■9 友達
本日は前書きです。
いつもよりも文章は短いです。
日常回ですので、まったり読んでくださいね、
その日ボクは少しばかりいつもより遅く、家を出ていた。
そして近くのコンビニでパンをどっさりと買い込むと、その足で学校へと向かっていた。その際、ボクの脳内には昨日のことが思い浮かばれる。
昨日流れ込んできたあのイメージ。
それが脳内を支配すると、ボクの体は勝手に動いていて、その後の脱力感はおそらく慣れないことをしたために脳がついてこれなかったのだろう。あの感覚は今は党になく、イメージは少しばかりの記憶として止まられている。
(あれはいったいなんだったんだろう?)
そう心の中で考えながら、ボクは自転車を漕いでいた。
でもその後に感じた心の温もりはとても心地が良かった。今までにないほどにすっきりとした清々しさと、魂に刻まれたかのような問いかけがボクの中に渦巻いて収束を遂げ、それがやがて感覚として捉えられなくなる頃にはボクの感覚は平静を取り戻し、いつも通りに戻っているととても励まされたかのような嬉しさが心の中にとどまっていたのを感じていたのだった。
◇◇◇
学校に来ると、ボクはいつも通り席に着きは上枝をついていた。
ボクのここ数日の学校ない、というよりもクラスの中での印象は『ぼっち』だが『決して付き合いにくいわけではない』という固定概念が付いていた。
先生から頼まれたことは普通にするし、声をかけられたら当たり障りないようにことを運ぶ。がその中にはしっかりとした本音が混じる。そんな調子でクラスでの立ち位置を定めていた。
が、上下関係は特にはなくいじめのようなことは一切ない。そんなことをしたら今の世の中では生きていけないし、それにそんなことを考える前に今をとても楽しんでいる人が多いのはこの学校のゆとりさあってこそだろう。それにこの学校が他の学校と違い今だに紙とペンを愛するところの珍しさや、一番大きいのはVRゲームが開発されたことでストレス発散ができることや、息抜きになることなど、またコミュニーケーション能力の向上によって、コミュ障をなくしたりマナーを学ぶことで現実でのトラブルを極端に低くすることを目的とし、犯罪の発生率を下げる面など貢献している。
それにより、現実とはかけ離れたことをすることで現実をしっかりと捉えられる人が増えたことが大きい。
日々切磋琢磨し合い、笑い合い時に悔しがり涙するような青春の日々を思い描いていたわけではないがとりあえず普通の進学校であることだけは確かだった。
ボクはそれを理解した上で、とりあえず先生が来るのをいつも通り、待つのであった。
午前の授業が終わった。
生徒たちの半数は教室から出て行く。残った生徒は机をくっつけて弁当を広げる。それを横目に、ボクは一人パンを食べようとしたところで飲み物を買い忘れたことを思いどし、一呼吸おくと教室を出て行った。
その際、開けてしまったパンとくわえていたパンはそのままで行儀は悪いがそのまま歩き出していた。
そして一度外に出た。本当は渡り廊下を歩いて行ってもいいのだが、そこではちょうど食堂にぶつかる。だからあえて中庭に出て購買を覗いてみようと思ったのだ。しかしそこでボクの足は止まった。それは目の前にある一人の女生徒を目撃したからだ。
「あれ?って……何してるんだろう」
ボクの目と鼻の先には、女生徒が一人。しかしその奥にはさらに三人の女生徒がいた。三男はその女生徒に深く何度もお辞儀をしていて、それをはにかみながら「いいよ、いいよ」と困った風に言っているのが耳にした。
その女性徒は、三人を見送ると「はあー」とため息を吐いたように少し落胆していた。ボクはどうしたのかと思って近づいてみると、お腹を抑えていたのでどうやらお腹が減っているらしい。
「あの」
「うん?」
「良かったら、食べる?」
ボクはそう返事をした。
するとその女性徒は、嬉しそうに笑顔を作る。それは屈託のないまぎれもない笑顔で、助かったと言わんばかりであった。
「えっ?!いいの!」
「うん。なんだか困ってそうだったから」
「ありがとうー」
そう言ってボクの手を掴んだ。
「いや、本当に助かったよ」
「でも、何で購買の前で困ってたのさ?まあ確かに、見た時には既にもうパンは残ってなかったみたいだけど、前から来てたんじゃないの?」
「うん。そうだよ!でもね、見てたと思うけどさあの場にいた他の子達が困ってたからさ、つい」
「あげたと」
「うん」
そう大真面目に言ったのを見て、ボクはこの人が心底優しいのだと思えた。まるで紳士だ。
この人は、うちのクラスの委員長だ。
たしか名前は……
「それで、戸倉はなんでボクと食べてるのさ」
すると戸倉は黙ってしまった。
そして、少ししてから口を開く。
「今、私のこと呼び捨てにした?」
「えっ?したけど、ごめんまずかった?ボク、同い年の人には呼び捨てにしちゃう癖があるんだ。ごめん、気に障ったのなら謝るよ」
「いや、そうじゃなくて。私、今まであんまり呼び捨てにされたことがなくて。何だか新鮮!」
「そう?」
「うん。それで、さっきの質問の答えだけど。私、あんまり他の人と一緒に学校で食べてないよ。まだ、始まったばかりだけど?」
「どうして?友達もたくさんいるみたいだけど?」
「確かにそうだけど、私って昔から友達と友達の仲介役みたいなのを買ってたから、その名残みたいなもの。みんなとって優しいけど、あんまり話すような仲じゃない子が多いから」
「そうなんだ」
ボクはあまりよろしくない質問をしてしまい、自粛した。
すると今度は戸倉の方が、ボクに対して「失礼かもしれないけど、聞いてもいい?」と聞いてきた。
それはボクを了承して、首をこくりと縦に振る。
「紅神さんは友達とかいないの?」
「結構ズバッと言うね」
「ご、ごめんなさい」
「いやいいよ。そうだね、この学校にはいないよ。ボク、ずっと島に住んでたからね。その島にはボクみたいな若い子はいなかったから、ずっと一人だったんだ。それで、この辺りに引っ越してきて友達は年下の子が一人出来たよ」
「そうなんだ!そのことは普段何かしてるの?」
「うーん、ゲームだな。VRの」
「えっ、VR!もしかして紅神さんもやってるの?なになに!」
「う、うん。(なんかすごい食いつきようだ)」
ボクはその反応に少し引いてしまった。
だが、それもすぐに慣れた。
「えっと、ボクがやってるのは【ファントムロック・オンライン】だよ。この前始めたんだ」
「そうなの!私もやってるよ」
「えっ?!ホント!」
「うん。じゃあ今日、一緒にやろうよ!私いつもソロでやってて、その子とも一緒にやりたいから!女の子かな?その子って」
「うん。そうだよ」
「良かったら初めてパーティを組むから女の子がいいなって思ってたんだ!」
「そ、そうなんだ」
「うん!それで、どこの大陸?」
「あっ、そうか。大陸が違うとダメなんだっけ」
「うん。噂だと、第三エリアまではそうみたい。そこから先は他の大陸にも行けるらしいし、他の大陸の依頼を引き受けたりダンジョンを攻略したり、パーティーを組んだら出来るらしいけど」
「そっか。ボク達は《ウェスティア》だよ」
「そうなの!だったら丁度いいよ!私も同じ大陸だから」
「そうなの?じゃあ決まりだね」
「うん!あっそれと、一つお願いがあるんだけど?」
「何?」
「私のことは名前で呼んでほしいな!これから背中を預ける仲なんだし!それに、私は紅神さんと友達になりたいから!」
「普通友達にはそんなこと言わないけど」
「そ、そうなの!」
「まあ、いいよ。それにボクたちもう友達でしょ?」
「そうだよね!じゃあ私のことは宇宙って呼んで!宇宙って書いて、宇宙だから!」
「ボクは蓮。連なるに、草冠で蓮だよ」
「蓮かー、いい名前だね」
「そっちもね」
ボクらはそう言って笑い合い、拳を合わせた。
そしてそれを周りが見ていて、少し恥ずかしかったが互いが気にしなかった。
そしてボクらは友達となり、親友となったのだった。