6.④硬派(あくまでも見た目)騎士を選んでみた
「どうやら本気のようだねぇ」
「冗談を言うほど呑気ではないですよ」
私の様子をすぐに察知したのは、ジルヴェール殿下だ。その声の響きは面白いという気持ちがもれている。
「あ、結婚されてます? または彼女がいたりして。ありえますよね」
堂々と宣言しておいて、基本的な部分が抜けていたので聞いてみる。イケメンならいる可能性が高いはずなのに失敗だ。周囲が派手すぎるのがいけないのよ。
「ランクルは、ずっと砦にいたから妻も恋人もいない」
何故か殿下が答えている。身分や年齢でみれば、接点がなさそうだけど、この空気感は付き合いが長いのか。それは彼だけではない。
「向こうは落ち着いたのか? 自ら戻ってきたわけじゃないよな」
「あらかた片付いた程度だったが急に呼び戻された」
名前も知らず花婿指名をしたランクルという男と次に話に参入してきた騎士団長の会話を耳にしながら、席に座り直し茶をすする。
「確かに彼の能力は此方にも聞こえてくるくらいですが、私もそこそこ強いですよ?」
隣に魔術師が座ってきた。君のそういうパーソナル空間がないのが嫌なのよ。一気にお茶が不味く感じ音をたてソーサーに置き再び立ち上がり扉に向かう。
「私が、もっと若かったら喜んで結婚して、めでたしになったかもしれないけど」
振り返り集まったイケメン達を眺めた。
「貴方がたにとっても迷惑な話よね。好きでもない人をしかも得体の知れない異世界人を落とせだなんて」
おそらく国と家の為だけにいるのだろう。能力や容姿が優れているだけで選ばれて。
「なんか、ちょっと君達に同情するわ」
一番これから迷惑をかけるであろう微動だにしないランクル君の肩は届かなかったので腕を軽く叩き仰ぎ見た。
「迷惑料は払う。きっと見合うものをあげられるから。皆さん、そういう訳で陛下に伝えて下さい。この度は、貴重な時間をいただきありがとうございました」
そのまま、彼らを残し部屋から出た。
「あー、密だった」
なんか慣れないイケメン達を至近距離で見ていたので肩が凝ったぞと首を左右に動かし伸びをしながら歩いていたら。
「お待ちください」
「ん? あ、硬派イケメンじゃなくてランクルさん」
彼の顔がいやに真剣そうな表情だったので足を止めた。
「何故、私なのでしょうか?」
暗がりではなく日の光の下にいる彼の髪は、綺麗な赤色だった。ちなみに目の色は薄い水色である。火と水だなんて不思議な組み合わせ。
「髪の毛、乾かしてくれたの君でしょ? あと冷えないように私の周囲を暖かくしてくれた」
魔法や魔術が存在するらしい夢みたいな世界。簡単に皆が使えるのかは知らないけど、なんの打算もない気遣いが嬉しかった。
「婚約とはいえ、履歴書に傷がつくかな。先に謝っておく。ごめんね。魔術師に聞いたらまだ帰るには手こずっているみたいでね」
来たばかりのこの違いすぎる環境の中、まず自分の身は守りたい。なんせ候補の魔術師でさえ私に仕掛けようとしたのだ。
安全で、少しでも安心できる味方が欲しい。
「そんな事は、あの場にいた者なら誰でも行ったはずです」
「そうかもね」
ふっと笑ってしまったら、訝しげな顔になっている。そんな顔でも整っていると違うのね。
「さっき言っていた見返りは、治療よ」
「私は、怪我を負っておりません」
戸惑う姿に素直さが垣間見え幼く見える。私よりずっとガタイはいいけど。
私は、目の前の人以外に聞かれないように距離を詰め囁いた。
「貴方じゃない。貴方に近い人」
──空気が変わった。
皮膚がピリピリする。
「何故、知っている」
丁寧な物言いが、ガラリと変化した。しかし、そのくらいじゃあ何とも感じないな。
「何故でしょうね? とりあえず部屋に戻れそうにないので案内して頂けます?」
道端で話す内容じゃないと目で伝えれば、彼は私の前に出て無言で先導し始めた。
彼の背を眺めながら大きなため息が出た。
布に包まれた弓を、弦がない状態なので真っすぐの枝のような状態の物を握り直す。
自分の三回忌に弓を持っていくように指示したのは、生前の祖母だ。
「……必然ってやつか」
クツクツと笑うばーちゃんの声が聞こえた気がした。