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アヤカシ達の事情

 お屋敷の中は綺麗に片付けられていて歩きやすい。

所々修理の跡があるものの全く問題はなさそうだ。

 失礼な話、妖怪達の事だろうから足の踏み場もないほど散らかっているのではないかと思っていた。

 ある障子の前に立つとヒョウカさんが勢いよく開ける。

中に居る妖怪達が一斉にこちらを見た。


 「戻ったわよ」


 「おう、おかえり姐さん!」


 大柄でガタイの良い男が近づいてくる。一見人間かと思ったが、頭に二本角が生えているので鬼で間違いないだろう。

彼は私に気づくと目を丸くした。


 「お、人間拾ってきたのか?」


 「道に迷ってたみたいだったから案内しただけよ。

拾うって言い方はひどいわ」


 「はは、すまんすまん」


 ヒョウカさんに注意されて鬼がバツが悪そうに頭を掻く。


 (大御所だー!鬼だー!図鑑で見ていたのと少し違うけど。

でも嬉しい!)


 「わ、私は優和と言います。あなたは鬼ですよね?」


 「おう!俺はゴウっていうんだ。……俺の事怖くないのか?

てっきり叫び声でも上げられるのかと思ったぜ」


 「図鑑で見慣れてるので怖くはないです」


 「ずかん……?」


 ゴウさんが不思議そうに首を傾げる。するとヒョウカさんが助け舟を出してくれた。


 「ユウカはアヤカシが好きなのよ。ここに来て喜ぶ程に」


 「へぇーー。なら、こいつ等の名前当てられるか?」


 彼が指し示した方を見ると奥の方で三体のアヤカシが

囲炉裏を囲んでいる。


  (えっと、赤い顔に高い鼻、尻尾が二股の猫、

女性の河童……)


 「左から天狗、猫又、寧々ねねこさん!」


 言い切るとアヤカシ達から歓声が上がる。


 「お見事なり、ユウカ殿」


 「化け猫と間違える者もいるのに

大したものだにゃー」


 「まさか名前まで当てられるとはね。河童で終わりかと

思ってたよ。

 さん付けが気になるけど」


 「それは気にしなくて良いと思うわ。礼儀をわきまえてて私は好感が持てるわよ」


 ヒョウカさんの言葉に寧々子さんがそれもそうか、と

頷く。

 ゴウさんは満足そうに口角を上げると再び口を開いた。


 「それでどうやってここに来たんだ?」


 「えっと、遊具で遊んでたらそのまま……」


 場の空気が静まり返る。穴があったら入りたい気分だ。

皆どう反応していいのか分からないようで、口だけ開けて

いる。


 (え、そんなに黙り込む?やっぱり変だった?)


 不安に思っていた時、ゴウさんが豪快に吹き出した。


 「はははははははっ!遊具遊んでたら⁉

穴に落ちたとか洞穴抜けたらとかじゃなく遊具で遊んでたら⁉

ははははは!腹痛ぇ!」


 「ゴウ、ユウカは真面目なのよ?」


 「分かってるよ!しかし遊具で遊んでたらって!

はははははははっ!」


 ヒョウカさんは呆れたように横目で彼を見ると

私の方を向く。


 「ごめんなさいね。ゴウは笑いの沸点が低いの。

大した事じゃなくてもあんな風に笑い出してしまうのよ」


 「いえ……助かりました」


 (場の空気を凍らせてしまったし)


 「あらそう。それで、元の世界には帰りなくないの?」


 「帰りたいか帰りたくないかで言えば

帰りたいんですけど、

せっかくみんなに会えたのにもったいなくて……」


 「アヤカシ界にはあまり長く居ないほうがいいと思うわ。良くて三日ね」


 「三日……」


 長い方だとは思うがあっという間に過ぎてしまいそうだ。同時に頭に疑問が浮かぶ。


  (なんで長く居ないほうがいいんだろう?)


 「どうして三日なんですか?」


 「……時は動いているのよ。もしここで過ごした一日が

あなたの世界では三日過ごした事になっていたらどうするの?

それに仲間との生活もあるのでしょう?」


 「そうですけど……」


 (私が帰っちゃうと二度と会えないかもしれない。

それなら居れるだけ居たいな)


 とはいえ、元の生活も大事だ。それに家族や友達が心配しているかもしれない。

 悩んでいるとゴウさんが思い出したように声をかけて

くる。


 「それにしても最初に会ったのが姐さんで良かったな」


 「どうしてですか?」


 「俺達は人間に対して友好的な方なんだが、その逆の奴等も居るんだよ。

そいつらに会ってたら襲われてアンタここまで来れて

なかったと思うぜ」


 「え……」


 (人を襲うアヤカシも居るから良い人ばかりではないとは

思ってたけど、そこまで?)


 言葉を失う。図鑑の解説に攻撃的な妖怪もいると書かれてあったのは確かだが、今ひとつ信じられない。

 他のアヤカシ達を見てみるが気まずそうに目を伏せているので事実なのだろう。

 

 「私達はそいつらの事を『あちら側』のアヤカシと呼んでいるわ。区別するためにね」


 「『あちら側』……」


 きっとヒョウカさん達と同じように多くのアヤカシがいるのだろう。


 「話が逸れたわね。あなたを帰すのには準備が必要なの。長く居ないほうが良いって言ったけれど、少なくとも一日は居てもらう事になるわ」


 「わかりました。なら、村の中を見てきてもいいですか?」


 「ええ。くれぐれも村の外には出ないでね。

命がいらないのなら出て良いけれど」


 「死になくないので村からは出ませんっ!

じゃあ行ってきます!」


 私はヒョウカさん達に頭を下げると

勢いよく部屋を飛び出した。

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