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まさかのトリップ

 『まもなく閉館でございます。ご利用の方はお早めに貸出・返却の手続きをお願い致します』


 館内アナウンスが聞こえてきて私は腕時計を見た。17時15分。あと15分で図書館が閉まってしまう。

 

 「よし、帰ろう」


 鞄を持って立ち上がるとカウンターにいる司書さんにお辞儀をする。その人は笑顔で返してくれた。

ほぼ毎日通っているので顔を覚えてもらったみたいだ。

 外に出ると空がオレンジ色に染まっていた。


 私は芦ケ谷優和あしかや ゆうか。高校1年生だ。

好きなものは妖怪や心霊現象といったホラー系で

愛読書は『徹底解説!妖怪大図鑑』。

小学6年生の時に祖母から生日プレゼントで貰って、それから常に持ち歩いている。


 帰り道、ふと左を見ると小さな公園が視界に入った。私がまだ幼い頃よく遊んでいた公園だ。


 (懐かしい)


 いつもは通り過ぎるのだけど、無性に公園に寄りたくなって足を踏み入れる。

遊具は私が遊んでいた時と変わっていなかった。


 「確かブランコでよく遊んでたっけ」


 少し奥の方へ行くとあの時より少しペンキの剥がれたブランコがそこにあった。腰を下ろすと重みで板が軋む。

でも乗れなくはなさそうだ。

鞄を肩にかけたままゆっくりとブランコをこぎ始める。


 (あの時は友達とどっちが高いところまでいけるか

競争したなー)


 今は1人なので慌てる必要もない。だんだん見晴らしが良くなってきた。

キイキイと鎖が鳴る音を聞きながら目を閉じる。風が頭部に当たって心地良い。


 (このまま妖怪だらけの世界に行けたらなー。なんてそんな事あるわけないか)


 すぐに妖怪の事を考えてしまう。私の悪い癖だ。会えるのなら会ってみたいし仲良くなれたらもっと良い。

でも私に霊感は無いのでそれらが見えるなんてことはないだろう。

 ブランコをこぐ早さは変わらないのに急に風が強くなった。周りの空気も冷たくなってくる。


 「……って寒いっ!」


 あまりの寒さに目を開けた私は固まってしまう。見慣れた公園は影も形もなくなっていて、

変わりに先の見えない真っ白な景色が広がっていた。


 「ここどこ?外国?」


 少なくとも日本ではないと思う。どこかの山のように見える。

エベレストとかキリマンジャロとかそんな感じだろうか。


 「とにかく動かなきゃ。凍えちゃう」


 右も左も分からないまま震えながら1歩ずつ足を動かす。

 それから10分くらいは歩いただろうか。景色は一向に変わらず、しかも吹雪いてきた。

どんどん奥に進んでしまっているようだ。


 「ね、眠くなってきた……」


 だからといってこのまま眠ってしまったら二度と目は覚めない気がする。

そうは思っていても徐々に足を踏み出すスピードが遅くなってきてるし、視界もぼやけてくる。


 (私、このまま……)


 「迷子かしら?」


 ゆっくりと振り向くと白い着物を着た綺麗な女性が立っていた。不思議そうに私を見つめている。


 (あ、この人、人間じゃない)


 直感的にそう思った。この吹雪の中着物だけでしかも全く寒がっていないのだ。


 (雪山、白い着物、女性、美人……)


 諸説はあるが少なくとも『妖怪大図鑑』の雪女の項目と

一致している。さっそく尋ねてみることにした。


 「もしかして、雪女さんですか?」


 「……私の事知ってるのね」


 「はい!とても有名ですから!」


 (わぁ、本物!?でもこれ夢じゃないよね?)


 思いきり頬をつねると痛かった。会えたのが嬉しくて眠気が一気に吹き飛び、聞きたい事が次々と頭の中に

浮かび上がってくる。


 「あの、質問があるのですけどいいですか?」


 「良いけれど、少し待ちなさい」


 彼女は私の側まで来るとどこから取り出したのか、

布を肩に掛けてくれた。


 「何も羽織らないよりは良いでしょう?それと質問は

歩きながら聞くわ」


 「あ、ありがとうございます……」


 彼女が歩き出したので私も遅れないように隣を歩く。

掛けてもらった布のおかげなのか体の震えが止まっていた。


 (諸説はあるけど雪女って確か息で相手を凍らせてしまったり、出会った者の命を奪ったりするって言われてる。

私が女だから襲わないのかな?)


 だが理由を尋ねる勇気は無い。気が変わって襲いかかってくるかもしれないからだ。


 「それで、何を答えれば良いのかしら?」


 「えっと、ここはどこですか?気づいたら立っていて

分からないんです」


 「変わった着物を着ているとは思ったけど、住んでいる

世界が違うみたいね。

 ここはアヤカシが住まう世界。アヤカシ界とでも

言いましょうか」


 「アヤカシ界……」


 (本当に妖怪だらけの世界に来ちゃったの?)


 思わず立ち止まる。彼女が嘘をついているようには

見えない。

興奮して体が熱くなってきた。


 「やったあぁーーー!」


 「…………え?」


 突然大声を出した私に彼女が目を丸くする。

そして怪訝そうに口を開いた。


 「寒さで頭がおかしくなったのかしら?」


 「違います!私、妖怪に会うのが夢だったのでとても嬉しいんです!」


 「変わった娘ね。嬉しいなんて言われたの初めてだわ」

 

 彼女が困ったように微笑む。しかしすぐに真顔になると

言葉を紡いだ。


 「ひとまず村に案内するわ。それからいろいろ聞かせて

ちょうだい」 


 「はい!よろしくお願いします!」 

 

 (アヤカシ達の村。どんな所なんだろう。狐火とか飛んでるのかな?早く行きたい!)


 さっきまでの寂しさと恐怖はすっかりなくなっていた。

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