2.不愉快きまわりないわ
「んー、暗いな。今何時?」
スマホを手探りに探すも見つからない。それにベッドにしてはかなり硬い床のような。いい歳して落ちたか?
「あ、そういえば」
ぼんやりと寝落ちる前の事を思い出した。のろのろと起き上がれば身体が痛い。あとお尻も。確かシャワー浴びて床が抜けて。
「お目覚めですか?」
柱の近くに若そうな男がいた。影になり顔は不明…足音が近づきはっきり全体像が見えたけど。
「お身体は如何ですか?」
だんまりな私に痺れを切らしたのか更に近づいてきたその顔は硬派なイケメンだった。いや、見た目がというだけで中身は知らない。
「聖女様」
「それ、止めて欲しいかな」
また鳥肌が立ちそうになるわ。
「ありがとう。貴方のよね?」
軍服らしき上着は重いけれど寒さは感じなかった。上着をたたみシワを少しでも目立たなくしようと軽く叩き立ち上がると目の前の硬派イケメンはかなり背が高い。
「これで性格よしとかだったら嫌味にしかなんないだろうな。はい。ヨダレは付けてないと思うけどシワは少しついたかも」
ずいっと前に出せば随分の間が空き手が伸びてきた。
「今は、お気づきかもしれませんが真夜中です。詳しい話は夜が明けてからになりますので、お寛ぎできる部屋にご案内したいと思います」
「はい」
「……」
「…何か?」
固まった身体を少しでも解したくて大きく伸びをし、頭の重みでへっこんだボストンバッグを肩にかけ、邪魔だけど弓も拾い、準備完了。なのに硬派イケメンは、何か言いたそうにじっと私を見下ろす。
「なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
えっ、それ悩んでたの?
「うーん、高宮と呼んで下さい」
今の苗字は、神崎だけど、やたら教えたくないし、名前も呼ばれたくないと湊は昔使っていた父方の苗字を教えた。
後にこの選択は大正解だったと奏は思うのだった。
* * *
「ぶっ、失礼、聞き間違いですよね?」
悩むことなくアッサリ二度寝をした私は、食事をしながらの会話にしませんかと、だいぶ席は離れているけど、陛下と王妃様、ついでに王子様二人と王女様、私を含め六名での遅い朝食をとっていた。
「あ、すみませんとありがとう」
落としたスプーンがいつの間にか拾われ新しいスプーンが置かれた。
「納得がいかないのは承知している。たが、早急に我が国の者と婚姻をしてもらわないと他国が介入してくるのは事実だ。この国から離れてしまえば、戻るのも更に困難になるだろう」
とても美味しい南瓜味に似たスープを高速で口にいれ、パンを放り込み咀嚼しながら、まだ回転しきっていない頭で整理する。
「えー、私は、この世界の悪い瘴気でしたっけ、ソレを消せる。その能力のせいで、私を欲しがる国が沢山あって国外だと元の世界に戻れないから、とりあえずこの国の有力者と結婚しろと?」
仮の婚姻とか言うけど、ホントなの? なによりも。
「本当に帰れるの?」
「正直、必ずとは言いきれません」
陛下の後で控えていた、これもイケメンの男が癖なのか眼鏡をクイッと上げ答えた。いや、君じゃなくて国のトップに聞いてんだけど。
「転移に関しての研究は我が国の歴史は長い。ああ、通せ」
右側にある観音開きの扉が微かな音をたて開かれた。私には不気味な嫌な予感を感じながらも、視線を向けた。
「聖女殿が気に入った者がいれば、他の者で構わないが、数名だが、急遽此方で選出した。皆、各分野に秀でており優秀な者達だ」
入室してきたのは、三名。どれも見た目だけなら、かなりのイケメンだ。通常なら出会う事はないだろう顔。だけどね、私は、硬いパンを飲み陛下に言った。
「とりあえず食事を終わらせてから部屋に頂いた案を持ち帰り改めて考えたいと思います。あと、召喚でしょうか?それを行った方にお会いしたいのですが」
勝手に呼びだし帰れないかもだけど、離れたら望みはゼロよ。だから結婚してウチにいなよなんて、何だそれ。
とりあえず、トップに許可なく召喚をやらかした奴を一発殴らないと気がすまない。
私は、イケメンの美しさより殴りたい気持ちで一杯だった。