装魂、目覚めの刻
私の名前は信情菜護身!春から天ノ空高校に入学した高校一年生です。今は授業を終えて部活に向かっている所です。その部活の名前は──。
「戦闘部!」
私は深く深呼吸をし、部活の扉をノックしました。どうぞ、と合図が聞こえたので入ることに。
「私、新入生の信情菜護身と言います!部活動の見学に来ました!」
「新入生ですか?どうぞ入って」
「失礼します!」
1歩踏み入れるとそこは様々な装備品や書類が並んだいかにも部室と言えるような所でした。パイプ椅子に木製のテーブルにテレビと設備も充実しています。
「良ければこちらへ」
「ありがとうございます」
私は案内されたパイプ椅子に座るとその青髪の女の子も私の目の前に座りました。どうやらこの部活の紹介をしてくれる様です。
「ようこそ、戦闘部へ。私は部長の則長楓と申します。あなたは?」
「私は信情菜護身です!戦闘経験は無いですけど、宜しくお願いします!」
「いいですね、元気があって素晴らしいです。ところでこの部活は何をする部活か知っていますか?」
彼女の質問に私は首を傾げました。戦闘する事は分かっているのだが、肝心の内容は全く分かっていませんでした。
「説明しますと、この部活は戦闘術や武器の扱い方を研究したり、実際に戦術を練ったりする部活です」
「おぉ」
「現在部員数が2人だったので廃部の危機でしたが……もしかして入るご予定は?」
咄嗟に聞かれて私は躊躇った。実際まだどの部活にするか迷っていたので返事がしにくいのです。
「まだ……分かんなくて」
「先程戦闘経験は無いと言ってましたが大丈夫ですよ。初心者も歓迎します」
「そうなんですか」
楓さんはフフッと笑った。後ろにあったコーヒーメーカーに二つ分のカップを用意しながら彼女は言う。
「最近になって、戦争は成長産業だとか、人間の可能性を高める材料だとかという世論が蔓延ってますが、実際そうではありません」
「何の話です?」
「この部活の信念として本当に大切なのは自分の何かを守ろうと戦う意思を示すこと。それさえあれば入部を許可できます」
その言葉を聞いて私は心の中にグッと何かが詰まる様な感覚を味わい、幼い頃の微かな記憶を思い出しました。
「私、幼少期に交通事故で姉を失って……その時彼女は言ったんです。『大切なものを守れる人間になりなさい』って。私にできますか?」
楓さんは少し考えた後、小さく頷きました。その後マグカップに入れたコーヒーを私に差し出し目を合わせます。
「私達は何かを守れる程強くも無いし、弱くもありません。ですが、ナゴミさんに少しでもその力をつけるという限りではこの部活も決して役に立たないという訳では無いと思います」
俯いた私に優しく微笑みかけるように楓さんは言葉を紡ぎました。私は戸惑いを少し落ち着けようとマグカップに手を伸ばし中のコーヒーを少し飲みましたが、熱くて苦くて、なかなか飲めませんでした。
「ブラックコーヒー苦手なんですよね」
彼女はまた私に微笑みかけました。やがて彼女自身も少し私に興味を持ったのか、コーヒーをすすり話を持ちかけてきます。
「良かったら仮入部からでも始めませんか?きっとナゴミさんの力になります」
彼女の一声に思わず驚いたものの、私は決心し言葉を返しました。
「はい、お願いします!」
「いい返事ですね、それじゃあ入部届持ってくるから待っててください」
彼女はそう言い残し部室を後にしました。改めて部屋を見渡してみるとどれもこれも素晴らしい武器の模型や研磨用の道具で彩られているかの様でした。
「これから私の部活が始まるんだ!」
誰もいない部室で私は声を出しました。明るい気分になった私は部長が帰ってこない間も部屋を眺めるのを楽しんでいました。
1時間程経過しましたが、部長は帰ってくる気配すらありません。
「おかしいなぁ……」
やがて手持ち無沙汰になった私は部室を飛び出し、部長を探します。校舎の反対側の裏庭の廊下を歩いているその時、夕方の薄暗い影の中から楓さんの声がしました。
「きゃぁっ!」
「部長!大丈夫ですか!?」
慌てて彼女の側に駆け寄りましたが、お腹の部分に爆発のような傷を受けており、重症です。
「一体誰が……?」
「ナゴミさん、逃げて……!」
後ろ振り向くとそこには何やら野球ボールぐらいの薄暗い炎の玉が2、3発向かってきます。
「楓さん!」
私は咄嗟に彼女に覆い被さり庇いました。しかし、その火の玉は一瞬の内にかき消されていました。
「一体何が……?」
その時私の中に鋭い痛みと共に胸部の奥が熱く燃え上がるような力の胎動を感じました。それは一つのワイヤーとなり、目の前の火球を弾き返していたのです。
「まさか……ナゴミさんにもソウルウェポンが!?」
「うわぁ!何これ……私は何もしてないのに……ワイヤーが……?」
私は目の前の出来事を理解できずにいましたが、先に姿を現したのは敵の方からでした。
「新参者にしてはなかなかやるじゃないか」
「あなたは誰?楓さんをここまで苦しめたのもあなたなの?」
「ご名答だ。私はドリームクラフト社によって作られたクローン人間。旧名は三川八恵と言ったかな……?」
「あなた達の目的は何?」
「目的なんて決まってるじゃない。お前ら人類に対する復讐」
「復讐だって……?そんなの元人間のあなたが望んでいるはずがない!」
目の前の彼女はニヤリと不気味な笑みを浮かべました。
「残念ながら私は最早人類ではない。オリジナルは別にいるし、こいつは私の操り人形よ!」
すると咄嗟に敵は動き始めました。私達に近づくと共に前と同じ火球を何発も繰り出します。
「どうしよ楓さん!私、戦える手段なんか……」
「さっきのワイヤー……!もしかしたらあなたもソウルウェポンを持ってるかもしれない!起動して!」
話している間にも攻撃はどんどんと迫ってくる。私は困惑を隠せない。
「ソウルウェポンって何!?どうやって起動するの!?」
「何かに立ち向かうって気持ちを強く持って!そして心から守りたいと念じるの!」
終始グダグダな戦闘に痺れを切らしたのか遂に彼女の火球はすぐそこまで迫っていた。
「残念だったね、新参者」
爆発を受け、衝撃波により私達は吹っ飛んだ……はずだった。後ろで高笑いを浮かべている彼女に私は忠告する。
「私は楓さんを守る!」
「何!?あれを食らって生きている人間など……!」
「ワイヤーで網を作って火球を防いだ。そしてその網は武器自体を無力化できる!」
私はすぐさま敵に向かって走り出し、その網を彼女に放り投げました。しかし範囲自体は広くありません。
「この程度の攻撃……!」
敵が私の網を避けようとした瞬間、鋭い槍が彼女の胴体目掛けて突っ込みました。
「何ッ!」
「雷槍・一閃!」
「楓さんナイス!」
その衝撃で怯んだ隙に網が上手く敵を捉えました。どうやら成功した様です。
「馬鹿な……私が捕獲されるなど……!」
網の中でもがき苦しむ敵ですが、すぐに武器は無力化され抵抗もできない状態で床に捕えられました。
「初めてだけど、何とか守れたみたいで良かった……」
「ええ、まさかナゴミさんにもソウルウェポンが宿っているとは思いませんでした」
「今更何ですけど、ソウルウェポンって何なんですか?」
私からの問いに楓さんは深刻な顔をして答えました。
「私達は元々そのような能力は持ってませんでした。しかしある日ドリームクラフト社によって作られたクローン人間兵器に対抗する為に守る為の力が宿される事があるのです。その魂が武器となって現れた姿がソウルウェポンです」
「そんな重要な事、なんで……」
「あなたを巻き込みたく無かった。本当はこの人もすぐに片付けてしまおうと思ったのですが、それも時間の問題で……」
私は部長なりの気遣いを受け止めましたが、耐えきれずに私は言葉に出して言ってしまいました。
「楓さん、私にだって出来ることはあります。協力させてください」
「ナゴミさん……」
「これからは共に戦いましょう。私にだって何かを守る為に力を発揮したい」
楓さんは少し黙ってからまた私の方に顔を合わせ、答えました。
「えぇ、でも決して足でまといにはならないでくださいね?ちゃんと力をつけないと」
「酷い言われようですね……絶対強くなってみせますよ!」
私達はなんとかこの場を凌ぐことができました。しかしこの時の私達は知りませんでした。これはまだ戦いの序章に過ぎなかったのです。
「そう言えばこの人はどうするんですか?既に網で無効化できているみたいですけど」
「それは新たに研究する材料にしますので資料室に運んでください。もしかしたら今後我々の力になるかもしれません」
「はい」
「無力化したからっていい気にならないでよね!」
私はムフフと笑い彼女を倉庫にしまい部室を後にしました。これから私達の戦いが幕を開けます!