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拠点へ

 あれからどのくらい歩いたのかはわからないが

私は雪景色とは程遠いのどかな地面に足をつけていた。

目の前には歴史の教科書に出てきそうな民家が立ち並んでいる。

  

 「ここが雪女さんの住んでいる村ですか?」


 「そうよ」


 「なんだか思ってたのと違います。もう少しおどろおどろしい空気が漂っているのかと思ってました」


 「ここに住んでいるのは明るい者が多いから空気にも出ているんでしょう。

あなたの持っている情報と違って驚くかもね」


 彼女はそう言ってからおもむろに私の方を向いた。

思わず体が固まるが、表情が変わっていないためそんなに

真剣な話ではなさそうだ。


 「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はヒョウカ。

知ってるだろうけど雪女よ」


 「私は優和といいます。高校1年生です」


 「ゆうか。こうこう、いちねんせい。

……私で言う雪女みたいなものかしら?」


 ヒョウカさんは少し首を傾げながら、私の言葉を

繰り返した。


 「あ、はい」 


  (そうか、いきなり高校1年生なんて言われても何の事かわからないよね。

 でも、こうこう、いちねんせいって言ってる時の表情

可愛かった!)


 「……ユウカはアヤカシ好きなんでしょう?

なら皆の姿を見てもなんとも思わないわよね?」


 「はい!ずっと会いたかったので!」


 その時視界の隅に小僧の姿を捉えた。こちらに背中を向けているので顔は見えない。


 (小僧さんの姿をした妖怪は何人かいるけど両手に何も持ってない。

という事はあの妖怪は!?)


 「そこの小僧さん、待ってくださーい!」


 居ても立っても居られなくなって躊躇なく村の中に足を踏み入れる。

全力で走ってどうにか彼に追いついた。


 「すみません、もしかして――」


 「ばあ~~!!」


 目の前に大きな一つ目が映し出される。


 (やっぱり、一つ目小僧!図鑑で見慣れてなかったら絶対に腰抜かしてるところだったよ


 とはいえビックリしたのは事実で声が出なかった。そんな私の様子を見て彼が不思議そうに首を傾げる。


 「あれ?驚かないね?」


 「あ、絵で姿を見た事あるからだと思います。一つ目小僧ですよね?」


 「そうそう。ぼく有名だから。驚かれなかったのは少し

悲しかったけど」


 「ご、ごめんなさい」


 その時彼があっ、と小さな声を出す。視線を追うと私の

後ろに向いているようだ。

振り返るとヒョウカさんが呆れ顔で立っていた。


 「まさかいきなり走り出すなんて思わなかったわ。本当にアヤカシが好きなのね」


 「あはは……」


 「ヒョウカさん、この人も迷子?」


 彼が大きな目を輝かせながら興味深い様子で彼女に尋ねる。


 「そうよ。体感したかもしれないけど少し変わってるわ、この娘」


 「うんうん。興奮気味で話しかけてきた上にぼくの顔見ても声を上げなかったから

そうだろうなーって思ったよ」


 二人が私を間に挟んで話し始めた。しかも自分の話なので少し居心地が悪い。

そして彼の言葉が頭に引っかかっていた。


 (「この人()って。ヒョウカさんと会った時もそうだったけど、ここに迷い込んだ人は私だけじゃないみたい。

 今話題に上げる事じゃないとは思うけど聞いてみようかな)


 「あの、私以外にも迷い込んだ人間って居るんですか?」


 そう言うと彼等は顔を見合わせて黙ってしまった。

やっぱり聞かなければよかったと後悔する。

どうしようか戸惑っていると彼女が憂いの表情で口を開いた。

 

 「……その事については拠点に着いてから話すわ。

気になるだろうけどもう少し我慢してちょうだい」


 「はい……」


 (我慢か……)


 「そっか、じゃあお別れだね」


 ガックリと肩を落としている私を見ながら、

彼はゆっくり体を揺らして去って行った。

最初見かけた時は揺らしていなかったと思うが

気分の問題なのかもしれない。


 「私達も行くわよ」


 ヒョウカさんが歩き始めたので私も後に続く。

一つ目小僧以外の妖怪に会えるのではないかと思っていたが、周りを見ても誰も出歩いていない。

昼間だからだろうか。

 やがて村の中で最も大きいと思われるお屋敷の前に

辿り着いた。

門があるし今まで流し見してきた民家とは違って頑丈な造りなのは見てわかる。

 おそらくヒョウカさんが言っていた拠点とはこの建物の事だろう。思わず魅入ってしまう。


 (まるで武家屋敷みたい。庭もあるし相当広いんだろうな)


 「来ないの?」


 声をかけられて慌てて正面を向くと彼女が不思議そうに

こちらを見つめていた。


 「あ、行きますっ!」


 急いで側まで移動する。

私が門をくぐったのを確認すると彼女は門を閉めて閂をかけた。

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