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ここ、グレイス国はもともと亜人族の国であった。
その名残を残すのが、耳と尻尾――そして獣化。
先祖から獣の血を濃くひく、ひと握りの者達は耳と尻尾を持ち、トリガー（引き金）で獣化してしまうのだ。そのトリガーは極度の緊張、驚き、恐怖、リラックスなどがある。
わたしのトリガーは"愛する人"なので、フォックス殿下となってしまう。
王家の血筋は濃く、グレイス国の王子フォックス殿下はあらゆる訓練を受けていて、滅多に獣化にならないはずなのに。わたしの前で獣化をして狐になるが、誰も彼のトリガーはしらないというより、知られてはならない。
彼、フォックスが一度狐になると、元に戻るまでラビットを離さない。ラビットが獣化して、黒ウサギになったら独占欲丸出しだ。
どうしてこうなってしまったのか。
それはフォックス殿下が五歳のとき。はじめて婚約者候補のラビットをひと目みたフォックスは獣化して、狐の姿になってしまった。初めてのことで周りの大人、フォックス自身も驚いた。
はじめて獣化を見たフォックスの婚約者候補たちが、フォックスを恐れるなか、ラビットは頬をそめてフォックスに近付いた。
『きゃっ、かわいいキツネちゃんだぁ〜』
『はぁ可愛い？ なら、僕を撫でてくれるのか？』
『うん、なで、なでする。なで、なで、キツネちゃん気持ちいい？』
『気持ちいい。今日からおまえは僕を撫でる係な！』
『やった！ 今日からナデナデ係ね』
頭のいいフォックスはそれをいいように使い、気に入ったラビットに近付き、彼女に甘えたおした。
10歳のとき。ラビットを婚約者に選んだフォックスは、我慢できずラビットの頬にキスをした。偶然にも彼女はトリガーが待ちで、発動して獣化して黒ウサギになった。
（へぇ。ラビットも僕と同じで獣化するのか〜）
そして、フォックスはラビットが獣化するのはこうすればいいのかと、本人の知らないところで知った。
（なんて可愛い、トリガーだ）
12歳――なぜかキス以降会ってくれないラビット。
フォックスはツテをたどり、大魔法使いに弟子入りして魔法を教えてもらった。このとき覚えた魔法で、ラビットの後を追っ掛け、仲良くなりそうな男どもをハイジョしていった。
だが、ラビットの従者アルだけはハイジョできない。
そして、フォックスの知らない間にラビットは、この国の守護獣ルフ様とも仲良くなっていた。
それ以来、ラビットが獣化すると。
『フォックス、いまはダメにゃ』
『フォックス殿下、ラビットお嬢様にあまり近付かないでください』
邪魔な奴が増えたのだ。
フォックスは――ラビットの側近アルをハイジョする為、騎士団で体を鍛えはじめた。
『誰にも、僕の邪魔はさせない！』
13歳――訓練の末、フォックスは強くなり、むずかしい転移魔法も習得した。覚えたての魔法を使い、狐の姿でフラッとラビットに会いにいく。ラビットが狐姿の自分を嫌がらないと、フォックスは知っているから。
『フォックス様、狐の姿で来てくれたの？』
『来てやった、なでろ』
『はい！ もふもふかわいい。尻尾も触ってもいい？』
『自由にしろ。もっと、僕をなでろ！』
『ナデ、ナデ、可愛い』
『そうだろう！ なでろ』
（他の奴が僕にさわるのは嫌だが、ラビットの手は気持ちいいなぁ）
