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盲目の歌姫と守護の剣士  作者: 三崎 悠弥
序章
4/4

3.現状把握と歌姫の目覚め

 ボクがこの世界でボク自身を認識してからどれだけの時間が過ぎたかはわからない。

 まだこの世界の時間軸などが把握できていないのも原因のひとつだが、1番の原因はやはり何も見えないボクの視力だろう。

 赤ちゃんの体で自由に動けない以上、ボクの情報源は母親と父親の言葉のみとなる。

 そこで判った情報を整理すると、ボクの名前がレティシア(愛称がレティらしい)であること、名字はライゴットということ。

 あの空間で言われたとおり、ボクは男ではなく女の子として転生してしまったこと。

 母親の名前がリグリッタ(愛称はリリー)、父親がヘンドリック(愛称はヘンリー)だということ。

 あと、くどいようだが、ボクの視力が無い。皆無なのだ。光すら感じることが出来ない。

 そしてそれによって大きな問題が発生していた。

 目が見えないことで、ボクがこの世界に転生した最大の目的である、前世の妹を見つけて守る事が出来ないのだ。

 そもそも現世は女の子なんだから、逆に守られる立場だというのは言ってはいけない。

 ボクは自身が女の子として生まれ変わっても、必ず妹を見つけ出し守ると誓っていたのだが……見えないので見つけようがないのだ。

 さらに困ったことに、ボク自身の見た目も前世とは異なっており、前世の典型的日本人といった感じの見た目から、薄い空色の髪に灰色の瞳といった見た目に変わっているらしい。

 らしい、というのは自分の容姿に関しても両親から語られるボクの特徴をアテにするしかないからだ。

 恐らく瞳の色が灰色なのはボクの視力に原因があるのではとかと思うのだが、つくづく目が見えないというのは不自由だと感じる。

 まあ何が言いたいかというと、仮にボクの視力が正常だったとしても、ボク同様、雫も見た目が大きく変わってしまっている可能性が高いということだ。

 しかも前世の記憶や意識を持ったまま転生してるのはボクだけだとあの世界で言われているため、前世の記憶をアテにすることも出来ない。

 どうしたものかと考えていると、部屋のドアが開く音が聞こえてリリーが入ってくるのが判った。

 視力が無いこともあってか、今のボクは残っている五感が強くなっていた。

 特に聴力は凄まじく、歩く足音で誰が来たか聞き分けられるほどだ。

 リリーが服を脱ぐ音が聞こえることから、恐らく食事の時間なのだろう。

 この歳(精神年齢)になって母乳を飲むというのは精神的にキツイが、体の方はまだ赤ちゃんなので半ば諦めている。

 早く普通のご飯が食べたいよ……。


「レティ、ご飯ですよー」


 リリーがボクを抱きかかえ、自分の胸元にボクを誘導する。

 流石に何度も繰り返している行為のため、暗闇の中でリリーの乳首を探して口に含む作業も馴れた。

 うん、ボクの歳で言うと何か色々とアウトな気がする。

 余談だが、リリーは結構大きい。もちろん何がとは言わないけど、大きかった。健全な元男子としては色んな意味でご馳走様です、と言いたい大きさだ。

 リリーはボクに母乳を飲ませ終わってボクの背中を叩いてゲップをさせると、いつもの子守歌を歌ってくれた。

 この世界の歌なので、ボクには馴染みの無いものだったが、毎日歌ってくれるために歌詞もメロディも頭に入ってきた。

 今日は考え事をしていたせいか、いつもと違い目がさえているので、軽い気持ちでボクもレディに合わせるように子守唄を口ずさんでみた。

 すると、ボクの口からは何故か、普通に言葉が出てきた。

 いつもの舌っ足らずの声ではなく、流暢で、音程もしっかりとした歌声。

 そして、自分でもよく判らないが、歌うことで身体から温かい何かが溢れていくような感じがする。

 ……一応言っておくが、お漏らしではない。

 突然のことに驚いて歌うのを止めたのか、ボクが歌い出して少しするとリリーの歌声が途絶えた。

 ボクはボクで、久々にまともな言葉が口から出せたことと、元々歌うことが好きだったため、不思 議な感覚も気にせず、調子に乗って終わりまで歌い続けた。

 歌い終わって一息つくと、その部屋には静寂が残った。

 いや、ただの静寂ではなく、良く耳を澄ますとリリーの静かな吐息が聞こえた。

 ……というか、リリーは寝ていた。


「おかーしゃ?」


 声をかけるが、大分ぐっすり眠っているらしく、ボクの呼びかけにも応えてくれない。

 ……あれ? ボク何かやっちゃった?

 何も出来ずにどうしたものか悩み出してそれなりの時間が経つと、どこからか複数の人の足音が聞こえてきて家のドアの前で止まった。

 うん、ものすごく嫌な予感がする。そしてその予感は的中した。


「ライゴットさん、起きていらっしゃいますか?」


 ドアをノックする音とともに、寝ていることが前提の声掛けがされる。

 声からしてそれなりの年齢の男性のようだけど、何で寝ていることが前提なんだろう?

 中からの反応がないことを確認した人たちは、家のドアを勝手に壊して中に入ってきた。

 ちょっと待て、ここが日本なら住居不法侵入に器物損壊だろ、こいつら。


「ライゴットさん、起きて下さい! ライゴットさん!!」


 部屋に入ってきた男性の一人がリリーを起こそうと叫ぶ。

 ちなみにリリーはボクの横で寝ている……つまり、母親を起こそうとすると、必然的にボクの真横で叫ぶこととなる。

 大分焦っている感じの口調だが、正直うるさい。


「う……。私、いつの間寝てたの?」


 何度か呼びかけられ、リリーは目を覚ました。ボクは耳元で何度も叫ばれ耳が痛い。

 多分普通の赤ちゃんなら泣いてただろう……。


「ライゴットさん、急に押しかけてしまって申し訳ありません。緊急を要する用件だったもので……」

「騎士団長様に司教様? 慌てた顔をなさってどうなさったのですか?」


 うぇ、扉を壊してまで家に入ってきたのは騎士団長と司教か……。

 まさかボク、悪魔認定とかされて再スタートした人生がいきなり終了するのか?


「ライゴットさん、単刀直入にお伺いします。あなたは何で眠っていたのですか?」


 司教が優しいながらも嘘をつくな、という意味合いを込めて言葉を紡ぐ。

 リリーはそのことに気付いているかいないか判らないが、ただ、事実だけを告げた。


「私はこの子に子守歌を歌ってあげていたんです。そうしたら、この子が同じ歌を歌い始めて、気が付いたら……」

「眠っていた、というわけですな?」

「ええ……」


 リリーの言葉を聴いていた司教は聴き取れるかどうかという小さな声で「何と言うことだ……」と呟いた。

 え、ちょっと待って。その反応は物凄く怖いんですけど?


「ライゴットさん、おそらく……といいますかかなりの高確率で、貴女の娘さんは歌姫としての資質があります」

「歌姫……ですか? レティが歌姫……」


 なんか新しいキーワードが出てきた。

 歌姫ってなんだ、歌姫って。歌が上手い女性歌手のことか?


「貴女の娘さん……いいえ、娘様は、恐らく歴代の歌姫の中でも1、2を争うほどの力を持っています。幼いながらにこれほどの力を発揮したことからして、まず間違いないでしょう」


 司教の語る言葉にリリーが息をのむのが聞こえ、ボクは大量の疑問符を浮かべる。


「まさかこの子を……レティを連れて行くのですか?!」


 リリーがボクの身体を強く抱きしめた。

 いや、不安なのは判るんだけど、ちょっと苦しいです、リリーさん。胸に殺される。


「いえ、母親としてまだ幼い娘様……レティ様を引き離されるのはお辛いと思います。昔の教会であれば問答無用で親子を引き離していたのですが、私はそのようなことは好みません」


 ああ、この司教はいい人だ……。

 ボクは直感的にそう思った。

 リリーもホッと胸をなで下ろしたのか、安堵の溜息が聞こえボクを抱きしめる力が緩む。


「とはいえ、このまま放っておけば、力の暴走によって甚大な被害を招きかねません。レティ様がある程度、大人の言葉を理解出来るようになったら、休息日を除いて毎日教会に通って貰い、そこで力の使い方について学んで貰います」


 そう司教はリリーに告げた。

 なるほど、今回みたいな自体が起こらないようにするためならボクも異論は無かった。

 何より、大人の言葉が理解できる、と言うのはある程度言葉が話せるようになってからという意味合いもあるのだろう。

 しかしリリーは、ボクと司教の斜め上を行く答を返した。


「それでしたら心配はいりません。レティは幼いながらも賢く、既に私たち両親の言うことを理解しております」


 おおおい?! リリーさん、ボクのこと過大評価してませんか?

 ボクは確かに言ってる言葉は理解できるけど、発声機能がまだ未成熟なせいか返すのは苦手なんだって!!


「なんと……何から何まで普通の子とは違う御方ですな……」

「私たちの自慢の娘ですから」


 驚きに満ちた司教の声と、自慢げに語るリリーの声を聴きながら、ボクは自分の愚かさを悔いたのだった。


この話で序章は終わりになります。

第一章が書き上がっていないため、1ヶ月ほど充電期間に入りますので、よろしくお願い致します。

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