巻き上げる記憶は、ギャラリストをあてにする身元確認
「コレは、何と読むのだ?」
水上警察に一旦保護されたケイは、出されたBusiness cardー名刺を目にして ヒラヒラと笑う。
(くく、あのアイボリーリネンスーツの男にArt Triennaleで渡されたcardか。)
完璧に日本語を話せ、習得が難しいアーティストビザを所持いているにも関わらず、身なりのせいなのか身元確認が厳しい。
もともとは夏の間中開催されていた国際芸術祭にケイは、Maikelからの招聘で参加する事になった親善芸術家でもある。が、ペットボトルシップによる不法入国を怪しまれているのだと、調書を取られるまでに至ってケイは漸く気が付いた。
(かといってtrue identityはsecretだ。)
現在、海外から国家式典に参列する要人が来日している此の国で、自分の身分をまだ明かせないと判断したケイは、あくまで親善アーティストである事を説明して1時間。
ケイがたった1枚だけ持っていた日本語の名刺を、取り調べ担当者が見つけたのだった。
「OH!貴方もフシギですよね!ハハハ!」
港のホテルから迎合をケイは思い出して笑った。
*******************
開け放たれたスイートルームドアから垣間見た、とんだguest men。彼がMaikelに紹介されるギャラリストだったのだ。
ラウンジで引き合わされた男は、名刺をケイに渡しながら独特の言い回しで、不適に笑って問い掛ける。
「貴方ならぁ、何と読みますかねぇ。興味深いので、是非とも思う読み方を~教えてくださいね~。ね?Emperor~?」
そうしてウインクをするタレた瞳は興味深げに、ケイを覗いていた。
『武
々
1
B 』
当然わかっていますよね?といいたげな顔をして、アイボリーリネンスーツの男の、挑む様な瞳。
「オレのKaiserをEmperorと呼ぶ貴様にDeclarationするが、オレは6th prince。Kingにはならん。」
「誤解させましたならぁ、お許しを~。ビジネス上のゲストネームですから~お構い無くぅEmperor。さて、貴国は英語と中国語の 両方が日常会話ですしぃ。ぜひとも、読み方を 教えて下さいよ~。ええ何とでも!」
ケイは 相手の調子のよさに半ば諦めると、整った顎に片手を宛ながらら、
「『ウーウーイーイー』。 ハ!まるでキナ臭い場所だな。ギャラリスト探偵のaddressか。」
間髪いれずに、ハジメに応えて、肩をすくめるポーズをみせた。
「クック、emperor!なんとも言えて妙な アンサーですねぇ。イッツ!グレート!!『Wu―wu―yiーyiー』ですかぁ。 へえ~なかなか良いですねぇ。」
そんなケイの言葉の押収に 眉を上げて、名刺の裏に『武久一』と記された人物、ハジメは ウエービヘアを揺らして楽しそうに人差し指を立てた。
「探偵のいる場所は、キナ臭いって嫌味だが?まあ、いい。」
解ったのは 掴み所のない相手が、『武久一』というギャラリストだという事。
「酷いなあ~。仕事柄、お客様の 思考を把握する1つの基準ですよん。私が、戯れに付ける 略称 も、オ・モテ・ナ・シ!」
はい、合掌~。とハジメはいちいちポーズをしながらケイに、さすが 頭に仮想軍司地図を作る思考は、とか、この服の上からでも分かる引き締まった脇腹はヒキョーだとか
なんとか 、呑気に眼鏡の秘書?と話をしている。
「ギャラリスト探偵か、」
Maikelの引き合いで、滞在をしていたホテルのラウンジでハジメと合流したケイが、芸術が開催されている島へ渡ったる為に乗せられたのが、ハジメのギャラリークルーザーだった。Maikelから招聘されたボトルシップイリュージョンは、芸術祭期間中、島をまわるからだった。
ギャラリーオーナーであるハジメの 秘書と愉しげに話すMaikelの話をするのを見るにつけ、
(Maikelは『ウーウーイーイー』のRegular customersらしいな。)
そう認識したケイは、ふとハジメの足に違和感を覚えた。
「Sherlock、足に ケガか?」
ハジメの両足にケイは視線を落とす。
「emperor!凄いなぁ。 ゲストからは初めて言われたよん。わかるぅ?両足骨折なんだよ~レディを守って名誉の負傷さ。」
「両足骨折?!何をしたらそうなる!オマエ、間抜けか。いや、、sorry。Ladyに足を踏み抜かれたのか?オレも I remember さ。」
アハハ!と爽やかにケイは笑って、ハジメの肩を 同志だなと、バンバン叩いた。
(なんだ、コイツsympathyだぞ!)
「ふ~ん。もしかしてぇ、 emperorって家庭的な女性がいたら、すぐお嫁さんにする派なんじゃない?親近~。」
今度はハジメが ケイの足をフフンと 見てくる。
「オマエ、、Marriage hunterか。まあ、いいが。そうだな 理想はHomely woman であり、Country mother なのかもな。老若男女に慕われるPrincessだ。」
そんなケイのセリフにハジメは、目の前の王子を 頭のテッペンから、足の先まで観察する。
「ビックリだよぉ emperor。なかなか クレイバーなんだぁ。」
ラウンジでの話を楽しむゲスト達に、スタッフの声が、
「宜しければ 中国茶など 如何ですかー。水出しで、淹れておりますから。ヒンヤリと美味ですよ。」
声をかけて用意した デキャンタセットを、運んできた。
「ああ、いいねぇ、ありがとぉ。じゃあ~emperor、あちらにぃ。」
水出しで、キリッとした風味がの爽やかな 茉莉花茶。ラウンジバルコニーからの風がケイの黒髪でなびくと、 ムスクの薫りと茶の薫が交わってより オリエンタルな風になる。ハジメが その鼻腔を擽る風に 目を細めたのを、ケイは横目で見る。
「Sherlockの言うとおりだ、美味い。腕の良いWatsonだな。」
ケイが黒髪を掻き上げてニコッと白い歯で笑えば、
ラウンジの女性陣は思わず見とれている。
「なんだよぉ、余裕縮尺今度はイケメンemperorだぁ。ムカつくよね~!」
と ハジメがケイに 八つ当たりをして、口の端を ヒクヒクと痙攣させていた。
*************************
まさに、今目の前にいる取り調べ担当者と全く同じ様に。そんな相手を フフンと鼻で笑って、ケイは長く伸びた髪を掻き上げる。
「sorry、shaver、ください。」
突然ケイが要求した事に、取り調べ担当者は不機嫌な顔で、『褐色の王子』が隠された不審者を伺い見る。
「Please contact、ギャラリスト。」
ケイは、ギャラリー探偵と呼ばれる男を、身元引受人としてハジメを呼んだ。