3.花婿候補①は粘着質(確定)
「申し訳ないけど、少し離れてもらえますか?」
召喚を行った相手と時間が取れるまで半ば強制的に部屋から出された奏の機嫌はすこぶる悪い。
「申し訳ございません。護衛も兼ねておりますので」
長い銀髪をなびかせ全く悪気がない男は、結婚相手候補①のギュナイルなんとかさん。長くて苗字の部分は覚えきれないので省略。
「タカミヤ様というのは家名とお聞きしました。よろしければ、お名前を教えて頂けないでしょうか?」
ギュナイルは、めげることなく笑顔で聞いてくる。
「頂けないわね」
大股で歩く私に、細いくせに優雅な足取りでぴったり付いてくるので引き剥がすのを諦めかけた時、なにやら騒がしいエリアに来たようだ。
「此方は騎士達の訓練場になりますので」
静止したい口調に逆らいたくなり、そのまま足を向けた。だって、そうしたくなるじゃない?
「へぇ、女性もいるのね」
出歩いたのは初めてだとはいえ、見かけた女子はスカート丈は長めでヒラヒラとしたドレスだったから、女子戦うべからずかと思いこんでいただけに口に出た。
「女性の警護は、室内など近い距離では同性がする傾向にありますから。また長剣だけでなく短剣や弓の扱いに秀でている者もおります。騎士団の特徴としては入団後、その間の身分はなくなり実力主義になります」
家柄は関係ないとはいえ完全には無理じゃないかな。だけど実力主義はいいわね。私は遠慮したいけど。
「なんか詳しいわね。貴方も騎士様?」
「いえ。私は、魔術部隊に所属しています」
体型からして違うよなと思いながらも聞いてみたが、やはり。
「わかっていらして質問をされたように思いますが」
「なんとなく聞いただけ」
見もしないで答えれば急に右手を引かれ、視線は、やむなく動く。
「え、何しているの? 綺麗な髪が汚れるわよ」
見上げなければいけないはずの長身男は、跪いていた。そのせいで、銀の髪が地面についている。乾いた土で泥ではないけれど衛生的に気になる。
「お優しい。けれど従える術も効かない手強い方」
「術って」
怖いんだけど!
「ああ、怯えないで下さい」
引っ込めようとした手は強い力で離れない。
「興味が増しました。とても楽しくなりそうです」
手の甲に唇を触れさせながら私を見た視線は冷ややかだが離された口元は弧を描く。
男に美しいという感想は如何なものか。だけど、今の彼には似合っている。
「それは……よかったですね」
ターゲットにされていなければ、眺めるぶんにはいいけどね。結婚なんてする気はないけど候補①のギュナイルはないわと思った。
──こいつは、絶対に粘着質だ。
「そろそろ、約束の時間かしら?」
私はとりあえず、女の私より遥かに手入れがされている手から右手を勢いよく引っこ抜き、彼からの返答を待たず来た道を戻り始めた。