目撃はケイヤク初日の午前中
「あ、どうして、こんな、、気分 なんだろう、、当てにしていたモールの案内がダメになったからか、、」
アサミは派遣依頼をする人員の打ち合わせを早々に終わらせ、まだ開店間もないモールへ来ていた。目星をつけている和菓子店に向かうつもりだったのだ。
そして今、視界の奥に昨日『ヒーローとして現れたケイ』が着物の令嬢と、モールを楽し気に歩いているのを目撃してしまった。
「他にも聞いていて良かった。」
バンケットオフィスの階下にあるデスパッチセンターで、派遣主任をするヤマモリは、ギャラリーのケイトウやダレンと合わせて、アサミにとって数少ない相談相手だ。
そのヤマモリに、ミズキからのファイルを渡し、人員の確認をしたアサミは『海外の友人にツアコンをするなら、何処が良いか』と聞いていた。
「じゃなきゃ、今からまたツアコン場所探さなきゃだった。」
ギャラリーの2人に持っていく和菓子を手に、物陰からアサミがソッと伺えば、周りに眩しいばかりのオーラ飛ばして歩くケイと、令嬢が見える。
ケイは昨日見た不審者スタイルではなく、『イリュージョニスト・ケイ』として、黒のスーツにネクタイ、前髪も艶やかに整えていた。
ショー・アーティストとしてセレブに ゲスト扱いでも受けて
のが一目瞭然。
「なんだ、ちゃんと ミスユニバースみたいなお嬢様に案内されてるじゃん。」
アサミは声も掛けれず、テナントの横から ケイ達が通り過ぎるのを待つしかない。
「じゃあ このモールは、ツアコン先に、使えないかあ。」
通り過ぎて小さくなる姿を眺めながら、アサミは呟いた。
令嬢の着物や、淑やかな仕草。極めつけはセキュリティさえ護衛しているのをみればサラブレッド確定の人物だと、アサミには簡単に予想が出来た。
レジデンス宿泊を提供できるぐらいの令嬢に、ケイは見初められたんだろうと、アサミは結論づけて、2人とは反対の方向へと進む。
アサミの頭に浮かんだのは、『元成金没落令嬢』時代の光景。そこから考えれば、さっきの着物が どれだけ高いか想像も可能で、生粋の女子学園育ちだった故に、『乙女の瞳にある熱』たるものも覚えがあった。
「ケイヤクなんて白紙になるかな。」
アサミは、和菓子の袋をぶら下げて、バンケットオフィスに戻る。
**********************************
そんなアサミに見られていたとは露程も思わないケイは、
「 It's late !マユ!何時まで 付き合わせる!お陰でmeet troubleだ。」
(しかも、やっぱりshopping mallを見たいからescortに降りろだ?guardしろ?サンザンだ。)
「オレを誰と思ってる。Never walk with me again! ニモツモチサイテーだ! Maikelも、マユにもな!」
隣でご機嫌な様子で、ショッピングを楽しもうとしている令嬢に、堪らず叫んだ。
ヒルズビレッジにあるオフィスタワーのエントランスホールは、 一時的に開放され、ペットボトルシップの展示をフリーで鑑賞できる。
『ケイヤク』の初日は今日の黄昏時。
アサミがケイをツアコンをする約束は仕事終りの夕方からだった。