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ファントムロック・オンライン〜VRMMOの紅い幻影〜  作者: 水定ユウ
第一章:紅い幻影のプロローグ
14/53

■14 ルージュの森


 ボクらはそれぞれが口をぽかんと開けたまま、しばしの間先ほどのクロムの口にした言葉に耳を疑うようにして、立ち尽くしていた。

 もっとも、事情をよく知らないボクらはトリアスほどの驚きはなかったものの、先ほどのクロムとの会話の中で彼女の信念の強さを知ってはいた。だからこそ、彼女の先ほど放った言葉はボクらの心をギュッと掴むものがあった。


 「えっと、クロム。今何って?」

 「私をあなた達のパーティーに入れてほしい。そう言った」

 「や、やっぱりそうだよね。でも、何で急に?」

 「……」


 クロムは口を閉ざした。

 黙ったまま言葉を交わそうとはしない。が、少しだけ頬を赤らめていることだけはボクの目は見逃さなかった。


 「それは……」

 「それは?」

 「私は自分の信念がある。その一つが、このゲームで最初にオリジナル(・・・・・・・・)の武具をあつらえた(・・・・・・・・・)相手のパーティー(・・・・・・・・)入る(・・)と決めていたから」

 「何でなの?」

 「私は面白いと思った人を尊敬する。そんな人は、心の底から武具を大切にしてくれるはず。私の中ではそう心得ている」

 「うん。わいもそう思うで」


 と、トリアスは頷き返す。


 「武具の力に身を委ねることも大事だけど、それだけに固執するのは私は良くないと思う。もちろん、私の家計は皆そう。だから、武具や道具のせいにする人は好きにはなれない。でも、あなたやあなた達は違う。目を見ていればわかる。その目は、純粋な瞳だ。だから私はあなた達のような人たちのために、力を使いたい。ダメ?」


 その瞳には嘘偽りのない誠が宿っていた。

 

「いや、いいと思う。むしろ、パーティーに入ってくれるなら助かるよ。でも、他にもいい人はたくさんいたと思うけど」

 「まあ、でも。その……みんな男の人だったから」

 「そう、何だ」


 ボクはそう言うと頬を掻いた。

 そしてボクはそっと後ろを振り向き、二人に確認を取る。すると二人はこくりと頷き返し、ボクと同意見であることを見た限りで判断した。

 そしてボクは再びクロムに向き直り、改めて言葉を連ねた。


 「うん、わかった。ボク達は大歓迎だよ。これからよろしくね、クロム」

 「よろしくお願いしますね、クロムさん」

 「頼むね、クロム」

 「わかった。三人とも、ありがとう」


 と、クロムは優しく微笑む。

 ぎこちないものではあるが、それでも十分に伝わった。そしてクロムはすぐに無表情を作り出すと、じっとした眼でボク達を見る。そしてこう呟く。


 「それで、確かミリアだったはず。ミリアの使う武器は何?」

 「えっと、私は杖を使います」

 「ロッド、メイスだっち?」

 「ロッドです」

 「そう。じゃあ木が必要になる」


 と、クロムは告げる。

 その物言いは落ち着きがあり、職人と言った具合に感じた。多分そうだろう。

 見た目は、ボクらと変わらないのにその大人びた面持ちは一体どこからやってくるのだろう?

 不思議で仕方がない。そう思えてきた。が、そんな話は置いておいてとりあえず今クロムは確か『木』と言っていた。しかし、もう少し具体的な答えが欲しいと思った。信念の高いクロムにとって、それほどの希少性の高い素材がこのエリアにあるのかどうかはわからないが、とりあえずミリアの新しい武器を作るのだ。それなりのことはするつもりでいた。


 「クロム。例えば、どんな木がいいの?」


 ボクの抱いていた悩みを、ソラトは尋ねる。

 すると少し考え込んでからクロムは口にした。


 「このエリアだったら、《ルージュの枝》が最適。あれなら強度もあって、近接にも対応出来る。それに相性の効率化も図れる」

 「《ルージュの枝》ですか?」

 「そう」

 「トリアスさん知ってますか?」

 「うん?知っとるで。《ルージュの枝》はこの辺りにある《ルージュの森》言うところにそこら中生えとる木でな。ちと面倒なやつなんや」

 「何が面倒なんですか?トリアスさん」

 「そやな。まあ何ちゅうても、固いんや。だから【伐採】のスキルだけやと、ちと手間かかるからな。それより、グレンらは【伐採】のスキル持っとるんか?」

 「あ、いや。少なくともボクは……」

 「私もです。すみません」

 「私持ってるよ」


 その瞬間、ボクらの視線はソラトを見つめた。

 ソラトはいつも通りで、ボクらの視線を浴びても動じない。そして高らかにこう宣言する。


 「じゃあさ、私が取ってくるよ」

 「じゃあボクも行くよ」

 「すみません。私は武器がなくて……」

 「私もトリアスの注文したものを打っておく。今日はまだ時間があるから」


 と、現実時間(リアルタイム)の時刻を見つめた。

 そしてクロムはボクらとフレンド登録をした。そしてボクとソラトは《ルージュの森》へと向かうのだった。


 ◇◇◇


 《ルージュの森》は《セーレ》から北東の方へと少し行ったところにある。

 またこの場所はトリアスによると、少し変わった場所のようだ。それは見た限りではわからなかったが、森の中に入ってみてはっきりした。


 「魔物の姿がないね」

 「確かに。いつもだったら、ガサガサとか言うはずなのに、草むらから何も音がしない。トリアスの言っていたことは本当だったんだ」


 トリアスによると、この場所では極めて魔物の出現率が低いらしい。

 何の意図として作られたのかはわからないが、仮にいたとしてもかなりの強敵であることは間違いない。そもそもが、見つかりにくいと言うのが適切で仮にもいないわけではない。そしてそれ故にこの場所では限りなく《異世界人(サモナー)》の訪れる人は少なく、今のところボクら以外の影も気配も感じなかった。


 「魔物がいないから、レベル上げに来る人もいないのかな?でも、トリアスの言ったたことは本当だったね」

 「うん。でも、ソラトもトリアスのテンションに馴染んだんだね」

 「まあね」


 トリアスのことをボクとソラトは呼び捨てにすることになった。

 本人からそう言われたからだ。けれどミリアだけは習慣からか、さん付けにするらしい。

 そんなどうでもいことは置いておいて、ボクらは少し先に進んだ。

 本当はどの木を切ってもいいのだけれども、それなりに状態というものもあり、ボクの【鑑定】のスキルを頼りに品質を選ぶ。


 ボクが吟味していると、唐突にソラトが指を刺した。


 「ねえ、グレン。これ何てどう?」


 そう指差した木を見て【鑑定】を使う。

 すると品質もまずまずで、品質もAと良かった。

 ボクはそれを見て、「うん。いいと思うよ」とうなずくと、「そっか!」と言ってソラトは【伐採】のスキルを使って、両手で伐採用の斧を持ち木を切り倒そうとする。

 と、その時だ。その木の真後ろから気配を感じてボクはソラトに「離れろ!」と叫んだ。それをとっさに聞き入れたソラトは頷くのと同時に後ろに飛ぶ。


 ーその瞬間。ボクとソラト目掛けて幾重もの葉がまるで手裏剣のように飛んできたー


 「な、何だ!」


 ボクはそう叫ぶ。すると、視界の先に現れたのは木の化け物だった。

 名前は当然わからない。ただわかるのは、古びた木の魔物が、ボク達に敵意を向けて攻撃していることだけだ。その攻撃は鋭く、再び葉っぱがボクらに向けて放たれた。


 「この!」

 「せやっ!」


 ボクとソラトはそれぞれが回避したり、武器を振ったりしてその攻撃を回避。

 ソラトは《コスモブレイザー》を使って、葉を切り伏せボクは身を翻して回避を続けるが、スタミナが少しずつ削られていく。

 ボクがそうやって回避していたのだが、急に目の前の魔物は攻撃を変えてきた。幾重もの葉の刃を今度は、左右から放つ。


 「まずい!」


 と叫んで、ボクは防御態勢をとる。

 その時、ボクの目の前を光の一線が駆け抜けていった。それを目で追うと、ソラトが大剣を振るったのが分かった。息を荒げていることから、とっさだったのだと伺えた。そして、「大丈夫?」と聞いてくる。ボクはそれに対して、「うん。ありがとう」と呟くと、ボクも二本の剣を構えた。


 そして目の前の敵を睨みつけ、ボクは双剣を正眼に構え距離を取る。

 そしてソラトも同じように離れると、ボクの傍に着いた。


 「ソラト、さっきはありがとう。それにしてもさっきのは何?」


 意識を目の前の敵に向けて、一切の集中を切らさずにボクは先ほどの攻撃についてソラトに尋ねる。

 するとソラトも早口に説明を施す。


 「さっきのが私の魔法戦技(マジックタクティクス)、《コスモスラッシュ》。星の輝きを集約して、刀身から光の衝撃波を放つみたい。私も今ので二回目」

 「一回目は《ブルックホーン》に?」

 「うん。でも、かなりSTとMPを使うみたい」

 「あと何回使える?」

 「頑張ってもあと一回ってところかな……はあはあ」


 かなり息を荒げているあたり、ソラトの体力も残り少ないらしい。

 早くスタミナを回復させないと、次の回避行動が遅れかねない。そうなれば、ソラトを死なせることになる。そんなことさせない。例えゲームであったとしても、無駄死になどしない。


 「どうする?何とかしてあいつから逃げる?」

 「多分無理だと思う。あの魔物、完全に私達を敵だと認識してる。ああ、なったら逃げるのも難しいよ」

 「だよね。じゃあやるしかないか」

 「そうだね」

 「ボクがあいつの懐に入り込んで、何とかする。ソラト、援護頼める?」

 「うん。任せて」

 「じゃあ、行くよ……っと!」


 その瞬間、大量の根っこが地面からウネウネと生えボクらに襲いかかる。

 それを瞬時に察知したボクらは素早く退避。後退を余儀なくされた。


 「まずい。これじゃあ近づけない」

 「グレン。私が道を作るから、その間に行って」

 「分かった。でも、おっと!」

 「まずはこの根っこを何とかしないとね。《バック・スラッシュ》!」


 ソラトは後ろに大きく飛ぶのと同時に、両手で構えた大剣を振りかぶる。

 その大剣の軌道は侵食する根を一気に切り伏せた。あれが後退しながら放つ斬撃系の汎用戦技 《バック・スラッシュ》である。

 ボクはその一瞬の隙をついて走り出す。ソラトが切り開いた細い道を全速力で駆け抜ける。

 その細い道はすぐに侵食していく根に阻まれるのだが、それを今度はボクが横に切り裂く戦技 《スラスト》で対応する。


 「この!きりがない」


 幾ら切ってもまるで手の内を止めようとしない魔物。しかし分かったこともあった。


 (この魔物、近付いたら葉っぱを手裏剣のように飛ばしてきて、離れれば広範囲に自身の根を生やして攻撃してくるのか。攻撃範囲は広いけど躱しきれない事はない。なかなか厄介だけど、大したダメージじゃない!)


 ボクはそう心の中で一人唱える。

 確かに目の前で交戦中の木の魔物は、広範囲に対して強みのある攻撃を繰り出してくるのだが、どうやらある一定のパターンが決まっているらしく攻撃力もたいしたことないので、ガードしていれば何とかなる。だからボクは迷うことなく走り続け、攻撃を二本の剣で捌いていく。

 パターンが決まっているので、あの葉の手裏剣が襲ってくるタイミングを見計らい、ボクはダメージの低いと見た根っこに足を取られないようにしながら、走り抜けた。


 このゲームでは、レベルが上がるごとにステータスポイントと呼ばれるポイントが与えられる。これは、プレイヤーが自由に操作することができ、プレイヤーの個性を伸ばすためのものだ。同じ種族同士で、レベルが上がるとその数値は決まったものになるがこのポイントを振る事で、それぞれのステータスを格段に上げることが出来る。

 ボクは基本的にバランスよくしているが、それでも何かしらの分野で突出させなければ、武器にはならない。それを分かっているので、ボクの場合は筋力と素早さに重点を置いている。それによりボクの本来の戦い方をより向上させ、二刀流をより扱いやすくする。その代わり、防御に関してはからっきしなのでいかにバランスが良くても、他の防御に振っているプレイヤーよりはダメージはある。なので、この攻撃もできるだけ回避を貫きたいところであった。


 「はあはあ、このままじゃ辿り着く前にこの根っこに飲まれる……何か、何かないのか」

 「グレン!」

 「せめて、この根っこを全て燃やすことが出来ればあいつを倒せるのに」


 そう強く言霊に乗せた。

 そして心の中で強く想う。その瞬間再びあの時感じ、見たものが体の中を巡った。脳内を駆け抜け、イメージを伝えボクの中に流れ込んでからそれは異質物ではなく、形のない何かである。その感覚に身を委ね、心火にそのイメージを灯す。

 そのイメージは前よりも強い『炎』のイメージ。全てを焼き尽くすにはもってこいの剣戟のイメージだ。


 「もうやるしかない。ボクの残りのMPを全部使う。ソラト!」

 「任せて!」


 その一言で、ソラトは自ら判断し最大出力の《コスモスラッシュ》を放った。眩い閃光は宇宙の煌めきを有して一筋の衝撃波となりボクの目の前の蠢く根を断ち切る。

 ボクはその隙を逃すことなく、走り抜ける。

 そして光の一閃が消えた時、ボクの視界にはあの名前のわからない木の魔物が目の前にいた。ボクはそいつが葉っぱの刃を放つ寸前で、身を翻してぎりぎりで躱すとボクは懐に飛び込んだ。そして阻もうとする根っこに対し先ほど感じたイメージを顕現させる。


 「全てを燃やせ」


 ボクは二本の剣を交差させ、左右に剣を振りかざしそのまま遠心力を利用して、周りの根を焼き切る(・・・・)

 炎を帯びた二対の剣がまるで嵐のように無数の斬撃を繰り出し続ける。炎は燃え移り、右に斬り上げたり左に薙いだりして持てる全てを出し尽くす。

 さらにボクは加速し、敵に迫る。

 そして敵の懐に潜り込むと、ボクはさらに斬撃を披露した。無数の斬撃が木片を散らして、炎で包み込むと敵のHPはみるみる内に削られていく。そしてほんの少しの間を置いて、その残された緑色のHPバーはボクのMPとSTの両方を使い切る寸前で、全て消えてなくなったのだった。


 そしてボクは一言、その技の名前を呟く。


 「《ブレイズ・ストーム》」


 その一言を呟き終えると、ボクは異常な疲れで倒れてしまい、最後に見たのは立ちくらみと同じような暗闇と迫る地面だけだった。そしてボクは気絶したのであった。それから起きるまでの記憶は、ボクにはなかった。

 

 



 



 



先日、久方ぶりに体を動かしたのですが、体力がなく運動もさっぱりなので、体が未だに痛くて辛いです。(筆者の感想)

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