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商人という性

 私たちが準備を整えて待っていると、遠くから荷駄を引くジャマルの姿が見えてきた。

 護衛もいるようだけど、どうやら途中で交代しながら任務を行っているようだ。


「来ましたな」


「えぇ、緊張してきます」


 荷駄の隊列は思ったよりも小規模で、これでは数十人分しかないのでは? と、思ってしまうが、今はこれが限界かのかもしれない。 

 思ったような経済ができると本来は良いのだろうが、トップがあれでは期待するだけ無駄だろう。


「それとレイナ様、今更なのですが……実は、今回の相手は少々癖と言いますか、あのぉ」


 珍しく歯切れの悪い言い草、何があるのだろうか? 正直、この世界に来てから殆ど外の世界に触れてきてはいない。

 なので、常識というか一般的な知識ですら危ういところがあった。


「とにかく、あまり気を落とさずに、元々そういった人なのだとご理解ください」


 既に相手の姿がはっきりと確認できるところまで来ていた。

 荷駄を守っていたジャマル隊の一騎がこちらに向かってくると、ファルスと会話を始めていく。

 数回やりとりを交わして、すぐに隊列に戻るなりジャマル隊は来た道を戻っていった。


「さて、今後は我々が引き受けますぞ」


 ごくりと唾を飲み込み相手を待っていると、荷駄隊は到着した。


「どうも、ご苦労様です」


 ファルスが慌てて挨拶をすると、先頭に乗っていた人物がのっそりと起き上がる。


「ふわぁ……へぁ、もう着いた?」


 なんとも緩み切った声色に肩の力が抜けそうになる。

 私も彼の後ろに着いていき、軽く頭を下げていると男は立ち上がり辺りを見渡していく。


「なんだ、まだここか、まぁいいや。水と食料の補給が終わったら教えて、それまでもうひと眠りするから」


 そう部下に伝えると、またゴロンと横になってしまう。

 確かに日陰になっていて涼しいだろうけど、やる気がまったく感じられない。

 こんな人が街の人々を救おうとしている一員なの? 忙しそうに物資の補給を開始する人たち、私も何か手伝えないかと水の入った壺を運んでくると、男性が話しかけてきた。


「やめな、タダ働きなんてするもんじゃないよ」


「え?」


「キミたちは僕の商品を無事に王都まで届けるのが仕事、それに対しては報酬は出しているのでしっかりしてもらいたい。だけど、それ以外に関しては賃金の対象になっていないんだよ? だったらやらない方が利益になるじゃないか」


 ガバっと起き上がり、今まで横になっていた場所から出てくると私に向かってくる。

 顔を覆っていた布をとると、現れたのは短く整えられた金髪が目立ち、蒼い瞳とキリっとした顔のラインが印象的な男性で、素直に見ればかなりのイケメン度をもっているが、私は先ほどの発言でかなり心の距離を取ってしまっていた。


「利益というより、ただお手伝いをしているだけなのですが」


「ん? 女か? まぁいい、きっちり働いてくれれば問題ないからな、それにしても利益にならない手伝いをするなんて考えられない。自分の時間がお金に換算するといくらになるかって考えたことないの?」


 それはもちろん会社で働いているときに考えたことはある。

 でも、こちらの世界に来てから私は今まで無意味と言っても差し支えない時間を過ごしてきていたのだ。

 それはお金以上に大切なモノだと私は思っている、だから、今からでも一生懸命にやっていこうと考えて行動していたのにこの人は……。



「良いではないですか、私が好きでやっていることなので放っておいてください」


 これ以上話しているとイライラしてきそうなので、無理やり会話を止めて壺を荷駄に置こうとしたとき、私の腕が掴まれた。


「やめるんだ、これから僕の荷駄隊を護衛するんだろ? だったら、大人しく休んでいてくれたまえ今ここで体力を使われて本番でダメでしたなんて言われたら、金は払えないぞ」


 カチンーーッ!

 私の中で何かがプツンといった感覚があった。


「離してください、それと余計なお世話です‼」


 体を右側に捻り、肘をつかい掴まれた腕を無理やり剥がすと、そのまま元の位置に体を戻す反動を使って相手の足に左足を絡めてグッと手前に引くと、彼は少し驚いた表情をしたまま、後ろに倒れていく。


「うぉ‼」

 

 ドンッ、砂埃が舞い私は急いで壺を中に入れると相手を見下ろして言う。


「別に私のことはお気遣いなく、仕事はきっちりと行いますのでご安心を、それとこれからは女性の腕を不用意に掴まないほうがよろしいかと」


 私の元いた世界ではセクハラで訴えられたりもする可能性がある。

 まぁ、こちらはそこまでなっていないが、今から女性に対する扱いに関しては正しておいても損はないだろう。


 周りがざわめきだした。

 ファルス隊長が慌てて私たちの元へと駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫ですかゼイニ様⁉」


 様? お客様だから? でも、私この人嫌いかもしれない。 

 今後はお仕事の相手を考える必要があると進言しなくては、誰でも良いなんて考えは危険すぎる。


「構わないでくれ」


 ファルスが手を貸そうとすると、彼は自分で立ち上がりパンパンと汚れを落とすと、また私に近づいていくる。


「もう一度転びたいのですか?」


 ザっと近くに寄ってきたまま動かないでいる。

 冷たく綺麗な瞳が私を見下ろしていた。


「ふん、無駄な努力を尊いと考え、それに対する対価を求めないヤツは信用でき」


「別にあなたに信用されなくとも、お仕事はきっちり行いますのでご安心を、私ではなくファルスさんたちやラバルナを信用してください」


「仕事に信頼関係は絶対だ、俺はその関係は金で成り立っていると思っている。お前は金で動かないのか?」


 お前……その言葉にさらに苛立ちをつのらせていく。


「私にはレイナ・アストレアという名前がありますので、お前なんて言われたくありません」


 私の名前を聞いてぴくぴくと眉を動かした。

 一歩下がり横を向いて大きなため息をついて、ファルスに話しかける。


「例の聖女様の分は契約から削除していただきたい、どうやらお金では動かないような人なので、信頼できない」


「それで結構です。お金など必要ないのですが私はきっちりと参加いたしますわね」


 既に私を見ていない、聞いてもいないだろう。

 何も言うことなく彼は自分の荷駄へと戻っていく。


「聖女様、あの人は……」


 ファルスが何かフォローしそうになるのを止めて私は手伝いを続けていく。

 だってそうじゃない? いくらお得意様だって限度がある。

 我慢しなければならない時だってあるけれど、私は今後あの人の仕事は受けないと決めた。

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