彼女のランチルーティーン
「 Hi☆ !アサミ↑↑カモ〰️ン」
ライトブラウンの巻き毛を揺らして、ケイトウがアサミに手を振ってる。が、けどさアサミは少し困った表情をして周りを見る。というのも、ケイトウの隣にはダレンも座っている為、非常に目立つのだ。オフィスタワー切っての、見目麗しい ハーフ2人組が今日もアサミに、親しげな挨拶をよこしてくる。
「Hey、アサミ!!↑↑」
返事に躊躇するアサミは、再び呼ばれた。
ケイトウは、北欧系のハーフでダレンは華僑系ハーフ。ハーフの良いとこどり見本みたいな容姿の2人は、本人達に自覚がなくとも有名な存在だった。
「ごめんなさい。遅れて。」
アサミは謝って、ケイトウの隣に。ケイトウは ハーフならではの色白で、瞳が光の加減でグレーっぽく変化し、スタイルはナイスバディ。そんな彼女が今度はアサミにバグしてきた。アサミが見回せば、運悪く同僚達が見ているのが分かった。
「ケイトウ。ディスタンス取れ。そして落ち着け。迷惑だろう。ムダに、目立って、仕方ない。」
そう口を弓なりにする亜系男子も、。人のこと言えない 目立ち加減だ。ツーブロックすっきり襟足ヘアに、グレーのカラーシャツで合わせたネクタイがパープル!!お洒落インテリモンスター感が満載な男、ダレン。前下がり長めにグラデーションカットした前髪をかき上げて、切れ長流し目をアサミの同僚達に投げた。
『ZUQUUUN!!』
後ろの同僚2人が、胸を射ぬかれた音が聞こえた気がするアサミは、ため息を付いた。とにかく目立たず大人しく=無言貫きたいアサミ。今日は、グレーのブラウスを着て良かったと感じる。職場でも、社会でもアサミは影に撤して生きるつもりなのだ。にも拘わらずケイトウは、容赦なくアサミの変化を聞いてくる次第。
「アサミ!今日、いつもの ランチ ボックス 持ってないですの?」
キラキラ好奇心の塊ワンコ顔で、ケイトウが突いてきた。
「ちょっと今日、、時間なくて」
手に持つトレーを上げて示すと、アサミはケイトウの隣に座る。
「アサミ姫、は、彩り野菜のバターチキンカレー定食だな。」
一瞬、アサミは殺気を送ってしまったのはご愛嬌。ダレンの『姫』呼びは、どんなに云っても止めてくれない。
「ラッキー!ポークビネガーと悩んだヤツですわ、アサミ!シェアプリーズ!!」
ケイトウは、言ってる側からすでにアサミのカレーを掬っている。
「ケイトウのポークビネガーを、アサミは3分の2は貰っても良いと思うぞ。」
さりげなくダレンはアサミにアドバイス。遠慮なく ケイトウの皿からアサミは自分の皿にケイトウの分を引っ越しさせた。何せ、朝食がなくなったアサミは、ランチの弁当を朝に繰り上げて食べるしかなかったのだ。見れば、ダレンはタラのレモン味噌焼きを、流れるかのように綺麗な手つきで 食べ始めた。
『あ、この間 ご一緒したーーやっぱり!たまに、あたし達もランチここで食べるんですーー。』
後ろが騒がしくなり、さっきまでダレンにハートを撃ち抜かれていたアサミの同僚達が、どこかのメンズ組に話かけているのが聞こえる。
『あれ、そうなんだ。オレ達はいつも 使ってるけど、じゃあこれまでもニアミスしてたね。』
どうやら、昨日の合コンメンズの次期エリートだろうとアサミは予想した。メンズ組のトレーには、かじきのバルサミコソースと、チキンカレー。アサミがかなり迷った2品だった。
このヒルズビレッジのオフィスタワーは、様々な企業が入り、そのうちの1つに社食の委託会社がある。このフロアは、その会社がシェア・カンパニーダイニングをオープンしており、タワーにあるオフィスならば料金を払って使える。さすがに社食専門だけあって、メニュー豊富でダイニング内装も お洒落だ。
「ケイトウ。ポークビネガー焼き、美味しいよ、ありがとう。」
普段は弁当で、タワーの至るところにあるブレイクコーナーでランチをするアサミ。ただ週に何回かは、ケイトウとダレン2人組とランチする。
「ドウイタマシテ!シェアさまさまですわ↑↑」
2人は、外に来るキッチンカーでわざわざテイクアウトして、アサミに合流してくれる、いい友達だ。
「ケイトウ、どういたしまして。だろ。残念なことになってるぞ。」
「ノー、シャラップ!ダレン!コジュウト、重箱つつくですわ。」
ギャーギャーと言い合いして相変わらず仲が良い2人。黙って、彩りバターチキンカレーアサミが食してるが、後ろの声が聞こえる。
『今度また、この間のメンバーで ご飯しませんかぁ。新しくーー、、』
ゆるふわボブの御嬢さま風同僚が、グイグイ迫る声。いつもは同僚達は、外へ噂のお店とかにランチ行く為、本当は ここで会わない。どうやら合コンメンズが
シェアカンパニーダイニングの常連ってリサーチをかけ、ランチエリアを変えてきたと理解した。そうなると当分ここは使えない。アサミにとって、お喋りな同僚達はあまり接点欲しくない相手だからだった。
「しかし、アサミ姫が、手作りランチをしてこないとは、何かあったのか?体調悪いとかか?」
後ろに聞き耳たてていると、ダレンがグラデーションカットした前髪ごしに、目を細めてアサミに聞いてきた。ケイトウとダレンも彼らが務めるギャラリー会社の
人間はどうも鋭い。
「元気。大丈夫。本当、朝のジョギングに 時間とられただけ。」
さすが、『ギャラリー探偵』とか言われるオーナーがやってるさ会社のスタッフともいえるのだろう。些細な事に気が回らないと、アートなどは扱えないのだろう。
「Really?アサミに何かなればシオーンに、怒られるです!」
そういっってケイトウは アサミのおでこに手を当ててきた。
アサミは職場にも友達いないのにも関わらず、目立つハーフ2人と仲良くやってるのは、一重に、高校の同志『シオン』のお陰。同志シオンが働いてるのが
2人も所属アートギャラリー、『武々1B』だったからだ。当の本人シオンは 本部がある、石川に勤務なのだが。
「ちゃんと、明日はお弁当持っていつも通りブレイクコーナーでランチするから、、また 誘って。」
「本当に大丈夫か?」
ダレンが 何か探るように聞いてくる、
「ダレン!熱も、アサミは ないですよ!明日、 うちのフロアのブレイクラウンジでランチすればいいですわ↑↑」
ここにきて、今度は2人のオフィスフロアに招待された。これはダレンが沼ハマりしている抹茶のお手前を拝見する事になりそうだ。
「じゃ、明日また ランチでね。」
食べ終わったトレーをアサミは片付けに行く。同僚達は見事、メンズ達と ブレイクコーナーに 移動するのが見えた。