■6 初討伐
本日で、夏休みが終わってしまいます。
とても残念で、憂鬱です。朝起きられるかな?
ボクとエミリアではなくて、ミリアと話をした。
内容はたわいもないものであったが、兎に角ミリアは楽しそうに笑顔を作る。それはまぎれもない本物の笑顔で、嘘偽りのないものであることが、はたから見ても判るほどだ。
ボクはそんなミリアに、一つ質問をした。
首を少しばかり傾けて、ボクの顔を覗き込む。
「あのさミリア。どうして、ボクがここにいるってわかったの?いや、それはボクが『広場にいる』って、伝えたからだけどさそうじゃなくて、ボクのアカウントがどうしてわかったなってことなんだよね?それがわからないんだ」
「その事ですか」
「うん。何か知ってるよね?」
「はい。蓮さん、じゃなかった。グレンさんは、VRドライブを起動する前に、名前や住所を設定しましたよね?」
「うん。したよ」
「それを使ったんですよ。そこから、グレンさんのアカウントに直接メッセージを送ったんです」
「なるほど。それなら合点が行くよ。当然知ってるもんね、ミリアは」
「はい!」
ボクはミリアがボクの住所を知っていることを当然ながら知っていた。
そもそも、ボクの家にVRドライブとゲームを送ってきたのは、ミリアのお父さんなのだから、そこから聞いていてもおかしくはない。それに、調べればすぐに分かることだ。近所に、紅神なんて名字は一軒しかないのだから……。
「それでミリア、これからどうしようか?」
「そうですね、どうしましょうか?とりあえず、グレンさんは先ほどログインしたばかりなのですよね?」
「うん。そうだね」
「では、レベル上げでもしに行きませんか?」
「わかった」
「では行きましょうか。この街 《セーレ》から少し行った先に、《セレピアの森》と言うところがあります。そこなら、チュートリアルになると思いますので、行きましょう」
「うん。そういえば、ミリアは一人なの?」
「はいそうですね。一応、攻略サイトを見ながらやっていたので危なげなく一人でも頑張れました」
「偉いね、ミリアは」
「えへへ」
恥ずかしげに顔を少し赤らめた。
ボクはそれを見て、「どうしたの?」と声をかけるが、「いえ」と嬉しそうに言葉をくれる。
ボクには理解出来なかった。
「じゃあさ、ミリアは他の人とやらないの?」
「私ですか?えっと、まだいませんね」
「そうなの?じゃあなんでボクを誘ったんだい?」
「それは、その……グレンさんと遊びたかったからと言うか、なんと言うか、また会いたかったからですよ!」
「そっか。じゃあさ学校の友達とかを誘わないの?」
「そうですね。誘ってはみたんですけど、私の周りではあまりゲームをしている子がいなくて」
「もしかして、学校が嫌いとか?」
「そんなことないですよ。私は毎日楽しいです。転校してきた私にもみんな優しくしてくれてますから!でも、あまりゲームに関心がないみたいで、私もつい先日まではそうでした。このゲームをし出したのも、つい三日ほど前ですからね。だからまだレベルは5なんです」
「そっか。まあ、ミリアが他の友達を誘ったらボクにも教えてよ。一緒にやろうか」
「はい!では、グレンさんも誰かを誘った時は、教えてくださいね。一緒にやりましょう!」
「わかった」
ボクはそう返事を返す。
「では、パーティ申請を送りますね」
「わかった」
ボクはパーティ申請のメッセージを受け取り、それを了承して申請した。そしてミリアをリーダーとしてパーティを結成した。
ミリアと更にはフレンド登録をする。その時に知ったが、ミリアはボクと同じで文字設定を『日本語』表記にしているため、ボクでも難なく理解出来た。
へたに海外の文字ってことはなくてよかった。
「じゃあ、行きましょうか!」
「うん」
そしてミリアと一緒に、《セレピアの森》と言う場所へと向かうのだった。
◇◇◇
ここでこのゲームについて更にだが、説明しておく。
このゲーム……だけではなく全てのVRゲームに関して、安全面の考慮を考え健康面を第一にし、連続ログイン時間が決められている。最大でも六時間で、それから先は最低でも三時間はログインできないように設定されているが、これはVRドライブ自体にそう施されているのだ。
この《ユグドラ》は現実時間に基づいている。つまり、二十四時間を周期とするのだ。だがそれではあくまでも時間のゆとりのある方しかログイン出来ないように思われるが、実はしっかりとした対策がされているため、時間的概念は確かに周期的だが、だからと言って損得が発生するようなことは基本的にはない。何故なら、それでは不平不満がつくことを知っているため、ゲームを進めていく上でのルートは確保されているはずだ。正攻法で攻めれば問題はないだろうとのこと。それに働いている方も、時間を開けてログインすることにより、不平不満が出ないように努めているが、そもそも今の時代、家に持ち帰って仕事をする人もいる。力仕事を必要とすることも減った。そんな感じだ。だからきっと問題ないはずだが、エリアによっては時間が設定されているため少しは関係するし、時間が固定されている場所もあると聞くので、一概に悪いとは言えないのが現状なので、今後の改善が待たれる。
また、このことをミリアに聞いたところ少し違うようで、確かに周期は二十四時間であっているのだが、八時間ごとに朝、昼、夜、になるようなので一概に現実とのリンクはないのかもしれない。
これによって、不平不満はないそうだ。
まあ、そうしなければきっと今頃はコンテンツ的に定評かの嵐であったことは間違いないと思われるので、当然と言えば当然の処置だろうと納得した。
◇◇◇
「グレンさん、ここが 《セレピアの森》ですよ」
「ここがそうなんだ。結構近かったね」
ボクはその森を見て、のどかで明るい自然公園といった感じがした。
それを見た目で感じ取って、ボク達は森の中へと入る。
森の中は木漏れ日が差し込むほどに木々の侵食は進んではいなかったが、それでも少しは入り組んでいる。
その森の中をずんずんと進んでいくミリアの後をボクは辺りを見渡しながら進んでいたのだが、突然ミリアが立ち止まった。
「どうしたんだい、ミリア?」
「来ますよ、グレンさん!」
「えっ?!」
ボクは何が起こるのかと思って、目の前の草むらを見やる。
ミリアは一応と言うべきか、杖を取り出し戦闘態勢をとる。
そしてほんの少しだけ間を置くと、草むらが揺れ出し、その中から現れたのは魔物だった。
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■ 《スライム》レベル1 レア度F 脅威度★
□ unknown
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名前はわかる。
完全に、スライムだった。しかしだが、どうしてボクの目にはその名前が記されていたのか、答えは簡単だった。最初に得たスキル、【鑑定】が絡んでいるのだろう。多分、下がunknownになっていることから、自分が知っているから名称が分かっているのだと推測された。さらに脅威度と呼ばれる星が一つなので、そこで強くないと理解する。それを理解した上で、ボクはどうするかわからなかった。
「とりあえずどうしようか?」
「戦ってみてください。何かあればすぐに加勢しますので、まずは肩慣らし程度に自由にやってみてください。チュートリアルだと思って!」
「わかった」
ボクはインベントリから剣を取り出す。
すると腰に剣が装備される。ボクはその件を鞘から抜き取り、右手で構える。そして左手を添えて、目の前のスライム目掛けて構えると、勢いよく振りかぶった。
「はあーっ!」
スライムを倒した。
スライムはぷにっとした感覚で剣に伝い、光の粒子となって消えていった。ボクはそれを見届けると、息を整える。そしてピコーンという音がなった。これは、なんだ?と思い、見るとレベルが上がっていることに気がついた。そして、何かドロップしたようで、目の前には何かがドロップしたのか、光が伺えた。
「何だろう、これ?」
ボクはドロップしたものを確認するため、インベントリを開く。すると、やはりスキルのようで【跳躍】とあった。
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■ 【跳躍】 レア度E
□ 《解放》通常の跳躍よりも更に高く跳躍出来る。
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と、言う具合だ。
ボクはそれを見て、「使えそうだな」と思いミリアに伝えると、手を叩いて喜んでくれた。
「凄いですね、グレンさん!最初の戦闘で、まさかレア度Eのスキルがドロップするなんて!」
「そうかな?」
「はい!これはビギナーズラックみたいなものですかね?」
「そうかも」
ボクはそれを見て、とりあえず【跳躍】のスキルを回収すると、自動的にスキルがセットされた。
個人的に、スキルは複数使用できないと思っていたが、そうではないらしい。手に入れた段階で自動的にセットされ、上限はないとのこと。ただ、滅多に落ちない。
さて、これで何が変わるのかと思って少しジャンプしてみると確かに少しだけ高い気がした。気がしただけだが……
「もしかしたら助走があるのかも。今度試してみるよ」
「はい!健闘をお祈ります」
「うん。任せておいて」
ボクはそう宣言すると、ミリアとともに更に先に進んだ。
結果として、このあとはそれなりに経験値積んで終わった。結果として、幸先の良いスタートを切ることに成功したのは分けないのだが、それでも誰かと遊べて楽しかった。そのあとは、ミリアと別れる。そろそろ、お腹も空いてきたからだ。
「じゃあ、また明日ねミリア」
「はい!それでは、また明日」
「また明日」
ボクはそのあと、ログアウトする。
一度ステータスを確認し、レベルがさんになったことを見てやはり攻略サイトを使ってみるのはいいことだ。今度使ってみようと、思いログアウトボタンを押す。
ーーログアウトーー
何事もなかった。
それでいい。これで何かあれば時間だ。ボクは小腹が空くどころではない騒ぎにお腹が減っていて、何か作るのが面倒だったので適当にしまっておいたレトルトのカレーでも食べようと思った。
「今日は楽しかったな。そそれに、ミリアも楽しそうだったし。あのNPCの子、確か……あれ?誰だっけ?まあ、また会えないかなー」
そんなことを考えながらボクはスプーンを使って、ご飯と一緒にカレーを口の中へと放り込む。
そして食べ終わった皿を洗うと、ボクは明日の準備をして今日は早めに就寝しようと思った。
そしてまた明日もレベル上げをしないとなと思い、ボクは眠りについたのだった。