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ファントムロック・オンライン〜VRMMOの紅い幻影〜  作者: 水定ユウ
第二章:凍った心と熱い声
19/53

■19 ゲリライベント


 ボクらの背後に立っていた青年。

 人族のようで、特徴的なのは青く聡明そうな髪と瞳の色だ。その人の頭上を目を凝らしてみると、緑色のプレートが浮かんでいた。つまりボクらと同じ《異世界人サモナー》であることは、ゲーム上でも間違いはない。

 そしてそんな青髪の青年は、気軽にトリアスに話しかけトリアスもまたその青年に商売顔ではない表情を見せた。


 「やあトリアス。こっちで会うのは久しぶりだね」

 「おおアレスか。久しぶりやな。どうや、調子の方は?」

 「まあ、良くも悪くも普通かな。まだあまり第二エリアの攻略が進んでいなくてね」

 「ほーん。そんで、アレスもこの街に来たちゅうことは……」

 「もちろん。明日開催されるイベントに参加するつもりさ。でも、まさかトリアスがいるなんて思わなかったけどね」

 「そんな事言うて、本当は勘付いとったんちゃうか?人の集まるところに、トリアスの姿有りなんてな」

 「あはは、まさか」


 軽快に話し出す二人。

 そんな仲良しの二人の話を茫然と眺め聞かされるボクらを、トリアスは気がついたのかボクらのことを紹介し始めた。


 「おっと、すまんすまん。アレス紹介するは、こっちにおるんはわいのお得意様でな。この黒髪の子は前に話したクロムや。それから、腰に二本剣を差した赤い髪のがグレンで、そっちのピンク色の小さくて可愛い子がミリア。それから水色の髪の軽快に話す子がソラトや」

 「初めまして、グレンです」

 「私はソラトだよ」

 「クロム」

 「私はミリアです。トリアスさんにはいつもお世話になっています」


 丁寧に挨拶をするボクやミリアと違い、ソラトは明るく軽快に済ませる。

 しかしトリアスの説明に関しては、分かりやすいけど何だかもやっとするような、もう一声欲しくなる。そんな風に心の中で思った。

 そんなボク達の紹介を頷きながら見届けた後、アレスと呼ばれた青年も自己紹介をする。


 「それじゃあ僕の番だね。えっと、僕はアレス。見ての通りの《人族》で、剣と盾を使ってる。トリアスとは高校時代からの友人でね、このゲームもトリアスに勧められて始めたんだ。だから一応は、君たちの先輩には当たるのかな?何かわからないことがあったら、僕やトリアスに気軽に聞いて欲しいな」

 「「「ありがとうございます」」」


 全員がそう返事を返した。

 それを見たアレスはにこやかに過ごし、それからトリアスに向き直ると話し始めた。


 「そうだ、トリアス。例のものは用意出来た?」

 「おう。用意出来とるで。それにイベントの告知があった頃に連絡を送ったのはこっちなんやからな。そりゃ用意しとるわ」


 と軽快に話しながら、インベントリから木箱を一つ、また一つと取り出していく。

 そしてその中身を確認するためアレスはさっと開けると、中には大量の回復薬が入っていた。それに回復薬だけではなく、毒消や麻痺消し薬など様々な薬がぎっしりと詰め込まれている。

 不思議そうに見るボクとミリアを脇目に、ソラトが説明を挟もうとするが、そんな隙間なくアレスはボク達の視線に気が付いたのか、振り向いて説明をしてくれる。


 「ああこれは、明日開かれる(・・・・・・)イベント(・・・・)で使うポーションだよ」

 「イベントですか?それも明日」

 「うんそうだよ。あれ、もしかして知らなかった?僕はてっきりこの街に来たのだからイベントに参加するつもりだと思ってたんだけど……」


 アレスは口元に手を当てて不思議そうにボク達を見つめる。

 しかしボクとミリアは目を丸くして互いに疑問符を頭の上に浮かべていた。それを見ていたアレスも流石に気が付いたのかソラトとクロムの方を向いて、聞いていた。


 「二人はどうかな?」

 「今調べていたけど、多分これのことだよね?」

 「一週間前に告知してあるみたい」


 ソラトとクロムは運営からなんらかの告知がないのかと、運営からのお知らせを確認していた。

 ボクらは二人が送ってくれたメッセージを読み進める。そこには確かにイベントの告知がされていた。しかも日にちは明日らしい。

 そこに書かれていたことをざっと流し読みし、アレスは説明を始めた。


 「イベントについてはそこに書いてある通りだよ」

 「そうみたいですね。確かに明日、この…私達の今いる《ロックシティ》は多分ここですよね。この街のでイベントがあるみたいです」

 「何々、イベントの内容は『魔物の大群を退けよ⁉︎』か……なるほど、面白そう」


 内容はそう記されているだけで、どんな魔物がどれだけの数出現するのかは書かれていない。

 ただ、イベントの開始地点の場所と時間設定。参加方法や、詳細な日時は記入されていた。しかしその参加方法がよく分からない。そこで、アレスに聞いてみることにした。分からないことがあったらなんでも聞いて欲しいと言っていたからだ。


 「あのアレスさん。ここに書いてある参加方法なんですけど」

 「うん?何かな」

 「参加方法の欄に、ロックシティと書いてあるんですが、ここで間違い無いですよね?」

 「うん、そうだよ。ほら」


 アレスはそう言ってマップを開いて、ボクらにこの街の情報を見せてくれた。

 そこには確かにこの街の名前、《ロックシティ》の名前が記されている。そしてその周囲一帯にはやはり岩々がそこかしこに広がり、北東部から東側にかけては、一面が緑で覆われていた。これは、森林だと推測出来る。


 「なるほど。仮に敵が現れるとしたらこの森だな」

 「おっ、グレン君。君、読みがいいね」

 「と言うと?」

 「僕たちもこの森が怪しいと思うんだ。仮に突然出現(スポーン)されたら困るけど、そうでないならこの森が怪しい。そもそも、イベント開始と同時に目の前から現れられたら対処のしようがないよ。まあ多分、いずれあると思うけど……」

 「せやな。こんな第二エリアでそんなことされたら敵わんわ」

 「でも、イベントに参加と言ってもここには参加方法は書かれているけど、参加受付の場所は書いてないよ?」


 確かにソラトの言う通りだ。

 何度見ても、ここには《ロックシティ》とだけ記され、参加手続きは記されていない。そもそも、こんな運営化のメッセージ気づかないものだろうか。

 それに関して悩んでいると、アレスは察してくれたのか快く教えてくれた。


 「ああ、それに関しては君達はもう完了(クリア)している筈だよ」

 「どう言うことですか?」

 「そのメッセージはな、運営のホームページには載っとるんやが、プレイヤーにはある条件(・・)をクリアせな送られてこんのや」


 トリアスが追い風のように颯爽と付け加える。

 しかしその条件については気になる。もしかしたら、今後のイベントでも同じような場合があるかもしれないからだ。

 けど、ボクには何となく察しがついていた。


 「もしかしてその条件と言うのは、第二エリアに到達していることが前提ということですか?」

 「うん。その通りだよ」

 「やっぱり」


 ボクは口ごもる。

 ソラトやクロムが気付いていなかったのに加え、何かの条件があるとしたらボク達がこのエリアに到達したことしか思いつかなかったからだ。


 「でも、どこにも参加方法は書いてないよ?」

 「確かに、参加条件は分かったけれど私達はまだイベントに参加でいていない。参加できていなければ、意味がない」


 と、クロムがもっともな意見を口にするが、それをアレスは払拭するように続ける。


 「参加方法についてはそのメッセージに書いてあるけど、君達はもう参加出来ている筈だよ。後は君達の任意しだいだ」

 「えっと、私達は参加出来ているんですか?」

 「うん、そうだよ。何せ参加方法はこの街、《ロックシティ》のあの入り口を潜ることだからね」


 と、アレスは楽しそうにこの街の四方の入り口にある丸太を使って作った門を指差して言った。

 どういう事かとほんの一瞬考えてしまったが、要するにメッセージ自体が恐らくプレイヤーに無理させないような限定的な取り方をしたのを踏まえると、参加方法も一番近く、またイベントがある一番近い街を設定しておくのは分からなくもない。

 それに何より、イベント参加方法の欄には受付の締め切り時間が明日。つまりは、イベント開始直前までになっている。これを踏まえて、ほんの一瞬足らずで参加出来る方法を考えてもこの方法は妥当だろう。


 「それに参加出来ている証として、君達のステータス画面の横にイベント参加マークがあるよね」

 「えっと、これですか?この円の中に岩のマークがある」

 「うん。多分それが今回のイベント参加の証だと思うんだ。僕も始め見たときはこれがそうなのかと少し驚いたよ」

 「あの、イベントは絶対参加なのですか?」


 と、ミリアは素朴な疑問を口にする。

 確かに参加出来ているからと言って、無理に参加するのも良くない。と、そんな不安を他所にアレスは笑って答えた。


 「大丈夫。あくまで参加出来ているだけだから嫌なら参加しなくてもいい。でも、僕としては参加した方がいいと思うよ」

 「どうしてですか?」

 「そんなの簡単やろ。今回のイベントはあくまでも『魔物を倒す』事や。つまりは対人戦やない。だからな、基本的にフレンドリーファイヤにだけ気い付けとけば、後は大丈夫や。それに他のプレイヤーを故意に狙って倒した時点で、イベントの商品は貰えんくなるからな」

 「イベントの商品ですか?」

 「うん。今回のイベントではパーティを組んでのチーム参加も勿論OKだけど。イベント成績によっては特別な商品が贈られるんだ」

 「特別な商品ですか?」

 「うん。でもそれが何かはまだ分からなくてね。貰ってみたいと分からないよ。でも、確か上位入賞者に贈られるって書いてあった筈だよ」

 「となると、取り合いになるという事ですか」

 「うーん。これじゃ、大変そうだね」

 「そんな事ないよ。パーティで参加すればいい」

 「でもそれでは、パーティ内で取り合いになるのではないですか?」

 「いや、これはパーティの全員が貰えるわけじゃないんだ。貰えるのはあくまでも個人の成績。でもそれは、パーティ内での活躍や功績。それから他のプレイヤーのサポートなども付加されるから、一概に魔物ばかり倒していればいいわけでもない」

 「つまりは皆んなで協力せなあかんのや」

 「なるほど。そういうやり方もあるのか……」


 しばし考えてからボクは仲間たちに告げる。

 

 「皆んなどうする?」

 「えっと、グレンさんは?」

 「ボクは……参加したい。せっかくの機会なんだし、こんな事そう滅多にないと思うから」

 「私も賛成!商品も気になるし、いまの私たちの実力も気になるからね」

 「私も参加する。私の作った武器で勝ちたいし、勝って欲しい」

 「えっと、じゃあ私も参加します!私もグレンさん達の力になりたいですから」


 と全員の意見がはっきりと出揃い皆同じ気持ちのようだ。

 そうと決まれば準備だ。ボクらはクロムにそれぞれの武具を預け、打ち直してもらう。耐久度を回復させるためであり、後でしてもらうつもりだった。それを受けてクロムは「明日までにはしておく」と言って、ボク達から離れていく。

 そして残されたボク達はアイテムの確保だ。

 今のアレス達に聞いた限りでは目立った情報はもうない筈。そもそもが第一線で活躍するアレスや情報通のトリアスが知らないことを他のプレイヤーが知っていると思わない。だからここはアイテムの画策かくさくを最優先としよう。

 と、意気込んでトリアスに尋ねる。「アイテムを売ってください」としかし帰ってきた言葉は予想と反していた。


 「すまんなー。もう品切れなんやわ」

 「「「えっ?!」」」


 ボク達の驚きの顔と、トリアスの渋い顔が入り乱れる。

 ボクはそれに対して丁寧に説いた。


 「あの、どういう事ですか?」

 「それがな。イベントでポーションやら何やらを買い込むつもりやったんたんやが、うまく集まらんかったんやわ。何とかアレスの注文した分かき集めるんで精一杯やった。本当にすまん。店の主人として客に提供できんのは本当に忍びないんや」

 「そ、そうですか」


 ボク達の落胆の声が口からこぼれ落ちる。

 それを聞いたアレスは何かを閃いたかのように言った。


 「うーん。じゃあ、僕たちの持っている分を少し分けてあげるよ」

 「「「えっ、いいんですか!」」」

 「うん、いいよ。本当はトリアスの分もと思って多めに用意してもらっていたんだ」

 「うん?わいは出る気ないで」

 「だと思った。これだけあれば僕たちのパーティは十分だし、普段から呼びもあらかた持ってるから、よかったら使って欲しいな」

 「で、でも……」

 「悪いと思わないで欲しいな。でもそうだな、その代わり今度何か有益な情報か、アイテムが有るんだったら僕達に譲ってくれると助かるよ」

 「分かりました。その時はボク達も協力しますね」

 「うん。助かるよ」


 と、なんだかんだありながらも結果として準備万端。それから友好関係も広がって万々歳となり、ボクらは今日を過ごしたのだった。


 ◇◇◇


 その日の夜。

 時刻は深夜零時を回ろうとしていた。


 ボクはベッドに横になり眠ろうとしていた。

 しかしそれを遮るように枕元に置いていたスマホにメールが入った。


 「メール?こんな時間に誰からだろう」


 とスマホを操作してメールを確認すると、宇宙そらからであった。

 内容としては明日頑張ろう的なものだ。


 「何々、『明日は頑張ろうね』か」


 ボクはそれを読んで、『そうだね。楽しみつつ、出来るだけ頑張ろう』と送る。すると、瞬時に返信が返ってきた。もっとも、ボクも宇宙そらも顔文字や絵文字を使う事なく、文字でのやり取りで有る。今時の高校生らしい文章ではないが、短いチャットのようなものだ。


 『でもね、私本当は蓮が参加したいって言ってくれて嬉しかったんだ』

 『どうして?』

 『だって蓮。何だか参加とかどうでもいいというか、イベントに興味がないみたいに私たちに参加の有無を聞いてきたでしょ?』

 『うん』

 『だから私。蓮は自分からは参加しないんだろうなーって思ってた。だから私本当は一人で参加しようと思ってたけど、安心した』

 『安心したとは?』

 『蓮が楽しそうにゲームをしてて。だから私も楽しいし、負けないように頑張ろうって思ったんだ』

 『そうか』

 『うん。だって、親友だもんね』


 とそのあとも会話は幾分か続いた。

 しかし最後には睡魔に襲われて互いに眠る事となる。

 しかしその中で一頻りに輝いて、恒星の様に瞬く宇宙の言葉がー親友の二文字がボクにとっては一番嬉しかった。そう心に残ったのだった。と、思ったことは誰にも言えないボクの胸の内にしまっておこうと思う言葉で有ることに、決して変わり得なかった。


 

 

次回以降の後書きにて、新コーナーとしてこの物語(ゲームの特徴)などをより明確にした話を書けたらいいなと思っておりますので、乞うご期待。

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