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霧戦争二次創作シリーズ

霧戦争5期 第14週目日記

作者: SB2S

◆◇◆


「聞け。それは偽者だ。リー・インは死んだ」

 リー・インは死んだ。上司もそう言っていたし、大隊の死亡者リストにも載っていた。そのはずだった。それでもリー・インを名乗る男は目の前に現れたし、現にリー・イン像そのものの顔つきだった。もっとも、顔などいくらでも変えられる世の中ではある。本人かどうかを断じるには弱いだろう。

「でも現にリー・インと名乗る男がユニオンに来たんですよ」

 そこで、シズカ・バンクラプトは改めて上司に連絡を取った。禁忌戦争時代にリー・インと取引のあった上司は、リー・インは死んだと言っている。五年前の戦いで死なず、つい先日死んだのだと。ユニオンに現れた男は、そのすべてを否定してみせた。

「いいか。残像領域は不可思議な場所だ。思っても居ないような出来事が平然と町を闊歩するし、人はそれを気にも留めない」

「はあ」

「だからこそ、だ。自分の中に筋を通せ。芯を持て……線引きしろ。何を信じるか、信じないか」

「先輩の基準は何なんですか?」

「俺の直感だ」

「あてにならないんですよね、それ」

「簡単に言おう。簡潔なのは速い……必要なのは、だ。例のユニオン、ドッヂウォールに牙を向けぬよう革命を制御しきれるか否か。そのために、リー・インは邪魔か否か」

「まさか」

 思わず笑みがこぼれてしまうのが分かった。そんな事はありえない。聖ヨケルギウスの加護の下、信仰を持たぬものが勝利することなど。

「それは大丈夫です。革命の矛先は五大勢力と例の遺跡に向かっていますし、何より誰も本気で世界を変えようとは思っていないですからね」

「安心した……連絡は以上だ。俺は忙しくてな……」

「何かあったんですか?」

「経理に呼び出されてる。リー・インの香典について……」


◆◇◆


 ドラゴネット社だった場所には何も無かった。瓦礫や消火剤の痕跡、現場を封鎖するロープなど、何も無いわけではなかったが、見向きするものは一人も居ない。一週間前までの価値に比べれば、今は何も無い。

 それでも、人目につかないよう夜を選んだ。残像領域の夜は暗い。空からの光源は無い。街明かりというほどの眩さもなければ、ネオンも看板もない。手にした懐中電灯の明かりだけが支えとなる。夜目は利くほうだが、あって不便でなければ使うのが賢い。

 ロープを飛び越え(走り高跳びは得意だ)、敷地内に侵入する。価値を失ったとはいえ、警備に姿を見られれば拘束されることは分かっていた。なるべく”””手早く”””済ませたい。

 スニーカーの靴底が瓦礫の凹凸を感じさせる。鉄筋コンクリートの残骸は硬質で重い。埋もれているものを探すのは一苦労だ。まともに探そうとすればそれこそハイドラの手を借りるほか無いだろう。

 シズカは生身だが、苦労するつもりもなかった。胸の谷間から小さな石を取り出し、握り締める。あとは反応を見ながら歩き回れば任務は終わる。容易い仕事だった。

 敷地内を一通り歩き回ったところで、シズカの仕事は完了した。


 セーフルームに戻ると、シズカは錆び付いたコンロで湯を沸かし、泥の味のするお茶をすすりながらヨケニウム結晶を眺めた。虹色に光る小さな石。ドッヂウォールにとっての重要回収対象。もっとも、その程度の価値だ。五年前までは最重要対象だったが、今は一つランクが落ちている。

 ドラゴネット社にはある噂があった。ドッヂウォールはその噂を掴んでいた。ある重要な素材を手に入れたとの情報だった。

 だからシズカが派遣された。リキティ2から受け取った小さなヨケニウム結晶を使い、共鳴現象を用いてドラゴネット社跡地を探る。何も起きなかったことで、その噂が単なる噂話だった事が証明された。ドラゴネット社はヨケニウム結晶を手に入れてなどいなかったのだ。これでドッヂウォールのお偉方も安心するだろう。ヨケルヒルト・ドッヂウォール社長はその抜け目の無さで若くして上り詰めた女だ。聖ヨケルギウス体育大学の理事長でもあるので、シズカは命令されれば従うほかに道はない。

 ようやく一日を終えることができる。眼鏡をはずし、シズカはベッドに身を投げた。


◆◇◆

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