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理数系転生者の異世界考察  作者: とりのめ
プロローグ
6/6

強者との遭遇




(とは言え、何から話したものか…)

勿論、昨日までとは人格が違うことは話せない。兄にしろ母にしろ、次男が自分達より精神的に年上というのはいただけないだろう。やはりここは…


「えーっと、実は……」





…こちらでも、嘘をついた。前と比べて突飛で、あり得ないような嘘だったが、彼らは信じてしまった。安堵と共に、罪悪感とまた(・・)偽って生きていくことへの悲しみが込み上げる。きっとこの嘘が打ち明けられることは無いだろう。慣れていても、それでもきついものである。



「で、この液体はその『別人』の中の『科学知識』っていうので作ったの?過程は…まぁ分かったわ!………ホントよ?」

「ふーん、だから球についても知ってたんだ。でも、『他人』の記憶が入るなんて……一応、変な魔法がかけられてないか確認した方が良さそうだね」

「そうね……ならランス、今からラシをメリンさんのとこに連れて行ってくれない?あの人くらいしか頼りにならなそうだし」


彼は『メリンさん』のところへ行くことになった。『針の解呪師』とも呼ばれているらしい。今日は少し気分が落ちているので何もしたくないと言う彼を、ランスは引きずって部屋を出た。





「どこ行くのさ〜兄上〜?」

「…魔力不足なのは分かるけど自分で歩いたらどうだい、ラシ?」


絶賛気力失い中の彼はランスに背負われて街を進んでいた。



「……ラシさぁ、この間の森で何があったか知らないけど…家族は頼ってね?」

「………(森?)」


森…と思い出そうとしても覚えがない。思い出す気力が足りないのかも知れないのだが…これも魔力不足のせいなのだろうか?


(まぁ、いいや)

と、いつになく投げ気味な彼にランスは続ける。


「…まぁ、話したいと思ったら話しな。母上も気付いてるだろうし…ね?」

「…うん…?」


とりあえず頷いておいた、という彼の様子(間違っていない)にランスは、はぁ…と溜め息をつき、

「…『雷王様』来てないといいなぁ」

(雷王?)


少し気になった彼だが、気怠さと共にくる眠気に耐えられず、兄の背で寝てしまった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ふぅ、と弟を背負うランスは息をつく。


(…重くなったなぁ)

兄としては背中に感じる弟の成長を素直に喜びたいのだが…

(まぁ、言いたくないことができるのも…そうなんだけどなぁ……なんとも寂しいもんだね…)


複雑なものだ、と彼は呟く。ふと上を向くと、そこにはこの時期にしか現れない『門』があった。彼はその門の柱に手を触れ、

「……ご迷惑お掛けします、『門師』様。『開き給え』」

そう呟いた。直後、門の内側に青白い光が膜のように広がった。彼は弟を背負い直して、膜の中へと入る。


(どうか、居ませんように…)

と願いながら…



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



…目を開くと、森の中だった。


____ふふっ、今回の『君』は帰っちゃうんだね。


頭の中に、声が響く。


____いいよ、まだ開いてもいないから。けど、次の『君』まで待たないといけないのかぁ…


その声は、寂しそうで、悲しそうで…


____次の『君』は……そう、そこなんだね。今回の『君』、思い出してもいないだろうけど、忘れてね。もう君は、『君』じゃないのだから…


申し訳ない、と心の底から思える、そんな悲しい声は、どんどん、遠ざかり……


____じゃあね、【 】君。

体が青白い光に包まれた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うわぁ⁉︎」

「お!起きたかい、ラシ?」


気付くと、兄の背にいた。周りを見ると、そこは『森』ではなくどこかの建物の中だった。


(うん?なんで森なんか思い浮かべたんだ?)


頭にクエスチョンマークを浮かべていると、

「…ラシ、起きて早々悪いけど、しっかり掴まっててね!」


え?と考えさせる暇もなく、ランスは廊下の端の扉向かって走り出した。そちらを見ると…


_____バチイィィ!!

と、いきなり扉の外で放電が走った。


(……え?)


ランスは臆することなく扉へ向かう。その勢いは近づくほどに強くなり、ラシルトは兄が何をするつもりかを悟った。


(頼むぅぅ!兄上ぇぇぇぇ!)


頭を兄の背中につけ、ぎゅっ、とその体にしがみついた。


(向かいまで、届くかどうか……いや!ラシもいるんだ、届かせないと!)


ランスは扉の縁に左手と右足を掛け、一気に感覚を足へと向かわせ…

「『跳躍』!!」


叫びと共に、槍のように飛び出す。目指すは向かいの扉、約50メートル先。空を見ると、黒い雲がうごめき、所々で怪しく光っていた。


(⁉︎来るっ!まずい!)


運悪く、雷がランスとラシルトに迫る。わずかに見えたその光に、ラシルトは、

(くそっ!近くに絶縁体は……そうだ純水!!)


絶縁体とは言え無いとしても、純水の抵抗はかなり高い。初めての魔法の時のように、彼は水だけを集める。


(間に合えぇぇ!)


瞬間、彼らの周囲に水の膜ができ、雷を拒んだ。水は一気に蒸発し、熱が彼らに襲いかかるが、雷は当たらなかった。ランスは食いしばり、左足に力をこめて、

「『跳躍』っ!!」


少し削がれた勢いを補完し、増して扉へと突っ込んだ。


「ほぅ……?」


その少し驚いたような声は、ラシルトにしか聞こえなかった。





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