雨には傘小僧を装う彼
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『パユン、パユンー傘、傘ー』
|||||『パユン、パユンー傘、傘ー』|||||||
||||||『パユン、パユンー傘、傘ー』
(今日のオレはPrinceでもartistでもない。どこにでもいる白いTシャツにデニム姿。なんだか excitedだな!)
レセプションショーを成功に終えたケイは、タワーオフィスから出た芝生で、赤い傘を回していた。本人は至って一般人に馴染んでいるつもりではある。
(彼女がオレを見つけて声を掛けてくるのは予定調和だろ?)
そんなケイがは、この国に『OjekOjek Payung』がいないことは充分に理解している。それでもケイは自国の風景を思い描かずにはいられない小雨が降っている。虹色の傘で、雨の通りに傘の花を咲かせる ケイの国名物、Ojek Payung。
(国では時に突然の豪雨にあう。そんな時、現れるのがーOjek Payungー
オジェック・パユン、、傘小僧だ。)
そしてケイが、船に乗せていた赤い傘を開いているのには訳がある。
「あの、、、貴方。こんなところで、、何をされて、。いるのですか。」
ケイの思惑通り、掛ける声の主はアサミだ。
ミズキを気にしつつもオフィスを退社したアサミは、タワーと同じ区画内に入るコンセプトモールへと向かうべく、エントランスを出たのだが、あいにくの雨に傘を持っていなかった。仕方なく、わずかな距離を小走りでやり過ごそうとした時。
『パユン、パユンー傘、傘ー』
アサミは、まさに子猫が入っていそうな段ボール箱に視線がいく。
「え?」
近寄れば、真っ赤な傘をくるくる回す見覚えのある風貌の人物がいる。それは間違いなく、朝に出会ったスタイルのケイで、アサミはギョッとなった。
アサミが働くヒルズヴィレッジの区画には、タワーオフィスの向かいJapanブランドショップを集めたモールと、総合医療センターが併設しており、近くにはタワーオーナーが建設した居住レジデンスも建てられている。それらが緑豊かなランドスケープ デザインでまとまり、都会のオアシスとして、憩いの場所を提供している。
そのグリーンパークの隅。
芝生へ明らかに作為的な段ボール箱の中に、朝に見た人物が、体育座りで入っていたのだ。
段ボールの前を通行人が、チラチラと様子を見ているのも仕方無い。というのも段ボールには、ご丁寧に黒いインクで、『Do magic for you』と書いてあるのだから。
あげく、箱の中に座る御仁は、さっきまでのスタイルとは一変し、再び髪と髭で 半分顔がわからない、朝の不審者へと戻っていた。
「Street、マジック!!」
アサミを見つけた朝の不審者=ケイが、アサミを見つけると突然叫んだ。
「な、?!」
間違いなく先程まで、拍手喝采を浴びていたアーティスト・ケイ。
その主役が楽しそうに小雨が降る中、傘を回して箱に座っているギャップに、アサミは目眩を起こしそうになる。加えて、鞄を頭に掲げて小雨を凌ぐアサミにとっては、本来ならば目立つ行動も避けたく、早くモールに入ってしまいたい気分なのだ。
しかしそんなアサミにケイはお構いなしに再び叫ぶ。
「Hey!Street、マジック!!」
「いや、、、その、、悪戯しちゃう的に、、マジックって、、。」
「Do magic for you!キミの為に マホウ使うよ?!。」
どこまでもマイペースなケイが、アサミに真っ白い歯を見せながら、体育座りのポーズで片方の手を出しすと、指で輪っかを作って見せた。
「お金、とる?の、ね。」
(だがスマイルは no moneyだろ?)
『パユン、パユンー傘、傘ー』
Ojek Payungは、歌いながら極上の笑顔を見せ、旅行者の警戒心を解いては傘を売る。もちろん雨の中を行く間は、彼らが売った傘を差してくれるのだ。
「Please pay the price!対価?は お願いしますから。」
ケイは段ボールに入ったまま、また楽しそうに真っ赤な傘をくるくる回す。
「あの、こんなとこでしなくても、、凄いパフォーマーなんじゃ、、」
アサミは怪訝な顔をしつつも、とうとう頭にかざしていた鞄から財布出して答えた。
「もう、、じゃ、OK。マジック、、、プリーズ。」
アサミにとって今日のレセプションはギャラリー経由とわいえ、 ケイに助けてもらったようなもの。
外国人アーティストの戯言か、はたまたストリートアートなのかもしれないが、少しはアサミ個人で、礼ぐらいはしてもいいと何故かケイを見ていると思えたのだ。
アサミは段ボールに書かれた通りにマジックをお願いしつつ、1度500円玉を出し、、再び仕舞って1000円札を徐に出し、、と、迷い始めた。久しくチップなど渡す機会がないからだが、そんなアサミの様子を眉を上げて眺めるケイが、
「baby、名前は?」
今度はどこか意地悪い眼差しで、アサミに投げ掛ける。
(さあ、なんてanswerするんだ?)
「、、、え?baby?、、。あれ?あ、そっか。ちゃんと挨拶してないですね。」
『パユン、パユンー傘、傘ー』
千円札を手にしたまま、アサミは出した財布を戻し、今度は鞄から名刺をケイに差し出す。
考えてみれば、ギャラリー『武々1B』のダレンが窓口となり、レセプションのやり取りはミズキが終始担当したのだ。
レセプションセッティングが怒涛のタイムスケジュールだった為、アサミは終始裏方。アーティストエスコートさえ課長が駆り出される始末だった。
今ようやくアサミは、レセプション後も、ろくに会話をしていない事に気が付いた。
「日本語も、、、あの、、お上手なんですね、、」
背中を丸めて渡された名刺に、ケイが視線を落とす。
(『田村 あさみ』。記憶に無いnameがprintされているが、、アサミ?だ?)
一瞬ケイの眉間に皺が寄ったが、直ぐさま笑顔でアサミに応える。
「アサミ。魔術師ケイです。これから ヨロシク。」
ケイが口にした途端、アサミが渡した名刺が『ボン』と音を立てて、マジックファイヤーを上げた!!ケイの突然のマジックに、アサミの目が見開く!
「凄い!!」
瞬く間に炎は消え、今度はアサミの目の前に、1本の赤い薔薇の花が出された!
再度アサミの瞳の瞳孔が開く。刹那、向かいに座るケイの目にはアサミのコンタクトラインがハッキリと見えた。
アサミに出す赤い薔薇の花を、 わざとゆっくり左右に動かすケイ。
そうして、アサミに薔薇を手渡しす。ケイは片方の手で、なんでもない様に傘を、肩でくるくると回している。実は傘を回しながら、アサミを上から下まで 確認をしているケイ。
(やはりな、コンタクトline colorはwhite。)
「あ、サンキュー。こ、これ お金、」
あまりの事に驚きながらも、アサミはもらった薔薇を鞄に差しながら、動揺を隠すようにケイに千円を渡そうとする。
「ノン。」
「え、、ケイ? あ、それに、、朝。わたした食べ物は、大丈夫でしたか。」
「助かりマシタ。Crow達にモーニングを 取られマシタから。」
ケイの表情は伸ばされた前髪で分かりずらいが、口元がヘニョっリと下がったのがアサミには分かる。
「そ、それは、、悲しいですね」
「エアロバイクで Humanエンジンしてきてのシウチ。起きあがれない。アイムdying。」
アサミの慰めに、おどけて親指で首を切るポーズをするケイ。そんなケイとアサミが話を続ける間に、とうとう小雨だった雨が本降りになってきた。
「Raining?」
するとケイが、回していた傘を肩からスッと外し、アサミに 入るように持ち直なおす。
(ああ、Ojek Payungのniceなところは、パユンだけじゃなくladyのBagをcarryしてくれるところだろうな。)
相変わらず段ボールに入ったままで傘を差し出すケイに、ケイを置いてモールに入る事を諦めたアサミは、苦笑しながらも、
「あの、とりあえず 雨を、しのぎましょう。薔薇のお代替わりに、、コーヒぐらいは、、ってえと、中に。」
雨宿りになるモールの入口を指で示して、ケイを促した。
『パユン、パユンー傘、傘ー』
「Okです。」
「、、その、段ボール、持っていかなくてもいけます?」
ケイが そのまま 段ボールから出て歩きはじめたるのを見て、アサミは律儀に段ボールの所在を気にする素振りを見せた。が、
「ノン。すぐリカバリーする。」
(影にいる警護がだがな。)
ケイのペースは乱れない。さながら自分がまるでOjek Payungとなったかに、ケイはアサミと相合傘になる姿を、ガラスに移して目を細めた。
「アサミ。ショッピング?」
そのまま 段ボールから事も無げに歩き始めるにアサミが並ぶ。
「鳥を、欲しくなって、ちょっと見ようかなと。」
モールに入る直前、アサミが段ボールに視線を投げると、其処のは既に段ボール箱はなく、青々とした芝生に佇んでいるだけだった。
「・・・」
首を傾げるアサミに、髪で半分見えない目元に眼鏡を掛けたケイが、アサミの返事にいかにも残念そうな顔をして、肩を聳やかせる。
「OH!!!」
そして、ゆっくりと 自分の長い人差し指を1本立て、その指でアサミの唇を縫い止めた。
「魔術師ケイが、アサミには、バードをあげましたから、No problem。」
徐にケイがアサミの唇に添えた指を解いて、手を開く。
「わ、」
そこには真っ白いオカメインコ、、ティカがいた。
ケイが恭しくティカをアサミに披露する。
「この子!スノーホワイトのオカメインコ!!う愛い、、」
ケイの手のひらからアサミの指に ピョンと飛び乗るティカ。まるで飼い主の様に指をつつくティカの仕草にアサミは、 ティカの後ろ頭を撫でて可愛がる。
アサミが見れば、ティカの頭の下=羽の間には独特の模様があった。
(運命の鳥には、特有のレモン色のハート模様がある。)
「名前は、『ティカ』Amulet の バードだよ。」
ケイがアサミの指に乗るティカの模様を撫でた。
ケイの国の守り鳥であり、ケイ達にとっては大切な守護鳥。
それがスノーホワイトの オカメインコ、ティカだ。
(どうやら、ティカはアサミを選んだらしいな。)
「えと、余り凄い子は、もらえないです、、けど、譲ってもらえるなら、、お金払います。お守りっってこと、、ですよね。あ、スノーホワイトの オカメインコって相場 いくらで、、?」
「ノー、マネーだ。」
一言呟いて、ケイは突然アサミの指にいる『ティカ』を掴んだ。
そうすれば瞬く間に手のひらでティカは消えてしまう。それをアサミが残念な声を出して、周りを見回すと俯いた。
「あ、の、流石にその、、、さっきの薔薇のマジックは素敵でした、から、せめとコーヒーで、、、イーブンします、、。」
千円札を戻されたアサミは、律儀にもう一度マジックの礼をケイに 伝える。
「OK、Let's make a ケイヤク」
けれどもアサミの思いもしない言葉をケイが口にした。
「はい?」
アサミは驚いているが何とか聞き返すことをした。
「は、、契約?、、なにを、、」
「そー、ケイヤクだ。君と。」
(negotiationだ。そのままねじ込め。)
「あ、あの。」
アサミは訳が分からないという様な顔をして、両手を振っている。勿論、そんなアサミの控えめな拒否などケイには通用しない。ケイは、たじろぐアサミの腕を掴むと、
「coffee?のむよ。」
ケイがアサミに興味を持ったのは、違和感と好奇心。そして、ティカの声に背中を押されて。
(このアサミが運命の花嫁とティカが言うならオレは彼女を、searchするべきだ。)
ケイはショッピングモールの入口に、そのままアサミをエスコートした。
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『パユン、パユンー傘、傘ー』
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