にい
と、意気込んでいたのにおかしい。学園が始まって早3ヶ月が経つというのに、フォックス殿下とヒロイン――アルディリアさんとの好感度があがらない。
いったい、なぜなの? フォックス殿下はヒロインのアルディリアではなく、わたしばかりかまうし。どうにかお近付きになろうと、アルディリアはフォックス殿下に近寄るが、スルーされている。
乙女ゲームの通り2人はひと目見たときに「運命の相手だ」と、恋に落ちるんじゃないの?
数日前なんて。
「きゃっ!」
アルデェリアが乙女ゲームの通り、フォックス殿下のそばで転んだのだけど。フォックス殿下はサッと避けて、彼の側近がアルディリアを助けていた。またある日、アルデェリアは尚も奮闘するも、フォックス殿下の近衛騎士、側近によってさえぎられている。
何度も挑むも、アルディリアは上手くいかず。
いい加減、頭にきたのか。
「またアンタ達なの? あたしはフォックス様に用があるの、アンタは邪魔しないでぇ!」
いくら側近と近衛騎士に、アルディリアが声を上げても彼らは冷静に。
「そういうわけにはいきません。我らはアルディリア様には何度も申し上げております。フォックス殿下にご用があるのでしたら、事前に申し出てください」
「フォックス殿下には婚約者以外、誰一人、近付かせるわけにはいきません」
と、塩対応。
彼はグレイス国の第一王子。怪我をさせるわけには、いかないのはわかるのだけど。その彼らも、乙女ゲームだと攻略対象になんだけど……変ね。
❀
まあ、そんな毎日が続きましたが……ついにフォックス殿下とのイベントがきました。そのイベント内容はというと。学園のテラスでわたし、ラビットとフォックス殿下がお茶をしているところに、アルディリアが授業の内容がわからないとやってくるもの。
『フォックス様ぁ~』
彼女はピンの髪を揺らし、教科書を胸に抱えて走ってくる。フォックス殿下とお茶をしていたラビットは「また?」と、彼女を冷たくあしらう。
『なにか御用なのですか? アルディリアさん?』
『あ、ラビット様……ごめんなさい。さっきの授業でわからないところがあって……おじゃまでした?』
『邪魔よ、見てわからないの? 今、フォックス様とお茶の時間ですわ!』
ラビットはアルディリアを返そうとしたが、それをフォックス殿下が止める。
『いいじゃないか、ラビット嬢「授業でわからないところがあれば聞いて」と言ったのは僕だから……アルディリア嬢、僕の隣に座って』
ラビットでも座れない隣の椅子を、フォックス殿下が自ら引いた。
『はい、失礼します』
『フォックス様、どうして?』
嫌がるラビットを無視して、フォックス殿下はアルディリアを横に座らせ、横並びにノートを見ながら教えはじめる。そこに運ばれてくる苺のケーキをフォックス殿下は、アルディリアに食べさせるのだ。
(このイベント、フォックス殿下が幸せそうで、可愛くて素敵なんだ)
『アルディリア嬢、この苺おいしいよ』
『え? ダメです。ラビット様が見ています』
『ん? 何もやましいことはしていない。手が空いていないアルディリア嬢に、僕が苺を食べさせようとしているだけだよ』
その姿に我慢できず。
『フォックス様……婚約者の私の前で、そのようなことをなさるなんて! ……フォックス様はひどいですわ!』
ラビットは怒りをあらわにして、立ち去ってしまう。
(悪役令嬢のラビットは可愛いそうだけど。噛ませ役の悪役令嬢だからなぁ……仕方がないよね)