■3 キャラメイク
ゲームの世界に入る。
その前にやらなくてはならないことがある。それは、自分自身を作成する事だ。そうしなければボクという存在は、ゲームの世界では生きていけない。存在していない事を意味する。
「ここは、何処だ?」
気がつくとボクは真っ暗な空間にいた。
その空間はとても広くて、目の前にはポータルのようなものがあった。淡い緑色の仄かな光を発する蛍光色のそれは、人を魅了するものがある。
それをじっと見て、次にやるべき事を待つ。そしてそれは現れた。
「ようこそ!【ファントムロック・オンライン】の世界へ!」
「うわっ!」
突然の登場にびっくりして声を上げた。
するとそこに目の前に突如として現れた女の子はボクの反応を見て、申し訳なさそうにする。
「ごめんなさい。まさかこんなに驚かれるなんて」
「えっとその……君は誰?」
「よくぞ聞いてくれました!さっすが、イレギュラー。事前情報のない方はやはり新鮮でいいですね!」
「えっと?」
「ご挨拶が遅れました。私は、このゲームのマスコット兼アイドル的な存在でいいのかな?ルミナス・レナです!以後お見知り置きを!」
「あっ、はい…」
ボクはその天真爛漫さに対して、少しばかり気が引けてしまった。
しっかり者で、根はすごく真面目で天真爛漫さがとても不格好にボクには見えた。
青い瞳を持ち、その銀髪ロングの同い年ぐらいの見た目の可愛らしい少女は、マスコットでありながらまるで常に成長し続けているかのように思えた。
確か、このゲームの中のNPCは全て高度なAIを搭載しているとか。だとしたら人間性があってもそう不思議ではないのだろう。僕は何処かしか親近感が湧いた。
それで、目の前で楽しそうにしているマスコット兼アイドルを担う、ルミナスは早速話だろうとしていた。ボクは彼女の話に耳を傾ける。
「それでは早速このゲームについて簡単に説明しますね」
「うん」
「いい返事です。そういう人、嫌いじゃないですよ!」
「ありがとう」
「よしよし。じゃあ説明いたします。このゲーム、【ファントムロック・オンライン】は、今では日本中で知らない人はいないと言われるぐらいのゲームです。と、言ってもまだ三ヶ月ぐらいですけど…」
「だね」
「それでも、このゲームの人気は爆発的に高く、それはもう世界中に知れ渡るほどです。そんなゲームの世界に飛び込んだ貴女!まずは、このゲームの世界観ですが…貴女は『異世界人』と呼ばれる存在として、これから行く世界 《ユグドラ》へと降り立ちます。その世界は、一本の創世の大樹から生まれたとされる世界で、その世界に住まう《ユグルの民》と呼ばれる人々と共存している存在とされます」
「なるほど」
「まあ、貴女方はその世界にもともといたわけではなく、やってきたというほどが適切ですけどね」
「だよね」
「はい。その世界はファンダジーらしい世界観を持ち、それでいて何処か現代に近い感覚となっています。もちろん、法律のような制約もあるので勝手なことは出来ません」
「なるほど」
「はい!」
と、一言言い切ると間を置いてから次の言葉を語る。
「次にその世界の形状ですが。これを見てください!」
と言って、映し出されるウィンドウには大きな地図が描かれていた。それは四つの大陸に分かれており中心部に向かって続いている。
なんとも分かりやすい。
「これが【ファントムロック・オンライン】の世界の全貌ですね。北にあるのが《ノーストランド》。南は《サウサラス》。東が《イーシェ》。西には《ウェスティア》があります。そのどれもが大陸ですが地続きとなっていて、それぞれの地帯には険しい山脈や海が広がっています。でも、冒険を進めていけばいけるので楽しみにしておいてくださいね!」
「うん!」
「いい返事ですね!嬉しいです。ちなみに、ここで選んだ大陸によって出てくるボスも違うのでお楽しみに」
「ボス?」
「はい」
「ちなみに、この四つの大陸のちょうど真ん中にあるかの大きな島みたいなのは何?」
「これですか?これこそが、この世界を作ったとされる大樹の眠る地だと言われています…多分」
「多分、ね」
落胆の声を上げた。
まあ仕方がない。説明をそれからしばし聞いてボクはそれを覚えていく。
そしてルミナスは次のステップへと移行する。
「そして次に説明いたしますのは、この世界で最も大事となるであろう貴女の姿です!」
「つまりは、キャラメイクってやつだよね?」
「そうです、そうです。よくご存知で!」
「まあ、そのくらいは」
「ではでは説明いたしますが、その前にこの【ファントムロック・オンライン】はアカウントを偽造することも、偽装することも、そして複製することもできません。勝手に他の人が貴女のアカウントを使うこともできませんからね。それから、ハッキングもです」
「それは安心できるよ」
ボクはそう優しく声をかける。
するとニコッっと笑顔を作るように口角を上げた。
ボクはそれを見て、ルミナスの瞳の色をうかがう。すると、AIのはずが何処か人間味があって、なんと言おう『無』を感じてしまう。それを見てボソッと言葉を発した。放っては置けなかったのだ。
「大丈夫?」
「えっ?!」
「いやごめん。なんか疲れてるみたいだから」
「私が…疲れている?意思を持つこの私が?まさか……そんなわけ」
思い悩んでいるみたいだった。
だからボクは優しく言葉をかける。
「そんな事関係ないよ」
「えっ?!じゃあ、私は…何?」
「君は君。意志を持った存在。そして心を持った存在だよ。君の目の色。『無』を宿していた。そんなことが出来る君は、特別でホンモノ何だよ」
「私が、特別?そうですか?そう……ですね」
ニコッと笑顔を作る。今度の瞳には先ほどとは違った『優しさ』が覗く。ボクは心の底から満足だった。
「やっぱり君は、本当の笑顔が素敵だよ」
「そうですか!ありがとうございます。でも、貴女も確かに特別何ですよ」
優しくてそして切なげに言ってくれた。
ボクはそれを少しだけにこやかにして返答する。
するとルミナスは、こほんと一声唱えると気を取り直してこう告げる。
「それではですね。気を取り直して、言ってみましょう!」
「もしかしてそれなんじゃない?」
「それ?」
「その天真爛漫さ。思ってたけど、何だか辛そう」
「えっ?!」
「もしかして慣れてないとか?」
「そんな事は……いえ、そうですね。普段はこんなキャラはやっていません」
「そうなんだ。でも、見ていればわかるよ。不格好すぎる。ルミナスは、天真爛漫って感じじゃないもっとこう心から喜んだ本当の笑顔が似合うはずだよ」
「そ、そうですか?」
「そう、それ。その天真爛漫を捨て去った感じが本当のルミナスなんじゃないかな?」
「そうですね。でも少なくとも今だけはこのスタイルをとらせてください。それでは気を取り直して、行ってみましょうか!」
「何を?」
「いやいや、やっとキャラメイクですよ!少し脱線してしまいましたが、ついにこれからが本番ですよ!」
「わかった。何をすればいい?」
「では、まずはこちらを見てください!」
目の前の緑色の光のほとばしるポータルの上に突如として現れた人。そう、ボクの現実世界での姿だ。それを見て、どうとも思わないのは普段の僕だからだろう。黒いショートの髪に、黒目。前髪の触角。それから170センチ近くはある背丈。真っ平らな胸。クールでボーイッシュな顔つき。まあ、いつもの自分自身。僕なのだから当たり前だ。
何故僕の体がこんなにも現実にそっくりなのかは簡単で、VRドライブを起動する前に体のあちこちを触っておいたのだ。それをもとにセンサーが反応して、脳波を伝ってボクの体のデータを送った。それだけだ。
まあ、顔の方はもっと簡単で僕の顔をスキャンしたのだ。でも、一つだけ心配なことがある。
(流石に性別は女じゃないと、ムカつくぞ)
という心配だ。
しかし、その不安はすぐに解消された。
ボクの前にある皆があるものを提示した。それは、とても見やすいウィンドウが表示されタッチすると、様々な情報が一覧になってわかった。そしてそこには性別の欄があり、そこにはしっかりと『女』だとわかるようになっていた。
安心したボクはほっと胸をなでおろすと、「どうしたの」と言わんばかりにルミナスに首を傾げた。
は慌てて、「何でもないよ」と言ってのけた。そして、首を一度可愛らしく傾けると説明を続行した。
「今こちらに提示されているのは、貴女の現実での個人情報です。この情報に不備はございませんか?」
「うん。ないよ」
「ではでは、こちらを基としてあなたのアカウントIDの作成にいきましょう。この情報は暗号化されますので、変更はできませんからね。ですがご心配なく、あなたの脳波を利用して常に最新のものに書き換えられますので」
「それって、これを見せた意味あるの?」
「ないですね。正直な話」
「はあー」
落胆してしまった言葉が出ない。
そんなボクを気にせずに、今度は悠々と話を進める。その話を耳を傾けて聞いていた。
「それではまず始めに、貴女の種族を決めましょう!」
「種族?」
「はい。この世界では、様々な種族が暮らしています。そして貴女方《異世界人》は、異世界に赴くに従って、その世界に存在する人方の人種の内、人以外にも七つの種族に分けられます」
「その種族って?」
「はい。では、それを見てください」
そう促されて、目の前のウィンドウを右にスライドさせてみると、そこには確かに八つの人種が説明書きを残していた。
その説明書きをまとめると、こんな感じだ。全て、人型であるには変わらないことは理解して考える。
・《人族》最も多い種族。基本的に全体を通して、平均的なステータスを持つ。種族スキル【順応】
・《森人族》俗に言うエルフ族。魔法力が極めて高く、身体能力もまずまず。種族スキル【柔軟】
・《妖精族》フェアリー系。魔法が得意で、運が高い。他、器用度もまずまず。種族スキル【詠唱】
・《鬼神族》オーガ。攻撃力が高い。また、STが多い。種族スキル【狂鬼】
・《獣人族》人族の次に多い種族。動物の能力を宿している。種族スキル【野性】
・《竜人族》竜と人の合いの子。高い戦闘能力を持つ。種族スキル【竜装】
・《地霊族》自然環境に適した姿を持つ、その地域独特の性質を持つ。種族スキル【恩恵】
・《妖魔族》ヴァンパイアやサキュバスなどのような種族。夜などと言った特定の条件下で進化を発揮し、高い機動性と、回復速度を有する。【治癒】
といった具合だ。
色々と悩みつつも、《鬼神族》や《竜人族》は攻撃特化に思えた上に、《森界族》《妖精族》《地霊族》はどうやら魔法系のようだ。《獣人族》に《妖魔族》はなんとなく偏りがあると考えた上で結局は即決で、《人族》と言う一番ベーシックな種族を選んだのだった。
そして、次に悩むのは容姿のようだ。
容姿の設定は色々とあり、念を押されたのは『容姿の変更は出来ない』と言うことだ。
それに加えて、身長や基本的な骨格の変化は出来ないらしい。まあ、少し体型が横に広い人とかは補足したりなどかはできるらしいが、流石に顔まではそうはいかないようで基本的なものは同じだ。理由は簡単で、仮に現実で会った時に、あまりにも違いすぎると精神的ショックに繋がるからだ。でも、少しは変えておかなければ、現実バレした時がかなりヤバイらしいので、これが一番大変だ。
まあ、ボクらまず名前入力のところで悩みに悩んだ。
(さて、どうするかな?)
心の中でそう唱えると、口に出していた。
「紅神蓮……紅神・蓮……紅と蓮で、読みを変えてレン……よし!グレンにしよう」
そう言って、『グレン』と言うキャラネームにすることで、より男の子感をアップさせつつもとりあえずエミリアにもわかるようにするために見た目はあまりいじらない方向で行く。
前髪の触角を残しつつ、髪はショートから少し後ろを長くしてセミロングに。それから瞳の色は同じく赤だが少し暗めにする。髪の色も少し大人しめな赤をチョイスした。体系もそのままで、行こう。でもそうするとなんか……
「より、クールな男の子みたいになったな。これは」
と、唱える。するとルミナスが手を合わせて、小さく「かっこいい」と言ったのを聞き逃しはしなかった。
それを加味した上で、ボクはまだまだかかるキャラメイクをじっと、ルミナスの説明が始まるのを待つのだった。
ざっと一週間ぶりぐらいですね。