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わたしはイベントを側ではなく遠目で見たいので、フォックス殿下とのお茶の席にアルデェリアが現れたら「あ、わたし、用事を思い出しましたわ」と去ることにした。
そうすれば、フォックス殿下とアルディリアにわたしという邪魔者がいない。まぁ近くに護衛はいますが、基本は2人きりなので、運ばれた苺のケーキを仲良く食べ合いっこするに違いない。
我ながら、いいアイデアを思いつきました。
さて、テラスへお茶に行きましょうか。
❀
数分後。フフ、やりましたわ。
わたし、計画を実行しましたわ。
アルディリアさんが見てたすぐ「用事を思い出しましたわ」と、そそくさその場を離れて。テラスが見渡せる木の枝に座り、2人を見守っている。
「ラビットお嬢様、そんなところに乗って落ちないでくださいよ」
「そうにゃ、気をつけるにゃ」
「はいはい、わかっていますわ」
わたしが座る木の下で、わたしの行動に呆れながらも、枝から落ちないか、お茶をしながら見守ってくれている。
「その、クマさんクッキー可愛い! 美味しそう。アル、わたしにもそのクッキーください」
「はい、はい」
アルが焼いたクマさんのクッキーを渡され、テラスを見ながらサクサク食べ始める。ほのかに甘く、サクサクしたいてわたし好み。
「この、クマさんクッキー美味しいわ! アルったら、またクッキー作りの腕を上げたわね!」
「そうですか? お嬢様からの、お褒めの言葉なによりです。紅茶がはいりましたよ」
「ありがとう、いただきます」
木の上でお茶をしながら、わたしはテラスの2人を眺める。
「テラスにケーキが運ばれたわ。もうすぐ、ケーキの食べさせあいが始まるはず……」
って、あれ?
そのテラスから、フォックス殿下の姿が消えましたけど。アルデェリアもいきなりの事で、フォックス殿下の側近に話しかけた。
「あれ? フォックス殿下はどこにいったの?」
「ここだよ、ラビット」
背後から、嗅ぎ慣れた柑橘系の香りと。
長い腕が、わたしを厚い胸板に抱き寄せた。
「ふぉ? フォックス殿下⁉︎」
「はぁ……ラビットは酷いなぁ。用事があると言って、お茶の席に僕を1人置いて行ったくせに。こんなところで側近のアルと、ルフ様とで仲良くお茶をしているなんて、妬ける」
拗ねた声と、フォックス殿下の温かい体温を背中に感じた。とても嬉しい事けど、フォックス殿下は悪役令嬢のわたしといては……
「ダメです! フォックス殿下、離れてください」
「嫌だね。あ、ラビットの頬にクッキーのカケラがついてる」
後ろからフォックス殿下に、チュッと頬にキスされた。
「ひゃっ、フォックス殿下⁉︎」
「やっぱり、いまのキスでラビットの甘い香りが濃くなった――いいな、ラビットの甘い香りは僕好みだ」
「フォックス殿下の好みの香り!」
嬉しいけど恥ずかしくて「離して!」と、彼の腕の中で暴れても離してもらえない……暴れたぶんだけ、彼の腕の力が強くなった。
「ラビット、さっきは逃したけど。今度は逃さないよ」