表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

報告

 最初の居間に通される。ゴウさん達の姿はなかった。

ヒョウカさんは囲炉裏の側に座ると私達にも座るように

促す。

 私達が座ったのを確認すると小さく頷いて口を開いた。


 「さてと、話を聞かせてくれるかしら?」


 「スエちゃんと帰っている時に路地裏で蹲っているアヤカシを見つけたんです。

 それで大丈夫かなと思って声をかけても反応がなかったので、スエちゃんに誰かを呼んできてもらおうと思ったら

襲いかかって来ました」


 「ねこさんだったよ。きのいた、ぐらいかんたんに、

こわしそうなつめで、

おねえちゃんにとびかかったの。

でもスエはさけぶことしかできなくて……」


 大丈夫かと思っていたがまだ引きずってしまっているようだ。簡単に忘れるのも難しいと思うが、申し訳ない気持ちになる。


 「でも、その声で天狗が風を起こして猫又を吹き飛ばしてくれたんです。おかげで無傷で済みました」


 「そう……。危険な目に合わせてしまったわね。

二人とも無事で本当に良かったわ」


 そう言うとスエちゃんの方を向く。


 「スエもありがとう。もう帰って良いわよ」


 「え~、まだ、かえりたくないよ。おそとも

あかるいし」


 「お兄さん達が心配するわ」


 「はーい……。またね、ヒョウカおねえちゃん

ユウカおねえちゃん」


 スエちゃんは渋々といった感じで居間から出ていった。

お兄さん――ダイ君には弱いのかもしれない。

 彼女を見送るとヒョウカさんは私に向き直った。


 「あと、一つ話し忘れた事があったわ」


 「何ですか?」


 「ユウカ以外にも人間が来た事があるのかって話よ」


 「あ」


 (いろいろあってすっかり忘れてた。そういえば拠点に

ついてから話すって言ってたんだよね)


 彼女が一息ついてから口を開く。


 「確かに人間が迷い込んで来た事はあるの」


 「そうなんですか⁉その人達は今どこに――」


 「あいつらにやられたわ」


 「え……?」


 (『あちら側』に?)

 

 驚いて目を見開いた。彼女は真剣な表情で話を続ける。


 「今までユウカみたいに、ここに迷い込んで喜ぶような

人はいなかったの。怖がって逃げ出す人が多かった。

それで、あいつらの餌食になったのよ」


 「………………」


 (少し貶されてる感があるような……。でも普通の人からしたら怖いよね。私は嬉しいけど)


 「それにね、少なくとも二百年前までは人が来ることなんてなかったのよ。

なのに急に来るようになって私達も戸惑っているわ」


 「すみません……」


 「謝るような事じゃないわ。皆、意図せずこちらに

来てしまったのだから」


 「何か原因はないんですか?」


 私がそう言うと彼女はため息をついた。


 「確証はないけれど一つ。私達の世界とユウカ達の世界を繋ぐ『門』の役目が、機能しなくなっているのではないかと考えているわ」


 「それって私が元の世界に戻るためのですか?」


 「そうよ。あいつらが術か何かを使って『門』の威力を

弱めているのかもしれない。

人間を恐怖に陥れようと考えているあいつらなら

有り得るのよ」


 話を聞いているとその可能性が高いように思えてきた。


 (もし『あちら側』のアヤカシ達が私達の世界に

来たら……?人の目に映るのかな?

でも大変な事になるのは間違いない)


 「なら、私がずっとこの世界に居れば……」


 「二度と親しい人達に会えなくなってもいいのなら

居て良いわよ。

空き部屋ならたくさんあるから私達は問題ないし」


 「……………………」


 返せる言葉が思いつかなくて俯く。確かに私がこの世界に留まれば『門』を開かなくて済むが

それは永久に自分の世界には戻れなくなる事を意味する。

 

 (二度と家族や友達に会えなくなるのは嫌だな)


 「迷うくらいならやめておきなさい。たぶん後悔の方が

大きくなるわ」


 「はい……」


 ヒョウカさんの言葉に頷く事しか出来なかった。


 「まだ時間があるわね。何をするの?食べる物なら適当に

用意しておくから、食べたくなったら声をかけて

ちょうだい」

 

 「わかりました」


 (確かにまだ夕方にもなってない。ちょっと戻ってくるの

早かったかな。どうしよう……)


 また外に出ようかとも考えたが、さっきのように襲われるかもしれない。


 「この建物の中を見て回ってていいですか?」


 「いいわよ。至る所にアヤカシがいるから気をつけてね。……心配しなくてもユウカは大丈夫かしら」


 「はい。

 ところでアヤカシってこの村にはどのくらいいるんですか?

ヒョウカさんといた時もそうでしたけどあまり

見かけなくて……」


 私がそう言うとヒョウカさんは、ああ、と声を洩らした。


 「正確な数は私にもわからないけれど二百は居ると

思うわ」


 「に、200⁉」


 「ええ。皆、警戒しているみたいね。打ち解ければ問題

ないけど」


 「ど、どうやったら会えますか⁉仲良くなれますか⁉」


 思わず身を乗り出した私にヒョウカさんは少し呆れたように眉を下げた。


 「姿を見つけるのを待つしかないわね。ただ、ゴウ達が

話して回ってると思うわ。

「今までとは違う人間が来た」って」


 「本当ですか⁉」


 「き、聞いた訳じゃないから推測よ……」


 「推測でもいいです!ありがとうございます!

行ってきます!」


 私は興奮しながら最初と同じように居間を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ