魔法の訓練
(さて、強く現象を思い浮かべる…だったか。要するにイメージ、想像力が重要なんだな)
「他にも、魔法の元『魔力』を提唱してる説や、神に祈ることで力を得るという説もあるよ。どれもこれも、確認されてないけどね」
(……神は無いとして魔力か。魔力が物質的なものなら何か体に違和感があるはずなんだが…全く無いのは体そのものが他人のものだからか、そもそも無いのか、だな)
その点、と彼は考える。魔力が精神的な、もっと言えば想像力と同義な、そんなものだとすれば…魔法は何らかの脳の作用によって引き起こされる現象かもしれない。
(………超強力な脳波、か?あり得るのか?外まで出る程強力な脳波なんて…脳の構造そのものが違うのか…?)
「まぁ、どれも強い魔法師が提唱してるから、それらを信じる力って言うのかな、そういうのが一番必要なんじゃ無いかな?ラシが信じる『魔法』を貫けばいいと思うよ」
……本当に9歳児か?と突っ込んでしまいそうになるが、うちの『最優』さんならまぁ、と納得してしまう。
(…なんか人生論みたいだな。取り敢えず一回やってみるか!)
最初に彼が思い浮かべたのは、あの実験だった。彼を科学の世界へと呼び込んだ、原点とも呼べる美しい、あの実験。
必要な物質は……水(H2O)、インジゴカルミン(C16H8N2Na2O8S2)、水酸化ナトリウム(NaOH)、グルコース(C6H12O6)…
想像力(=魔力)が現象を引き起こすなら……と、彼は目を閉じ、必要な原子や分子を思い浮かべる。…属性という概念を完全に忘れて。
水、水素H、酸素Oは空気中の水蒸気…
炭素C、ナトリウムNa、硫黄Sは地中の僅かな成分から……
分量は……覚えている限り正確に……
彼は目を閉じ集中していたが、アリスやランスは彼の周りの光景をただ呆然と見ていた。
地中から昇る青白い光を纏った黒、黄色、銀色。空中で乱反射する多数の水滴。ところどころで起こる小さな火花は、華やかな絵にアクセントを加える。
(どういうこと?火に水、土の粒。操ってるのは風?それとも念?あの青白い魔力は何?……少なくとも、4属性はある…)
この世と思えない程の光景でも、常識を知り、かつ冷静な人にとっては『異常』と言う他ない。アリスは顔を顰め、ランスは口を半開きにして、この異常を見守る。この光景が『異常すぎる』がために、それしかできない。
幾分かそうしていると、変化が起きた。
水滴が集まり、彼の顔の大きさくらいの水球になる。その水の玉が2つに分かれ、片方は近くの銀の粉と共に青白い光に包まれ、銀の粉を吸収した。その水球の一部がもう片方に流れる。
一方で、色々の粒は2ヶ所で集まり、青白い光がそれらを包んだかと思うと白い粉を生成する。その粉も、水球に吸い込まれていく。そうしてできた水球は、深い緑色をしていた。
(でき…た…後は…)
彼は最後の集中力を振り絞ってガラスを創り、透明な容器にして、できた水球を保存した。
(できる…もん…だ…な______)
彼は一瞬だけ目を開き、完成品を視認してから、気絶した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
目が覚めると…思わず手足を確認した。
(…ふぅ、枷は無い、と。……いや、あのビンが無い!マズイ!壊れにくくはしたが、限界はある!何処だ!?)
彼は飛び起き、周りを確認した。そこには殺風景な空間が広がるばかりで、それらしき物は無い。
「探してるのは、これかしら?」
「ひっっ!?」
突然、背後から恐怖の声が聞こえた。飛び返ると、さっき見た時はいなかったアリスが立っていた。手には、緑色の液体が入った透明な容器が。
「……あのさぁ、そのいきなり出てくるやつやめない?というかどういう原理なのそれ?」
「あら、私も驚かされたんだからおあいこでしょ?これでも我が子が気絶…それもほぼ自分からしに行ってるんだから。あと、人の魔法の原理を聞くのはタブーよ。敵対と思われるかもしれないし。それに…そういうのを自分で考えないと強くなれないわよ?」
自分から気絶しに行ってる気は無いんだが……と思うが彼は口をつぐむ。確かに自分の行動で気絶しているのだからそうなるだろう。それも親の目の前なのだから…
「……ごめん、心配かけて」
「いいのよ。心配かけるは子の愛、とも言うしね」
向こうにはなかった諺だが、彼にはすんなりと入った。親の愛が、子供を心配することならば…ということなのだろう。
「さて?そろそろ聞いておこうかしら?」
何を?と考え、思い当たる節がひとつしかないことに気づく。
「この液体は何?さっきの生成過程は?あなたはいくつの属性が使えるの?…さぁ!吐きなさい!」
…今回の尋問には助けは無さそうだ、と興味津々な感じで部屋に入ってきたランスを見た。
「うぅ…えーっと、そのぅ…」
彼は、慎重に弁明をし始めた。この子思いな母上を傷つけないように、兄に嫌われないように……
表現が難しいです。