魔法の使い方
次の日、俺ことラシルトは町(村に見えなくも無い)の教会へ連れてこられた。なんとここで『魔法』の検査をするらしい。
(取り敢えず聞きたい。…魔法って何だよ!?)
昨日何回か聞いた単語ではあるが結局分からずじまいだった。意外にも(失礼)、その疑問に答えたのは母上だった。
「復習するわ。まず、魔法というのは人族が約500年くらい前に確立した技術よ。他の種族はもっと前から魔法に属する術を使っていたのだけど、人族だけ使えていなかった」
どうやら大昔の人族は劣種だったらしい。おそらく人族のみ体のどこかが他種族と違ったのだろう。それを技術で補った、ということだろう。…今更だけど人間以外の知的生命体いるんだ、ここ。
「魔法は使える人とそうで無い人がいるわ。使える人も、ある一定の種類しか使えない。それを分類したのが、属性よ」
おそらく先天的なものなのだろう。技術にしてはいささか確定的でないが、本質を知らないので何とも言えない。
「ちなみに私は『回復』と『念』よ。それもかなり強力な。他には『火炎』、『水』、『風』、『地』、『聖』があるわ。普通は一人一個だけど、たまに2個とか持ってる人もいるわ、私みたいに」
強力、というのはどこまでその属性を使えるか、ということに対して、普通より多く使える、というのを指すらしい。どの属性がどんな働きをするかはまた後で、ということで今度は今日のことについてだ。
「今日は簡単な魔法の検査をするわ。属性こそ分からないけど、どれくらい強い魔法ができるか、を測るのよ。測り方は…行けば分かるわ」
何とも雑な…ただ仮に魔法を使えなくても、差別などは無いらしい。そういう人は大抵、手先が器用だったり、単純作業が上手かったりするからだ。逆に国にとって重要な生産を担っているため、尊敬される場合があるそうだ。
「さて、そろそろよ。頑張ってね」
そう言われて教会の方へ行く。
教会の扉の前には、朝早くなのにも関わらず多くの人が並んでいた。中には自分と同じくらいの子供もいた。どうやらこの歳くらいになると皆教会へ連れられるらしい。まだ教会は開いておらず、イライラとしている者もいる。
(これは裏口から入るの気まずいな…)
と思いつつも、明らかに不機嫌な顔をしている少女の前を通り、教会の裏へ入って行った。
教会に入るなり、神父さんのようななりのおじいさん、と言うかどう見ても神父さん、に、前に飾ってある水晶に触れるよう言われた。魔法が使える人は触ると水晶が光るらしい。
(それだけ?触るだけで光るものか?)
取り敢えず水晶に触った。けれど何も光らない。神父さんが、あぁ…といういかにも残念そうな声を出した。
(えぇ!光らないとそんな残念なの!?じゃあ……光れぇぇ!!)
瞬間、教会内が光に包まれた。
(うわっ、眩しいわ!光量小さくしろ!)
そう思うと突然、水晶の光が暖かく、ほんのり暗い光になった。
「むぅ!なんじゃ?…うむ?おかしいのぅ、確かに光っていたのじゃが…」
(ふぅ、これが丁度いいくらいだ。でも神父さんの反応を見るにもう少し明るい方が良さそうだな。だいたいマグネシウムの燃焼のときの光くらいの…)
そう思うと、そのくらいの光となった。まぁまぁ明るいのでラシルトは視線を水晶から外した。
一方神父さんは、驚きの表情で水晶を見ていた。
「おぉ!これほどの光とは!お母上に似てかなり強そうじゃ!よかったのう、ラシルト殿!」
どうやら強すぎたらしい。だが母上くらいなら大丈夫だろうと思い、ホッとした。あんまり目立ちすぎるのは良くないらしいからな(他人談)。
水晶から手を離し、最後に神父さんが渡してきた皮を持って母上のところへ戻る。
「どうしたの!なんか教会の中からすごい光が一瞬見えたけど!?もしかしてあんたじゃないでしょうね!」
この母上、拘束されてない時は普通に怖くない。まだ若い綺麗な女性である。こう焦っている時は年相応に可愛らしい。
「さ、さぁ?見間違いじゃない?あ、はいこれ、神父さんからもらったの」
俺は例の皮を渡した。そこには、【評価:S】とだけ書いてあった。その下には罫線とも思える線があったが、何も書かれていなかった。
「あら、Sって私と同じね。ランスはダンの血、ラシルトは私の血ってとこかしら?」
ちなみにランス兄さんはB+、普通より強い位らしい。あれでSだったら完璧すぎて怖いわ。それで?ダンって誰ですか?…『父上』ですかそうですか。きっと剣士とか戦士だったんだろうな、それも強いやつ。
そんなこんなで、家に帰ると…
「じゃ、検査も終わったし今日から魔法訓練始めるわよ!」
という事で町から戻っていたランス兄さんが素振りしている横で、魔法の訓練を始めた。
「じゃあ取り敢えず、触れずにこの葉っぱをなんとかしなさい!」
……早速壁にぶつかったようだ。
「なんとかって…なにをすればいいの?」
「なにって…燃やしたり、濡らしたり、吹き飛ばしたり…かしら?あなたの好きなようにしなさい」
うーん…そんな怪奇現象みたいなことしろって言われてもなぁ…質問を変えるか。
「じゃあ、それぞれの属性ってなにができるの?」
「うーん…大雑把に言うと、火炎は火、水は水、風は風、地は土を生み出して操れるわ。回復は命の力を増やせるの。念は…いろんなものに干渉?みたいなことができるし、聖は穢れを落とせるの」
なるほどなるほど、因果が意味不明だな。現象を生み出すとは……例えば火炎なら、熱エネルギーは何処から?…というかそもそも…
「ねぇ、どうやって魔法を使うの?」
魔法の使い方がわからない!
「どうやってって…こう、きゅぅーってやるのよ。それで、はぁーーって」
これはダメだ。うーーん…使いたい時に使えるってことはトリガーがあるはずなんだが………この場合、きゅぅー、にあたる部分か。
「あはは、相変わらずめちゃくちゃだねぇ母上!」
素振りを終えたらしいランス兄さんによると、どうやら母上の教え方はかなり酷いらしい。ベランダで三角座りしている母上は放っておいて、うちの『神童』様に教わることにした。
「実はね、魔法の行使の方法はこれと言って確立されていないんだ。というより、失伝した、の方が合ってるかな」
なんと約200年前に、いきなり魔法についての書物が全て無くなるという、異常現象が起きたそうだ。さらに不思議なことに、「無くなった」という事実は分かるのに、その本の内容については全く思い出せなかったそうだ。この時の混乱は、様々な文献に残っている。
(口伝じゃ残せる情報は少ないからな…重要な部分は書物に書いてあったってことか)
そもそも魔法の行使方法は、人族で魔法を初めて発現させたという『聖王』のみが知っており、彼の死後、発見された書物を写して写して、一般に出回るようになったそうだ。ちなみに隣国の聖王国の初代国王がこの聖王らしい。
「まぁそれでも、魔法研究はかなり進んだ方だと思うよ?さて、魔法行使のコツなんだけど…強くその現象を思い浮かべることが重要とされている。というのも、これは数十年前に提唱された理論でね。今のところ間違ってはいなさそうだから、学園でも使われているんだ」
(……一度ここの学者どもに理論とは何か説いてやりたい…)
それは置いといて…今は魔法である。なんでもいいが魔法を1つ、習得していることで得点に大きなプラスが付くらしい。取り敢えずどう生きていくかの決定の為にも、学園には行っておきたい。その為にも魔法という大きな壁は越えなければ。彼は改めて、気を引き締めた。
頑張ってます。