダイニングに、とんぼ返りしてから、、」


 しかしアサミが、手にランチ入りの袋を下げて戻る頃には、オフィスは更に怒涛のカオスに化していた。


「課長!搬入はとりあえずエントランスホールにしてください!でないと、これ以上会場対応に支障が出ます!」


 課長に詰め寄る先輩ミズキの形相は凄い。デスクに、アサミは昼の入った袋を 静かに置く。


「ミズキ先輩。あの、まず買ってきたので、、お昼、食べて、下さい。その間、状況教えてもらえばヘルプ、入りますので、、」


 先輩ミズキが、課長に迫る内容を鑑み、アサミがおずおずと、手を上げる。


「それもそうね。」


 先輩ミズキは、 アサミの姿を今ようやく捉えると、「ステイ、ステイ」など酩酊しているように、ぶつぶつと呟き、 アサミがテイクアウトをしてきたサンドイッチを口にねじ込んだ。

 普段は優秀な先輩である。それがこの様子。よっぽどだとアサミは今日2回目のため息をついた。


 そうこうしているうちに、同僚達も『『お昼頂きましたー』』と、昼休憩を上がってきてからの合流なると、再度状況説明が始まった。



「まず急遽。レセプションメインの メディア会見を、開く事 になりました。会見主は、このヒルズビレッジ所有財閥企業。 内容は、 環境省が発表した先進バイオプラ国内生産制度初の海外企業との大提携。それをアピールする、ペットボトルシップ 会見です。ここまでは大丈夫?」


 見れば先輩ミズキの怒りで、手にされたサンドイッチは『グチャっ』と握り潰されている。それを同僚達がヒソヒソと話題にしているが、アサミはそれどころではない。

 今先輩ミズキが、アサミにも覚えのあるモノの話をしたような気がして嫌な汗が流れたのだ。


「ペットボトルシップというエコシンボルを招聘し、海外提携企業合同での国産先進バイオプラ生産を宣言する主旨となります。」


 だからだろうか、いつもなら目立たないよう静かに指示を聞くだけのミーティングで、アサミはミズキに質問をしてしまった。


「ペットボトルの船、、そんな大それたもの、、あ、あの、?なぜうちなのですか?というか、、あ、各国要人が、いるからですよね、、」


「そういうことね。我々は本来なら メディア会見場所のセッティングオンリーよ!これだけでも!急な案件モノだけど、今回は加えて、残念ながら バンケット コーディネートも本丸から丸投げされました!!!」


『あー、ミズキ先輩もさ、切れるよね。』


 助かったことに、珍しくアサミが発言をしたことには、同僚達は気に留めていない様でアサミは胸を撫で下ろした。


『今からじゃあ、どこだってさ、自分とこでやりたくないよねー。』


『時間ないじゃない!15時、16時の世界でしょ。』


「問題はこのご時世、ペットボトルシップ現物をレセプショ 展示する事。私的には、タワーロビーエントランスに 置く事を課長に談判中です。以上、質問は?すぐ 己の任務を構築して、動きを申告してください!!」


 完全に切れているミズキを目の当たりにして、話題好きの同僚達でさえ真っ青を越え、白い顔をしている。しかし時間がない事態なのは変わらない。

 アサミが今朝に川べりで見た船がそうならば、対象は既に近辺に来てるということ。受入体制について、アサミはミズキの指示に賛同した。


「ミズキ先輩の案に、わたし、、、賛成です。ペットボトルシップも、座トレで、ステージを簡易作成、スタンションポールが立てば、 展示らしくなりそうだと、、。」


 換気もいい場所の会見でならば、ホールでの展示は好印象だと、いつものようにアサミは控えめに付け足しておく。あとはメモ書きで、会見用ライティング台、メディア椅子、ホールから下に下ろせるよう、人員の依頼法や、展示パネル作成とメディア用フライヤー資料は、外注提案を箇条書きして、ミズキに渡した。


 ミズキは、アサミの即席メモを一瞥して、


「そうね。そうすれば、メディアへの告知関係だけを会見主の企業広報に、依頼もしやすいわ。これで、いきます。」


 こうなれば早く、ミズキ経由で、すぐ課長に承認をえるだろう。アサミは続いてバンケットで御用達便利屋に連絡をする。14時に来てもらうには、派遣会社を通してでは間に合わない。


「外注の当て、ちゃんとあるんでしょうね。もう、数時間の話よ、普通はアウトでしょ。」


 ここにきてミズキの眼光が刺さる。痛い箇所を指摘されたが、アサミの頭に浮かんだのは、ギャラリー『武々1B』なのだ。


「確実と、、は言い切れません。まず、、お願いして、きます。」


 これまでアサミが、ケイトウ達にオフィス招待されたこと数回。大判のプリンターや、印刷機器が充実しているの知っている。ギャラリーで作品展示する為に、展示パネル資材、最速稼働の量産プリンターもあったのだ。


「いいわ、そこに当たるしかないんだし。任せます。問題は、 急に取材陣が 集まるのかと、そのために 必要なる、派手なオープンレセプショーに何かないかだって!できるか!!」


 ミズキの眉間の血管がブチブチと切れそうに見える。そんなミズキに、さすがに何も提案をしないわけにはいかないと悟ったのだろう、ゆるふわボブの同僚が、手元の電話で検索をしている。


「ゆるキャラとか、ナチュラリスト著名人トークショーがふつう、あるんですよね。でも今から頼むの、無理ですよー。」


 アサミはそんなやり取りを横目に、課長に承認提出する、タワー警備室に、ロビーエントランス使用諸々書類を用意しつつ、


「なくても、、ミズキ先輩。、、最悪メディア会見は、その、出来るようしますね。」


 ミズキにメモを渡した。とにかく、夕方のニュースに乗せるにはもう時間との戦いになる。


「その通り!!最低ラインを死守して、準備!外注とタワー警備室、ホール備品、手配人員でセッティング。」


『はい!ミズキ先輩。』


 同僚達が返事をして、バタバタと動き出す。そこでアサミはもう1つメモをミズキに渡す。ミズキは再び一瞥して、


「貴女達は依頼主の財閥企業広報へ交渉して、 メディアに取材の手配をお願い。テレビに来てもらわないと意味ないから重要よ。会見資料もね。はい、散って、すぐ 動く!!」


 どうせなら同僚達に、財閥企業のオフィスへ行ってもらうのが 最良だとアサミは、メモに書いたのだ。


 彼女達も、オフィスタワー上階にいけば行くほどイケメンエリートに会える確率が高まり、モチベーションが上がるはず。


『キャー、最上位オフィス!!』


 アサミの予想通りの反応だ。


 そうして今、アサミは1つ上の階に全速で走っている。あそこならば、メディア資料の輪転かけも、パネル作成も可能なはず。両手でフロアドアーを開けた。


「はあ、はあ。ごめんなさい。ケイトウ、ダレン。ちょっと仕事の方で助けて下さい。」


 時間が惜しく1つ上の階へ、階段を駆け登って、ギャラリーのオフィスにアサミが出現すれば!


「Oh!アサミ!どうしましたの!階段で、きたのですね!ダレン!飲み物プリーズ。アサミ汗だくエマージェンシーなのです↑↑」


 ケイトウが、オフィスのスキップフロアーから飛んできてくれた。アサミは、状況を伝えて、2人に頼み込む。


「ごめんなさい。 とても急ぎの外注扱いで パネル作成と、このオフィス印刷機で、資料を100部刷って欲しいんです。こんなお願い出来る義理ではないと 思うんですけど。」


 このオフィスは基本 この2人しかいない。それもあってまだ、アサミも2人に依頼もしやすい。


「ペットボトルシップ?ケイトウ、確か本部組がクルーズギャラリーで参加していた、 トリエンナーレで、そんな話シオン姫から報告にあったヤツではないのか?」


 ダレンが、壁際のアイアンステップから降りてきながら、さりがなく情報をくれる。


「Yes!エコアート扱いでイベントをしたって、シオーンから、レポートされたですわ。」


 意外なタイミングで友人シオンの名前が出て、アサミは驚くが、確かに仕事で芸術祭に参加していると前のメールにあった。


「なら、ハジメオーナーに直電かけた方が、情報もらえるぞ、コールして、、」


 ダレンがアサミに電話を よこしてくれた。電話の向こうからャラリーオーナー武久一の声が、聞こえる。


「あれぇ?アサミちゃんかなぁ?ダレンが電話してくれたけどぉ舟、そっちにも招待されたんだねぇ。あぁ~、確かさぁ、 ペットボトルシップでぇイベントイリュージョンあったよん~。 ピッタリだよぉアーティストだと思うけどぉ。私からぁ、 繋ぎとってあげるねぇ。じゃあ、窓口はダレンで。」


 まるで自分達に何が起きているのか全てを察した様な、オーナーの返事に、アサミは驚いてダレンを見る。


「レセプションショーに、これでアテが出来ただろう?持つべきは、友達の友達だと思わない?」


 ニッコリとどこか妖艶な笑顔で回答するダレンにアサミは、黙って電話を返した。何でもお見通しのダレンに、アサミは言葉もない。


「アサミ!!すぐプリントアウトする資料をアドレスにですわ!」


 ケイトウも、ライトブラウンの巻き髪をポニーテールに上げはじめて臨戦態勢だ。要するに、アサミの依頼に全面ヘルプしてくれるという事だ。

 アサミは、ミズキに電話で報告しながら、ジェスチャーでケイトウとダレン達に手を合わせてお礼を言った。


 休む暇なく諸々をメモし、資料内容を約束をしながら、アサミはエレベーターで警備室へ向かって、今度はヘルプの外部員迎えや、音響機材の下ろしに動く。


 アサミが働くバンケットホールは、有名ホテルの管轄とはいえ、半分子会社扱いの部所。バンケットコーディネーターなど言えば、聞こえは良いが、なんてことはない、イベント会社スタッフと変わらない仕事の範囲だ。


そこで、アサミはなるべく目立たない様に、地味に働ていた。

  


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