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不思議な話

リアルとファンタジーの境


怖がりが書く微ホラー(?)2本立て

たいして怖くありませんが、怪談が苦手な方はそっとブラウザバック推奨

 

【夜泣き】


 私は夜泣きをする子どもでした。普段から寝つきが悪く、小さい本が一冊パタンと倒れた音で目がさめるような眠りの浅い子で、夢を見ては泣いて起きることもよくありました。

 当時同じ部屋で寝ていた兄は私と逆に眠りが深いので気づかれることも少なく、親の認識も『少し眠りに神経質な子ども』程度で大して気にもされませんでした。


 幼稚園の頃、親子の寝室は別でしたが、週末は家族揃って川の字で寝ることになっていました。両親の寝室に全員分の布団を並べる様が旅館のようで、そんな週末を割と楽しみにしていたものです。

 ある週末、私が珍しく夢も見ず途中で起きることもなく爽やかに目を覚ました朝。仏頂面の兄に「おはよう」より先に怒られました。


「お前、すごくうるさかった」

「え、しらない」

「お前が泣くからつられて〇〇(下の妹)も泣いて、二人でギャンギャン。俺、眠れなかったじゃないか」


 そう訴えられても全く記憶にございません。それどころか、私はものすごく久しぶりにぐっすり眠った充足感でいっぱいです。しかも、何やら怪しいことを口走っていたようで。


「山の神さまって何? 何の夢見てたの」

「ゆめなんて見てないよ」

「『山の神がくっついた』って叫んでた」


 母親に聞けば、確かにそう言って泣き喚いていたと兄の言葉を肯定されました。揺すっても体を起こしても目を覚まさず、ある一点を指さして繰り返し泣き叫んでいたのだと。

 ここまでしつこく泣くのは初めてでしたが、軽いのは今までにもあったそうです。その後も何度となく同じことが続き、その度に出てくるのは『山の神』。追いかけてくる、とか、そこにいる、とかの時もありました。当の本人はさっぱり覚えていないのも毎回のことです。

 父方の祖母には、この子には何か憑いているんだから(断定!)祓ってもらってきなさいと言われるまでになりました。

 両親とも信心も霊感もありません。信じたわけではありませんが、祖母の進言も私の夜泣きもうるさいことは確かです。仕方ない、この週末に神社にでも連れて行くか。そう決めた晩から私の夜泣きはピタッとおさまりました。

 治った私がお祓いに連れて行かれることもなく、今では笑える思い出話のひとつではありますが。

 ……山の神とは、何だったのでしょうね。





【3番目の家】


 小学校の頃、引っ越しをしました。同じ市内でしたので、大物は業者に頼みましたが運べるものは自分たちでと軽トラを借りての引っ越しです。子どもたちも教科書や本など、自分のものは自分で梱包したり掃除したりとわさわさ動いていました。

 新居は地方によくある戸建ての平屋。部屋割りは、兄が個室、私と妹が同室です。二段ベッドが入れられ、学習机や本棚など予定通りに配置されていきます。二段ベッドのちょうど頭側に幅一間の腰高窓があり、そこは外置きの物置小屋と洗濯物を干したりする小さめの裏庭に面していました。

 夜、割と遅くまで頑張って片付けていましたが、さすがに疲れて、まだダンボールが残る中布団に入りました。


 成長しても寝つきの悪さは相変わらず。布団に入ってから1時間くらいも経ったころにようやくウトウトしだしました。と同時に窓の外から音がします。何だろう、と耳をすますとどうやら砂利を踏む足音です。時折ぱちりぱちりと手を叩く音も聞こえます。それがだんだん近づいてくるのです。

 この家は正面の玄関側は大きなバス道路に面していますが、残りの三方は隣家に囲まれています。よって、通行人が家の裏側を通ることはありえません。そう考えれば隣家の方ですが、ブロック塀と植栽があり、裏庭に入ることは通常不可能です。しかもこんな夜更けに。

 第一、音はこの家の敷地内、外壁に沿って向こうからこの窓のすぐ前に近づいてくるように聞こえるのです。

 そして閉めてあるカーテンのすぐ向こうでぴたりと止まりました。


 ぞっとしました。


 布団に潜り込み、耳を塞ぎ目をぎゅっと閉じますが、気配は消えずこすり合わせるように手を叩く音も続きます。まぶたの裏に浮かぶのは、見知らぬおじいさん。くたびれたポロシャツにスラックスを履いて、痩せて短髪。薄青く発光した姿で顔は下を向いているのに、目が合いそうで、でも私は自分の目は閉じているのにと、もう、わけがわかりません。ただ、今そこの窓の前に立っているのは人ではない、そう強く感じました。


 急に二段ベッドの下にいる妹が心配になりました。恐る恐る布団から顔を出し暗闇に慣れた目をこらせば、スヤスヤ眠る妹。普段通りの妹を見たら少し落ち着きました。どきどきする胸を押さえて深呼吸をしていると、ぱちりぱちりと手を叩きながら砂利を踏む足音がゆっくり遠ざかっていきます。

 すっかり気配がなくなってようやく、私は倒れこむようにして眠りに落ちたのでした。


 翌朝、夜中に何か聞こえなかったかと妹に聞きましたが、何のことやらと不思議顔。妹は家族で一番カンが強く、もしあれが幽霊的なものならば何か気づいているはずです。否定されて、まだ低学年の妹を怖がらせるのも何なので、それ以上は話しませんでした。

 深夜の訪問は一週間くらい続いたでしょうか。気のせいだと自分に言い聞かせているうちに、無くなりました。恨めしげに見上げられるのは困りましたがどうしようもありません。諦めて帰っていくのを見送るばかりでした。


 数年後、その家からまた引っ越しをする時。荷物をまとめながら妹が、そういえば、と話しかけてきました。


「ここに越して来たばっかりのころ、夜中におじいさん来たったねえ」

「そうそう、手ぇ叩いて……って、なんで知ってんのっ!?」


 妹はしてやったりという顔です。


「私も見えてたけど。お姉ちゃんが怖がるかと思って、知らないふりしていた」


 一人で見たなら夢だった、気のせいだと言えます。でも二人で同じものを見ていたら、夢と言い切れたでしょうか。自分も見たし聞こえていたと言ったら……怖がりな姉は、そこまで考えた小さな妹にしれっと守られていました。

 そんな気遣いやの妹は、もうここも出ていくし話してもいいよね、と悪びれもしません。


「こんなふうにしてさ、ぼやーって光ってて」


 ジェスチャー付きで再現されたそれは、私の記憶と全く同じで――荷造りを中断して、しばしきゃあきゃあと騒いだのでした。




よくある話ですが、お正月に帰省して思い出したので。

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