■15 新武器
昨日一度削除させていただきましたが、改めて本日投稿させていただきました。
あれからどれだけの時間が過ぎたのだろうか?
気絶しているボクにはわかるはずもなかった。
ボクは別段体力がないわけでもない。ただ原因はわからないが、急に体から力が抜けてしまった。新しい魔法戦技をイメージした時はそうだ。ただあの時よりは体への倦怠感は少なく、ボクは自力で目が覚め起き上がった。それはざっと、十秒程度のことであった。
◇◇◇
ボクは細めで辺りを見渡す。
倒れ込んでいた体を起こして、周りを見回すと空とが心配そうに駆け寄ってくるところが目に見えた。ボクはそれを理解すると、そこまでの時間は経っていないのだと思った。そう思っている間に、空とはボクの元へと駆け寄り心配そうな顔をした。
「グレン!大丈夫、怪我はない?」
「大丈夫だよ、ソラト。少し疲れただけだから」
「それってやっぱりさっき?」
「やっぱりって……もしかして、ソラトも経験したことがあるの?」
と尋ねてみる。
すると、こくりと首を縦に振るソラト。それを見る限り、どうやらソラトも同じように魔法戦技を初めて発動した時には同じようなことがあったらしい。
しかし何故こうも魔法戦技を使うと身体が重く、倦怠感に苛まれるのだろうか?リアリティの高いゲームだからという理由なのだろうか?それとも、ボク達だけがここまで疲労感を味わっているのだろうか?
「ソラトは魔法戦技を初めて使った時は、ボクと同じ感じだったんだよね?」
「うん。やっぱりさっきのグレンみたいに急に糸が切れたみたいに、体が動かなくなったよ。意識が一瞬途切れたって感じかな?でも、すぐに意識は戻ったけどね」
「ボクは意識は途切れなかったけど、体が鉛のような感じだった。でもそれからは幾ら魔法戦技を使おうが、体が重くなることもないし意識がぷつりと途切れることもない」
「けど、さっきのグレンみたいに新しい魔法戦技を編み出したら、一瞬だけ意識が途切れるのか……不思議だね」
「確かにね。それにまるで魔法戦技って、イメージの塊みたいな感じでまるで刻み込まれるっていう感じがするんだ。ソラトはどう?」
「私も多分同じ。それに最初に魔法戦技を編み出した時、誰かの声が聞こえたんだよね。もしかして、私だけかな?」
「ソラトも!」
「えっ?!じゃあグレンも?」
ボクらの意見は一致した。
しかしそこからは違った。何が違ったのかは明確には表せないのだが語りかけてきた声の主が違った。
ボクの場合は優しく、それでいて何処か冷静で空虚な感じの秘めたる声。ソラトの場合は元気で勇ましさを感じるような声だったらしい。共通点としては明らかなに女性であり、若い声だったらしいが単調な感じではなかったのは言うまでもない。
「一体どういうことなんだ。考えても分からないな」
「だね」
ボクとソラトはそのことについて考えることをやめた。
先ほどの戦いでゲームなのにかなり疲弊しきった脳と体を休めるためにボクらは一旦そのことから考えを放棄して、とりあえず最初の目的である目の前の木を切ることにした。
そしてソラトは手にとった伐採用の斧を使って、その気の前に立つと思い切りその木を切り倒した。木を切るモーションはとても正確に起動して、スパッと切り倒した。そして切り倒した木に触れると、一瞬でその木は消えてしまい、ソラトのインベントリへと収納された。
「ふぅー。これで良いよね?」
「うん。じゃあ戻ろうか」
「わかった!」
ボクとソラトはそう短く言葉を交わすと、《ルージュの森》から出た。
◇◇◇
「お帰りなさい。グレンさん、ソラトさん」
「ただいま」
「戻ったよー」
ボクとソラトはミリアに出迎えられて、共同工房へと戻った。
そこには黙ってこちらを見るクロムとヘラヘラと楽しそうなトリアスが腕組みして待っていた。
「ごめん、クロム遅くなった」
「いや、いい。その間にトリアスに頼まれてた品物は全て打てた」
「ほんま助かったで」
トリアスはとても喜んでいる。
どうやらクロムもイラついていたわけではなく、ただ待ってくれていただけらしい。ボクはそれをみてほっとした。そして、それを見届けた後ソラトは自分のインベントリから《ルージュの枝》をクロムに差し出す。
「これでいいんだよね?クロム」
「問題ない。なかなかにいい品だ。これなら良いものが作れる」
「それはよかった」
ソラトも安心した様に安堵のため息を吐く。
ボクはそれを横目で見やると、クロムは早々に武器作りに取り掛かった。まず作るのはミリアの杖からだ。
「ミリア、杖は何?《ロッド》、それとも《メイス》?」
「えっと、《ロッド》です」
「つまり魔法支援を多用する戦闘スタイルを取るということで良い?」
「はい」
「じゃあ、魔石をつけて相性効率と魔法攻撃の威力を高めた方がいい。後、いざという時に備えて近接攻撃手段を……面白い」
クロムはニヤリと笑う。
武器一つでここまで思考が巡る瞬間を見て、ボクはぽかんと口を開けてただ唖然とする他なかった。
それを見ていたトリアスは「あいつ、物作りになるとああなってな、我を忘れるんや。子供みたいやろ」とほくそ笑んだ。
ボクにも確かにその姿が子供の様に見えたが、その実に真剣さと熱意が感じられた。
そしてものの数分で、クロムは作り上げた。
顔色を窺う限り、満足のいく仕上がりになったらしい。クロムの瞳に喜びが混じり、その口元はやや口角が上がっている。
そしてそれを確認した後に、《ロッド》に何かを刻み込み、先端には綺麗な赤い丸い石をはめる。魔石をはめたらしい。そしてそれを両手で持って、ボクらの方へと向き直ると、それをミリアへと手渡した。
「完成。これがミリアの新しい杖」
「ありがとうございます。綺麗な杖ですね。大切にします!」
「それはよかった」
クロムはほっと一息ついた。
どうやら心配していたらしい。しかし、ミリアの表情を見て一安心した様で、落ち着いてから杖の説明に入る。
「その杖の名前は、《ルージュ=ロッド》そこに刻んでおいた」
「なるほど、だからさっき何か文字を刻んでたんだ」
「そう」
「それで、この杖には何が出来るんや?」
「もちろん、ただ丈夫な杖というわけではない。この杖には少しばかり金属を使っている。その細い先端の方」
「確かに少し重たいですね。気にはなりませんけど」
「出来るだけ薄く加工しておいた。金属を使うことで強度を増したのと同時に、近接戦闘にも対応できる様に打撃が可能となっている。ミリアは魔法攻撃、支援を主に使うと言うことだから」
「ありがとうございます、クロムさん」
「まだ終わっていない。反対側には魔石をはめ込んでおいた。これで、魔法の発動時間の短縮や威力向上に努めてある」
「凄いです、クロムさん」
「スキルのおかげ」
「スキルですか?」
そう言えばクロムが何故ここまで、凄いと言われているのか。それは他を圧倒するまでの技術力に加えて本人が言うにはスキルが支援してくれているらしい。しかしボクはスキルに頼らなくても、クロムは鍛治師としてとても優秀だと言える。
「クロムの言うそのスキルってどんなの?」
「それは……」
「ああ、ごめん。無理に言わなくてもいいよ」
「いや、言いたくないわけじゃない。ただあまりスキルを説明する機会がないから、どう説明したらいいか分からなかっただけ。もう、問題ない。私の持つスキル、それはレア度Sの【錬成鍛治】。つまりは、自分の技術レベルに応じて、ありとあらゆる金属、結晶。それから木などを加工して、能力を付与させられる」
「そんな凄いスキルを持っていたんですか!」
「けど、自分の技術と精神力に作用されるし、狙った付与スキルがつくかどうかはこのスキルのレベルにも偏りが出るから、今の段階では完全とは言えない。まだまだひよっこ同然」
「そうなんですか」
「そう。だから日々鍛錬に励んでいる。そして今回はそれがうまくいった……正直、ほっとしている」
「でも、嬉しいです。クロムさんの作ってくださった杖、大切にします」
「そうしてくれると、杖も嬉しい」
と言って微笑んだ。
そしてボクの方へとゆっくりと向き直ると、「今度はグレンの武器を打とう」と言ったので、「よろしく」と、頼む。
するとクロムは、武器の形状を聞いてきたので、剣と答えた。
「剣と言っても色々ある。もっと詳しく注文が欲しい。《刀》に《長剣》。《大剣》や《短剣》などもある」
「そうですね、じゃあ片手用の直剣でお願いします」
「わかった」
そう言うとクロムは、再び作業に戻る。
その手には以前ボクが渡した黒天樹が握られている。そしてその石を炉の中へと入れ温めると、年によって真っ赤になった状態で金鋏で挟むと、それを右手で持った小型で金属の槌で打ち付けていく。
そしてそれを幾度となく続けていく様を見て、クロムは汗を垂らしながらも真剣に取り組んでいる。その行動が幾度となく続く中で、少しずつ石の形状は変わっていき、また加工を続けていくことでその足は手に収まる大きさから、剣身としか見えない程に強靭で、長い形状となる。その剣先は、直剣そのものだ。
そして剣の握りや鍔に柄頭と装飾を施していくと、その剣は先ほどの黒い石を彷彿とされる様な、真っ黒な剣へと生まれ変わる。
そして出来上がった剣を見たクロムはやはり満足のいく顔をした。
そして鞘を作ると、その中に剣を収める。
するとボクの方へと向き直るクロムは、ボクにその剣を渡す。その表情はやはり楽しそうで笑顔だった。
「完成。これがグレンのための剣」
「これが……」
ボクはその剣を手にした瞬間に、ずっしりとした確かな重みを感じた。手に馴染む握りに、ボクは手をかける。そして剣を鞘から抜く。
その剣身は黒く、真っ暗な空を彷彿とさせる。そして感じた。
その剣を手にした瞬間に、ボクの中へとひしひしとする様な猛烈な感覚が押し寄せる。ボクは目を丸くして、その剣を軽く素振りするとクロムは尋ねる。「重さはどう?」と。それを聞いたボクは「ちょうどいいよ。手頃な重さで、一番ボクが慣れ親しんだ重さだ。剣の長さも一番見慣れたものだよ」と、ボクはその剣身を再び見やると、その剣身は微かに煌めいた。
「気にいってくれなたら嬉しい」
「気にいったよ。ありがとう、クロム」
「よかった。その剣の名前は、《黒天の剣》。《黒天樹》の名前をそのままつけさせてもらった」
「覚えやすくていいね」
「その剣には、低確率ではあるけれど炎による属性ダメージが発生する様にスキルを調整してある。それに、もともとかなり硬度の高い鉱石で作られているか、そう簡単には折れないし属性攻撃によっても折れにくくしてある」
「そうなんだ」
と、一言呟いてからボクは少し剣の説明を見た。
その説明はこうだった。
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■《黒天の剣》レア度X
□ 攻撃時に低確率で、炎による属性攻撃を発動する。
□ 剣身に炎を纏うことで攻撃力を一時的に上げる。
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と書いてある。
ボクはそれを見て一つ疑問に思ったが、レア度のところがXとあった。このゲームでの最高レア度はEXを除くと、Sのはずだからだ。ボクはそれを尋ねる。
「クロム、この武器のレア度がXなのは何故?」
「うん?それは未知数という意味のX。普通に流通している武器とは違って、プレイヤーがオリジナルに作ったものにはそうやってXがつく。さっき作ったミリアの武器もそう」
「確かに私のもXです」
「だから気にする必要はない」
「わかったよ」
と、軽く返答するとソラトが「いいなー」と言ったのでクロムはそれを聞き逃さずに「また今度ソラトのも打とう」と言ったので「やったー!」という嬉しそうな声が耳に入ったのが聞こえた。
「とりあえず、今の私の腕ではこんなところが精一杯」
「こんな所って、十分だよ。これならこのエリアのボスにも挑める。クロム、その時は一緒に戦ってくれる?」
「もちろん。私もパーティの一員。尽力する」
「ミリア、ソラト」
「はい!」
「任せて」
ボクはみんなの顔色を見てから一呼吸おき、
「じゃあ精一杯やろうか!」
と告げる。
すると、みんなは息を揃えて
「「「はい!!」」」
と、唱えた。
ボクはそれぞれの顔を見合わせた。
そしてその剣を装備すると、ボクはボス戦へ向けて仲間達と再度確認を取ると、明日にでも挑むことになったのだった。
そして確かな確信と思い出ボスに挑むのだった。