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その男、砂漠の民を率いる者なり

「随分と華奢なんだな」


 しばらくジャマルに揺られていると、唐突に後ろから声をかけられた。

 

「ご、ごめんなさいね……別に私の体形がどうこうはほっといてください」


「ふむ、まぁ、これでよく城から抜け出せたと思ってな」


 どう話しかけて良いのかわからず、無言のままでいたけれど、この人は私の事情を知っているようなのでこのタイミングで会話を進めていくようにもっていく。

 

「そ、それであなたは、いったい誰なのですか? 私を助けて何か利益でもあるのですか?」


 私の質問に対し、少し考えこむと眼しか見えていないが、ふと笑ったような感じがした。

 そして、考え込むような素振りをすると、おもむろに話し始める。


「俺がどこの誰なのかは、この際さして重要じゃない。ただ、俺たち(・・)は同じ志をもつ者たちってことを覚えていてほしい」


 何か含みのある言葉にイライラしてしまいそうになるのをグッと堪えて、ひとつ静かに深呼吸をするともう一度質問をしてみる。


「なぜ私を助けてくださるのですか? こうなれば、あなたも国から狙われてしまいますよ」


 すると、今度こそ鼻で笑い更に私に覆いかぶさってきながら、耳元でこう囁く。


「それは大歓迎だ、是非ともそうしてもらいたいものだね」


 この人は何を言っているのだろか? こう人の神経を逆なでするような感じに背中が痒くなってしまう。

 

「助けたのはある方からのお願いでね……本来は式典中に救い出すつもりだったらしいが、まさか自ら暴れて逃げ出すとは思わなかったぞ、おかげで計画が狂って俺一人で助けにくるハメになったじゃないか、でも」


 一瞬言葉を詰まらせ、私の横顔を覗きこむと会話を続ける。


「俺も聖女ってやつには少なからず興味があったが、想像以上にじゃじゃ馬だってことは理解した」


「⁉ ちょっと、さっきから話を聞いていれば、はぐらかしたり失礼な感じがするのですが?」


 段々とイライラしてきて、つい強い口調で話してしまう。

 肝心の話の本筋は全て流しているので、ちっとも進まないうえに、人をなめたような態度が気に喰わない。

 いっそのこと飛び降りて一人で逃げようかと思ってしまうほどだった。


 しかし、今までの態度から一変し真剣な表情になると後ろを振り返る。


「ちっ、気付かれたか」


「え?」


 後ろを振り返ると、そこには小さな砂塵が見えた。

 おそらく私を追ってきた兵たちだろう、数はたいしたことないが、少なくとも十人程度はいるかもしれない。


「どうするの? 戦う?」


「おいおい、随分と乱暴な意見だな! こういったときは全力で逃げるに限るってもんだよ!」


 ジャマルに鞭をいれると、今までの速足から一気に加速していく。

 しかし、相手の砂煙は私にたちに近づいてくる。


「やっぱり、アラブ馬の体力は化け物だな、このままじゃ地力で劣るジャマルが負ける……」


 王都の正規兵たちは馬に乗っていることが多い、そのスタミナは無尽蔵と言われているが、瞬発力に劣ると聞いていた。

 しかし、私たち二人を乗せたジャマルも遅くはないが、徐々に距離は近づきつつあった。


「まずいわね、ここは私が少しでも時間を稼ぐから先に逃げてちょうだい!」


 彼の腰に下げられたサーベル状の剣を取ろうとすると、彼はばっと腕で防いでしまう。


「何⁉ このままだと二人とも捕まっちゃうの」


 もしかすると、ソマリの力で切り抜けられるかもしれない。

 そんな考えもあり、今度は無理やり剣を奪おうとするも、彼はひょいっと私の腕をかわしてしまう。


「へっ、こりゃじゃじゃ馬どころじゃねぇな」


 この危機的状況だというのに、なぜかヘラヘラと笑っている感じがムカつく。

 じれったい、今度こそ……そう思ったとき、彼は動きを止めた。


「やっと来たか」


 急に止まったのを確認し、なぜ? と思っていると、後方から向かってきていた敵の騎馬隊が急いで反転し退却を開始していた。

 なぜ? いったい誰が来たというのだ? 私たちから見て右の方角を見つめて嬉しそうな表情になる。

 私もその方角を見ると、何やら砂煙が舞い大勢がこちらに向かってくるのが見えた。


「⁉ あ、あれは?」

 

「見ろ、これが今の世界だ、荒れ果てた世界に僅かなオアシスを求め人々は結束し暮らしているが、今の聖女教の連中らは狂ってやがる。王都ばかりに金が集まるようにし、挙句の果てには王都民からも金を巻き上げようとしてやがる」


 ギリっとその瞳に強い光が宿るのを私は見た。

 もしかすると、この人は私やソマリと同じ志をもった人なのだろうか?


「その不満が今形となって表れ始めている。これは神が我らに与えてくださった好機と捉えている」


 どんどんと砂煙が大きくなるにつれ、巻き起こしている人たちがの姿も見えてくる。

 みんな彼と同じ服装をし、ジャマルにまたがり剣や槍を掲げ、大声を発しながら私たちの元へと向かってきた。


「彼らはエブン・サビール(放浪)の民であり、この枯れ果てた地を守護する者たちだ」


 ドドドドドドドドドっと、目の前に現れるとその勇ましたときたら、思わず身震いしてしまいそうになるほどであった。

 先頭集団の一人がジャマルから降りると、私たちの元へ寄ってきて跪き頭を下げる。


「王よ、遅くなりましたことお詫びいたします」


「おう?」


 私は後ろにいる人の姿を改めてみる。

 そこには背筋を伸ばし、陽を背にうけキリっとした表情になっており、先ほどまでの柔らかさはまるでない。


「あぁ、そうだった自己紹介がまだだったな、俺はこのイスファ聖教王国 第一王子であり、今は放浪の民を率いる王でもあるラバルナ・イスファだ、弟の元婚約者さん……」


 

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