鱗雲の朝に響く乱闘 アサミ
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「さっきのは外国人だよね?ニュースでやってる難民とか?。」
空には鱗の雲。ひんやり爽やかで、鳥の声が澄んで響く。
ケイに乞われて海上警察に連絡を入れた彼女、アサミの早朝のジョギングは 毎日のルーティン。シューズ履いて黒髪をポニーテールに纏めればいつものジョギングスタイル。下町でも 大きめな商店街のあるメゾネットの 近くには大きな川が流れていて、
『おはようございます。』
河川敷をジョギングすれば、パピー犬の散歩する人に出会ったりする。晴れた朝はモーニングピクニックで、ベンチで朝食を済ませる事もある。
だから水筒にお味噌汁。おにぎりを作ってジョギングポーチにセットは定番だ。
ジョギングロードには公園も設備され 、季節の花々が咲いたり夏には花火も見れる、アサミのお気に入りの場所。
『タッタッタッタッ』
体力作りにも、趣味がてらにもジョギングは丁度いい。なんといってもタダだ。
そんな今朝。土手から 朝の川景色を眺めて ランしていたアサミは、川際に引っかかるヨット?を見つけた。
「何?あれ?」
たまに川をカヌーや、競艇より大きめのボートが行き来するのはアサミも見たりするが、見つけたヨットは一見して様子が違う。
、
「白っろっ!そして、へんなヨット!」
思わずアサミは声にしてしまい、辺りを見回す。どうやら独り言も誰も通らない為、セーフだと安堵する。
普段ならば無視する風景も、今日のアサミは何故かヨットの様子が気になる。土手の上から覗きこんでみれば、、、。
「ペットボトルの船?なんかの撮影?あ、ネットインフルエンサーか。」
ならば特に問題はないだろうと、アサミがジョギングの続きをしようとすると、中に人が 1人で うつ伏せに倒れてる!
アサミは急いで土手から降りて、川際のペットボトルシップに近づく。
「人いる、って?!それとも、寝てるだけ?もしかして、、」
動かない人物を、怪訝に思いながらアサミは注意深く背中をよく見る。死体ならば、警察に電話するしかないと覚悟を決める。
目を凝らし、見つめて、よく見て、
「息してたら、上下に動くはず なんだけど、」
『グルッ!!』
「ぎゃっ!!」
死体かもと考えていた体が、急に仰向けになった驚きでアサミの口からへんな声が飛び出る!!
相変わらず川べりは誰も通らない。アサミは相手が死んでなかったことに再び安堵して立ち去ろうとした。した時、
「sorry、、something、 to eat 、、 フード、、ください、、」
男性の弱々しい 声が アサミの耳に聞こえた。アサミはおずおずと振り返って、、ヨットに向かって聞く。
「Are you hungry?」
「・・・・」
さっき間違いなく聞こえてきたのは、空腹のSOS。しかし返事がない。アサミは焦って
「コレ あげるからさ!」
自分のウエストポーチを外し、ポーチごと ボーの真ん中に向かって 振りかぶり投げた。
「 It's food!食べて!」
相手に叫んで、頭に当たらないよう的を前方にする。アサミは昔から運動神経が良かったのだ。
「食べなよ!」
アサミにとって、なけなしの朝食は、ほうれん草とコーンの白味噌汁に胡麻油と自家製マヨネーズのおにぎり。
その朝食が、遠く カーブを描いて飛んで行く。
『ガゴッ』
上手く 男を避けて、朝食入りのウエストポーチは、船内に 落ちた。
相手は、いかにも気力振り絞ってそうな感じで、上体を なんとか お越して、ポーチに手を掛けた。どうやら無事に、水筒と ポーチポケットの
おにぎりを食べ物だと認識したみたいだ。アサミが心配で見ていると 、水筒を開け、味噌汁を脇にさしておいたスプーンで食べ始めたのが見える。
もう 大丈夫だろう。
「日焼けしてるなあ。」
アサミの口からつい出た相手への感想。何せ相手は、ボサボサの髪。髪色は黒いが日本人じゃない感じなのだ。食文化とか大丈夫だろうかと一瞬アサミの頭に考えが過るが、見るにつけ空腹なのか、ヨットの外国人は無心で食べている。
「じゃ、バーイ!!」
手を振って、アサミが三度ジョギングの続きを 再開と走り去ろうとした。がまた、
「sorry!!」
しつこく止められた。アサミがいよいよ不振げに相手を見る。髪も髭も伸びて、顔の半分が分からない不審者。浅黒いというのだろう日焼けした手に
おにぎりを持っていながら、アサミを引き留めるわけだから、
「No worries! いいからさ、」
変に巻き込まれるのも嫌だと思うアサミは、手を振って そのまま「食べて行ってよっ」とジェスチャーする。これ以上は一目散に 逃げるべきだ。
「シー、ポリス。Tell me、教えて、、、ください。」
「へ?」
一瞬アサミは、捕鯨団体へのペットボトルの船による抗議?なのかと勘違いした。しかし冷静になると、徐に電話を取り出し検索を始める。
「水上交番。そっか、湾岸警察署って水上警察なんだ。」
確かに調べると、この川の向かい上流に水上交番があった。
「I will call。わたし電話します。」
アサミは少し恥ずかしくなりながら、耳に電話あて自分を指差すジェスチャーをする。
「あの不審な船が 遭難してます。」
アサミが眼下に見ると、やはり変んな真っ白い、ペットボトルの船が岸に引かっかっているに間違いない。
『 キューーーイキュィーーーーー 』
ひどく鳥が 鳴いて飛んだ気がして、アサミは電話をしながら空を見上げる。
鱗雲の早朝は、空気が澄んで思いの外 アサミの声が響いたのだろう。
ただ、船上の外国人も、異様に驚いたのか肩を大きく揺らした。それでも、アサミが言った言葉がを理解したのだろう。
凄く綺麗な白い歯をニカッて見せながら、
「ありがとう、God bless you。」
離れているのにハッキリとアサミの耳に、相手が 笑って答えたのが聞こえた。
「ああ、褐色の肌っていうんだったね。」
これが自称 『魔術師ケイ』とのアサミサイドのファーストコンタクトだった。