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繰り返す未来

作者: 心憧むえ

「初めまして。私、今から十年後の未来からやってきたあなたなの」


 河川敷の道路で、突如声を掛けられた。上下グレーのスウェットに身を包む、生活感満載の色気のない女。だらしのない恰好に、嫌気がさす。

 未来から来た私という事に対しては、特に驚くことはない。数年前に、タイムマシンの完成が公表されてからというもの、今の私のように、未来の自分がやってくるというケースは良くあることらしい。だから、私の所にも来たんだ、といった感じ。



「なにしにきたの?」



 私と同じケースに遭った人の証言では、アドバイスを残して帰っていく、というパターンが大多数だった。だから、未来人の来訪は、幸福の前兆のようなものだ。その幸福をものにするかしないかは、今の自分次第。



「私みたいになりたくなかったら、今から言うことメモして」

「そんなことだろうと思った」


 私はポケットからスマホを取り出して、未来の私の言葉に備える。


「いつでもいいよ」

「それじゃあ――」



 それから何分経っただろう。時計を見遣ると、メモを始めてからすでに、一時間が 経過していた。未来の私が口にしたことは、これから私の身に起こる重大なことや些細なこと全てだった。例えば、誰と付き合うとか、どこの大学に合格するとか、仕事が原因でうつ病になる、とか。



「ねえ、そんなに未来のこと今の私に話して大丈夫なの? なんかさ、未来が変わったりとかしないわけ? もしかして、パラレルワールド的なのがあったりするの?」

「パラレルワールドなんてない。世界はいつも、一つだけ」



 そう言い残すと、未来の私は、私との別れを惜しむこともせず、あっという間に目の前から立ち去って行った。

 そして私はそっと、メモを削除して、聞いたことを忘れることにした。

 


   ※



 未来の私と出会って十年、いろんなことがあった。何度メモ帳を削除したことを後悔しただろう。就職した会社でこき使われ、うつ病を発症して、それでも頑張って働いた。けど、上司の失態を私のせいにされ、解雇された。それに合わせるように両親が交通事故に遭い他界。今は頼る当ても仕事もない。

 もう、死んでしまいたかった。

 私は自然と、スマホを開き、ネット検索で『自殺 痛くない 方法』と調べた。

 様々なサイトが列挙されるなか、下へ下へとスクロールしていくと、一つのサイトに目が止まった。



 過去改変自殺



 サイトを開くと、たった一つ、電話番号が記載されていた。私は何も考えず、その電話番号にかけてみた。数回コールが鳴った後、電話が繋がった。



「お電話ありがとうございます。要件は存じております。今から案内いたしますので、よくお聞きください」



 電話口の男はそう言うと、続けて話す。メモする暇もなく、私は集中して耳をそばだてる。

 すべての案内を聞き終え、電話は切られた。



    ※



 とある港にある、使われなくなった倉庫にやってきた。先日掛けた電話の案内で、ここに来るように指示された。周りに誰もいない事を確認して中に入ると、そこには、映像や画像でしか見たことのない球体のタイムマシンがあった。


 未来の私がやってきて十年、タイムマシンの技術は光のごとき早さで発展した。けれど、様々な危険性が浮き上がり、使用は禁じられたはず――。噂によると、政府が秘密裏にタイムマシンの実験をこうして行っているらしい。今の私にはどうでもいい。


 タイムマシンの横にはテーブルがあり、その上には一枚の紙と黒ぶち眼鏡が置かれていた。紙にはこう書かれている。



――この眼鏡には、あなたの身体状況の把握機能と、視覚情報の保存機能が備わっています。タイムマシンに乗る際は必ず着用してください。



 私は眼鏡を掛け、タイムマシンの中へ乗り込み、十年前の自分の元へと出発する。ピコピコと機械音が鳴り始める。五分くらい経ったころだろうか、機械音は鳴り止み、正面にあるディスプレイには、到着、と書かれている。外へ出てみると、どうやらここは橋の下らしく、左右を見渡すと、ここが河川敷だという事が分かった。私から遠ざかるように、制服を着た女の子が歩いている。私はその子の元へとゆっくりと歩み寄り、声を掛ける。


「初めまして。私、今から十年後の未来からやってきたあなたなの」


Twitter @mukai__ke1


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