13.ランクルはほんの少し聖女に親しみを感じた
「はー」
部屋から出てきた聖女は、大きなため息をついた。その表情は暗く身体から滲ませているようだ。
なるべく早く婚約解消に持っていき砦に帰りたかった。その気持ちは今も変わらないが。
「む、無理かも」
「もう少し。ほら、着きましたよ」
俺は何故かとっておきの場所を案内してしまった。そこはかつて飛竜の発着に使用されていた。今では空を行き来可能なものが開発され飼育するより遥かに効率がよくなった結果、この場はあまり知られていない。
「気持ちいい」
どうやら聖女は気に入ったらしい。曇った顔が薄らぎ安堵する。彼女は周囲や景色が気になるのかフラフラとあるき出す。
城の周囲は、強力な結界が張られているが無防備な状態には変わりないので神経を張り巡らす。
座るよう促しているうちに、また聖女の顔は曇っていた。何かを考えているようだ。
「長生きはしないほうが周囲は幸せなんじゃないかってね」
口を挟まず、だが聞いていると態度で示していれば、随分と人間臭い言葉を聞いた。
それは、俺にはとても意外に感じた。
聖女は、召喚から今までどこか現実味がない存在だった。泣くこともなく適応能力が異様に高いのだ。
そんな幼い子供みたいな顔に彼女の口に触れた。
何をやっているんだと気づいたのは、離れる時だった。
「たまには婚約者らしい事をしてみようかと」
「せんでいいわ!」
自分の中で生まれた動揺は、隠せたはずだ。俺の言葉に瞬時に反応を返す様子が、愛おしくなり笑ってしまった。
まて。
──愛おしいってなんだ?
「……かなでいいわよ」
「カナ様?」
急に落ち着かなくなれば、聖女は名を明かした。いや、おそらく愛称のようなものだろう。
俺は、他の者はまだ知らないであろう名をつい先程までの心の動揺を忘れ何回か慎重に呟けば、聖女、カナは何が面白いのか吹き出した。
まあ、いいか。
可笑しそうに笑う彼女を見ているうちに自分の気持ちも凪いでいった。