14.とある日の日常のひとコマ〜召喚者レイルロードと聖女〜
「やりづらいんですが」
「随分な言い方ねぇ。ほら、美味しい焼き菓子貰って」
きたわよといい終わる前に手から紙袋が消えた。細っこいのに動けるじゃん。
「ねー、あとどれくらいかかるのかなぁ」
椅子の上に積まれた本をテーブルに移動させ、手でかるく埃を払ってからお尻を乗せる。うん。椅子はすわるもんよね。高級そうな刺繍が施された布張りの椅子は期待通り抜群の座り心地の良さである。
「貴方が来なければ還る日がさらに近くなりますよ」
「可愛くないなぁレイちゃんは」
「その呼び方はヤメロ!!」
キッと効果音が出そうな睨み方が面白い。いや、呑気にしている場合ではない。コイツのせいで私は、異世界に来てしまったのだ。
「糖分摂取したし、ガンガン攻めていこうか」
床に座り込んでいるお子様に片膝をついて視線を合わせてやる。
「お遊びは紙の上にだけにしろって言ってんの」
「触るなよ!」
金髪の波打つ頭を右手で鷲掴みすれば、静電気が発生したような音がした。
「アンタ、無効化の能力を?!」
「あのね、私は姪っ子と違って難しい事言われてもわかんないから」
今時の若者として一番参考になる身近な者は小学生の意気な姪っ子なのである。
「レイちゃんは、見た目若くても百年くらい生きてんでしょ? そのわりに幼いよねぇ」
頭に置いたままの右手の指先に力を入れるとレイちゃんは唸りだす。
「君の我儘はさぁ、他の人の人生を奪う行為なわけよ。水が入ったコップに一滴たらすと波紋が大きく現れるよね? たかが一滴、されど一滴なわけ」
締め上げている物理的な痛みでか精神攻撃の打撃かレイちゃんは、緑の目を潤ませているが響かないなぁ。
「死んだ人間を生き返らせないんだよね? なら責任とれない可能性がある行動を起こすんじゃないって言ってんの」
勿論、私を元の場所には戻してもらうわよ。あ、そういえば。
「王子が言ってたんたけど異世界人に執着していたのよね? ほらっどうよ?」
お姉様の胸に飛び込みなさいと両腕を広げる。
「誰がやるか! だいたいこんな低能のが来るなんて想定外だったんだよ!」
ほぉ…。
「もぅやめてよ!!」
「いや無理だわ。その脳みそ鍛え直してあげる」
「既に痛いんだよ!ギャー!」
レイルロードの部屋からは暫く叫び声が続いていたが、とばっちりを受ける事を既に学習している者達は、あえて聞こえないふりをした。