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地下通路

「こっちよ急いで」


 静かな声で案内してくれる。

 ここまでくれば、後は信じるしかない! 私は覚悟を決めてその人の後ろをついていく。

 床の下には階段があり、カビの臭いがキツイ感じがする。


「行くわよ」


 グッとドレスの裾をあげて、階段を下っていくと途中で床を閉じるように指示された。

 すると、辺りは暗闇に包まれお互いの呼吸だけが聞こえてくる。


「ちょっと待っててね」


 そう言って彼女は何かを操作すると、壁にポッと灯りがともりだした。


「これは……」


「これはね、このお城が出来た当時に非常用で造られた通路なの、このまままっすぐ、ひたすら真っすぐ進みなさい。私は上に戻って誰も来ないようにします」


 彼女は私の手を握ると、ぎゅっと力を込めてくる。

 その手の温もりは凄く心地よかった。

 

「ありがとうございます。本当に……」


「いいの、私があなたにしてあげられるのはこれぐらい、どうか、本当にどうか無事で、それとごめんさい」


「え?」


 その一言だけを残し、女性は私の横を通り過ぎて床を開けて外に出てしまう。

 一瞬、横顔を見たとき何かを思い出しそうになる。


「お、お義母さん……?」


 床を閉めるとき、彼女の頬には一筋の雫が見えた。

 私の声が届いていないのか、そのままパタッと外の光は閉ざされた。

 戻って聞こうとしたが、上で何か物を動かす音が聞こえ、完全に人の気配も無くなる。


「クッ!」


 心残りであるが、先を目指そうと階段の先を見つめ私は歩き出していく。

 湿り気が多い壁に手を添えて下を目指すと、階段が無くなる。

 あとは道が一本しかなく、道に迷うことはないだろう……だけど、これがもし相手の罠なら? いや、罠ならこんな面倒なことはしないだろう。


「信じるしかない」

 

 自分に言い聞かせながら、外に繋がっているであろう道を進んでいくと、頬に何かあたる感覚があった。


「もしかして!」


 足がかってに早まっていく、スッと風の気配が強くなり、怪しい石に力を入れるとググっと動く気配がした。


「お願い!」


 外に相手がいないことを願い、力一杯押し込むとガコッと石が外へ落ち出口が現れる。

 そっと外を覗き込むと、まだ暗さが残っておりどこかの洞窟か地下道に出たようだ。


「よし」


 誰も居ないことを確認し、外へでるとザクっと足を取られてしまう。

 砂? サラサラの砂がどこまでも続いており、今まで暮らしていた世界とは違う場所に来てしまったのか? そんなことを考えつつ出口を目指していくと、外の光が見えてくる。


「お願い……」


 最後の最後、願いをこめて外へ出ると、一気に日差しが私の頬を照らしてくる。

 チリチリと痛む暑さに、永遠と続く砂漠が目の前に現れた。


「ここは?」


 後ろを振り向くと、そこには砂漠の真ん中にドンっと建つお城が見える。

 その周りを大きな壁が囲み、私は今まであの壁の中にいたのかと理解できた。

 

 黙っているだけでも、汗が勝手に流れてくる。

 このままでは、私は砂漠に出てもすぐに倒れてしまうだろう、しかし、じっとしているわけにもいかない。

 一度洞窟へ戻ろうとしたとき、背後から声をかけられた。


「おお! 間に合ったか!」


「⁉」


 もしかすると、見つかった? 慌てて逃げようとするもなぜか相手は笑ってきた。


「おいおいおい! 違うって、俺は味方だよ、安心しな」


 ピタリと止まり、恐る恐る声の主を確認するとそこには、薄くボロボロの服に※シュマッグのような物で顔を隠している男性が立っている。

 周りを確認しても一人のようで、武器も持っていない。

 まだ安心はできないが、すぐに捕まったり殺されたりはしないだろう。


「誰ですか?」


 警戒を解かずに話しかける、相手は肩を少しだけ上下させながら近寄ってくるなり、背負っていたバッグをこちらに投げてくる。


「この中に必要な物が入っているので、すぐに準備してくれ、追手に気付かれると厄介だ」


 キリっと相手を見据えながら、バッグの中身を確認していく。

 服に、マントなど旅に必要なものがある程度揃っていた。


「どうして? なぜ私が追われていると知って助けてくださるのですか?」


「ん? そりゃ……その話は歩きながらで、ほら急げよ」


 そう言って背中を向けてくる。

 確かに、この白いドレスでは目立ちすぎてしまう、ボロボロだし歩きやすいだけで機能性はなにも考えられていなかった。

 急いで物影に隠れ、脱いでいくと自分の体に巻かれていた鎖が落ちていくような気がしてホッとため息が漏れてしまう。


「おぉい、そろそろ行くぞ!」


 誰なのかわからいけれど、今は頼るしかない。

 人脈なんて殆どない私がこの世界で生き残っていくためには、今あるモノに少なからず程度頼る必要性があるだろう。


「お、お待たせしました……」

 

「ん? 随分と質素になったな、俺はそっちの方が好きだな」


 煌びやかな姿から地味な色合いになるが、フードとマントが日差しから守ってくれる。

 水をひと口飲み込み、私たちは歩き出していく。


「あ、あの! 私はこれからどこに行くのでしょうか?」


「あぁ、それは到着してからのお楽しみってことで」


 少し離れた場所に、小さな砂丘がありその裏側にラクダに似ている生物でジャマルと呼ばれる動物が休んでいた。

 

「ほら乗って、急ぐぞ」


「……」


 乗るってこれに? あ、あのすみません、実は以前の世界では乗馬の経験もなく、ましてや車も運転はしたことがないんですよ。

 なんてことは言えるはずもなく、二頭のうち一頭に彼はさっさと乗ってしまう。


「どうした? まさか乗れないってことはないよな?」


 男性の声に私は答えることができない、黙ってままでいると大きなため息が聞こえてきた。


「ご、ごめんなさい」


「いいよ。本当に元聖女様は何もできないようで……よく逃げ出せたな」


 そう言いながら手を差し伸べてくれる。

 私は戸惑いつつも手を握り返すと、一気に上に引っ張られた。


「キャッ」


「おっと、大丈夫かい?」


 ストンっと男性の前に座ると、右手が私のお腹の位置で止まり両足でギュッと体を固定してくれた。

 ちょっと近すぎる気もするが、彼はそんなことは気にしていないようで、そのままジャマルに合図を送ると二頭は同時に同じ方角を目指して歩き出していく。

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